身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

画像1: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.18 アディダスの古着のトラックパンツ

 Vol.16でお伝えしたように、筋金入りのインドア派で、運動には全く縁がありません。が、先のオリンピックは毎年2回ファッション・ウィークの取材に行く愛着のある街、パリで開催されていたことからちらちら観ていました。とくにマラソンは、パリ市庁舎やアンバリッドといったおなじみのショー会場に加え、オペラ座やコンコルド広場に近い定宿周辺の見慣れた風景が流れて楽しい。そうして競技の行方を追っていると、やはり職業柄、選手が着ているユニフォームが気になってきます。あらゆる有名スポーツブランドのロゴが躍っているのを見ながら、そういえば私はどこが贔屓なのかな、とぼんやり思いを巡らせたのでした。

 機能性開発の頂上決戦の場であるオリンピックを引き合いに出しておいて恐縮なのですが、運動するわけでもなく着心地にも関心がない私が重視するのはデザインのみです。クローゼットを見回すと、一番持っているのはアディダスのスリーストライプスのアイテムなのでした。

 スポーツウェアをファッションとして楽しむのはもはや普通のことですが、歴史を振り返れば、「テニスシューズ」が「スニーカー」と呼ばれるようになって市民権を得たのは、1973年にアディダスが人気テニス選手の名を冠した「スタンスミス」を販売した頃から。80年代にはRUN-D.M.C.を中心にヒップホップの世界でアディダスのスニーカー「スーパースター」やスリーストライプスのトラックスーツが「ストリートウェア」として脚光を浴びます。そして、個人的に思い出深いのは、「アディダス」をテーマに掲げた2001-02年秋冬ヨウジヤマモトでしょうか。スリーストライプスが走るアシンメトリーなシルエットの服と「アディダス フォー ヨウジヤマモト」のスニーカーが登場し、モードの世界にこんなに大胆にスポーツを持ち込むとは!と驚いた記憶があります。発売当時私は神戸の百貨店内のコム デ ギャルソンで販売員として働いていて、同じエリアにあるヨウジヤマモトの店舗を横目で見ていたのですが、ライバル会社(?!)に手を出すわけにはいかないと勝手に自制し、アディダスで似たタイプのスニーカーを購入したのでした。このあたりから、ファッションブランドとスポーツブランドのコラボが多発するようになっていきます。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.18 アディダスの古着のトラックパンツ

 そんなわけで、何となくスポーツとファッションを結びつけるきっかけとなったのはアディダスであるような気がしてきますが、アディダスのデザインに私を含むファッション好きが惹かれるのは、他ジャンルのワードローブにも合わせやすい、スリーストライプスの簡潔さやシンプルな色使いが大きいのか。私が一番重宝している黒地に白のスリーストライプスが入ったナイロンのトラックパンツは、シックなスタイルにもしっくりきて、それでいてスポーティではあるのでちょっと「外した」感じも出ます。ちなみに私が持っているアディダスは、コラボものやシューズを除けば古着のみ。スポーツをするわけではないのにパリッとした新品だと宝(機能性)の持ち腐れであるような気がして申し訳なく、少々年季が入ってくったりしているくらいの方がこちらも落ち着くからです。

 しかし、シンプルなデザインなら、他のスポーツブランドでもたくさん見つけることができるような。ではなぜ私はアディダスを思わず手に取ってしまうのか。完全に好みの問題だと思われますが、ということはつまり、私の根底にはアディダスのトラックスーツにゴールドのごついアクセサリーを合わせて楽しんでいた1980年代ヒップホップ界の人々と同じバイブスが流れているのかもしれません…!

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.18 アディダスの古着のトラックパンツ

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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