BY MAKIKO TAKAHASHI, PHOTOGRAPHS BY MASATOMO MORIYAMA
造形的なニットウエアで注目される気鋭の日本ブランド、CFCL。コンピュータープログラミングの技術を駆使し、現代を生きる人々の道具としての衣服という視点でニットウエアを提案している。デビュー以来、再生ポリエステルを主軸の素材としているなか、このたび日本古来の草木染めによる国産シルクのニットドレスを展開。9月8日まで、京都の商業施設「新風館」でポップアップイベントを開催中だ。
CFCLの代表兼クリエイティブディレクター高橋悠介と、今回「古代染色」で協業した京都・西陣織の老舗、HOSOOの細尾真孝社長は、以前から「一緒に食事する仲」だったという。細尾社長は元禄元年(1688年)から続く細尾の12代目。伝統技術を用いながらも、従来の帯幅の限界を越えて世界で展開するHOSOOの革新的なテキスタイルは海外のハイブランドからも高い支持を得ている。二人に古代染色の魅力や苦労、ものづくりの未来について語ってもらった。
高橋 私は前職(イッセイ ミヤケ メンのデザイナー)のころから京都の染色工場や職人さんとのご縁があり、最初はそうした友人から細尾さんをご紹介いただいたことが出会いのきっかけでした。細尾さんは日本の伝統を海外に受け入れられるように発信したり、今の時代におけるアップデートとはどういうものかを真剣に考えたり、私のモチベーションとフィットしているとずっと感じていました。畑まで作って古代染色を始めると聞いて、ニット製品を主体とする自分には入る隙間がないかなと思いながらも、ぜひ見たいと研究所にお邪魔したのが、2021年8月でした。
細尾 その1年前に、古代染色家の第一人者、山本晃さんに顧問として来ていただいて、細尾の工房近くの京町屋の中に研究所を作っていました。山本さんは、この道のレジェンド、と言われた故・前田雨城さんに師事された方。特に平安時代に天皇・貴族が衣の美で競い合っていたころの最高峰の染色の流れを組む方法を継承しています。
高橋 私が訪問した時は鍋で煮立てて染色していましたよね。その色がとても美しくて、鮮烈に記憶に残りました。
細尾 自然染色って、一般的にはくすんだような色のイメージがあるけれど、平安時代の衣の色はとても鮮やか。それには、超軟水の井戸水や、植物の鮮度が大事。媒染(染料を繊維に定着させる工程)でも、たとえば当時、色の位で一番とされるニホンムラサキの場合は、椿の枝葉を焼いた灰を濾して井戸水に入れて媒染すると色がくっきり出てくる。いい水と昆布と鰹節と手間暇が重要な和食と同じです。
高橋 だから、畑まで作ったんですよね。
細尾 ニホンムラサキは絶滅危惧種で手に入りにくいから、自分たちで栽培するしかありませんでした。それに実は高山植物で、最近の温暖化で苦心しましたが、なんとか京都・丹波に畑を作ることに成功。藍も平安時代のように、発酵ではなく、摘みたてのフレッシュな葉で染めるとクリアな青が出ます。
高橋 話を聞いているだけでもわくわくしますね。今回は京都で初めてのポップアップですし、京都という土地柄では本質的なものでないと受け入れられないと思いました。そこで思い出したのが細尾さんのシルク染色の美しい色。今年2月のパリ・ファッションウィークでの発表に向け、クリエイションの幅を広げるために初めて上質な天然素材のシルクやカシミアを使い始めたタイミングでした。
細尾 もともと医学の「服用」という言葉は古代染色から来ているという説があります。昔は衣が薬でした。体に良いものイコール美、というのが古代染色の考え方なんです。CFCLは自然環境に配慮しながら現代的な感覚を持って服を作っています。一方でうちの古代染色は自然の植物を身にまとうわけだけれど、植物は1つ1つの個体が違うし、土壌や年によっても変わることも含めて、自然と共生せざるを得ない。自分の中でつながりました。
高橋 私には、日本古来のものや国内にある産地の素材を使って次の時代に向けて発信していきたい、という希望があります。日本は、古代染色のように千年以上も受け継がれた技術が存在するように、ものづくり大国としての歴史が深い。それを世界にチャレンジしていく時のアドバンテージとして使わない手はないですよね。
細尾 過去の中に未来があるということですね。HOSOOでは、2020年に京都、西陣で古代染色研究所を立ち上げ、1000年以上昔、日本において実践されていた「自然染色」「植物染」の再現の研究を行なってきました。自然染色のものって、時を経ることでまた美しく変わっていく。それにしても、今回のコラボレーションは楽しかった。大変だったけれど。
高橋 思った以上に大変でしたよね!いままで扱ってきた再生ポリエステルと違って、シルクの製品染めにおける伸縮率や色の定着、堅牢度がわかっていなかったので悩みました。季節的に染められる植物のタイミングから茜と梅の2色でドレスを染めましたが、制作過程で新しい発見がいろいろあって自分たちの経験値も上がりました。
細尾 細かいことを探っていく作業でしたよね。それでおそらく世界でも我々にしかできないものが出来上がったと思います。
高橋 大阪万博での巨大な西陣織のドーム建設構想など、細尾さんのスケールの大きい圧倒的なチャレンジにも、刺激を受けています。
細尾 ありがとうございます。日本はファッションも工芸も、クラフトマンシップという強みがあります。お互いのそれがしっかり混ざり合って熟成させれば、世界があっと驚くようなものが作れるのでは。
高橋 細尾さんとよく話していますが、日本のシルクは戦後に世界でも大きなシェアを占めていたし、なによりも高品質。各地の養蚕とクラフトが密接につながっていたと思います。
細尾 シルクって6,000年も前から人と共にあって、日本には着物文化があったけれど、今や斜陽産業。ただ、まだぎりぎりもう一度挑戦できるタイミングだと思います。いま、CFCLのようにB Corp認証取得や、AIなどの活用の可能性を研究しているところで、自分たちの見える場所と環境でやれたらいいなと思っています。
高橋 細尾さんの仕事はきちんとしたストーリーができ上がっています。どこのどんな人によって作られているのか。日本のサプライチェーンには一つひとつにストーリーがあることが強みです。これから先は、アウトプットまでにストーリーが存在するのが新しいクリエイションの形だと思います。今後も細尾さんとのコラボレーションのようなプロジェクトを広げていきたいと思っています。
CFCL POP UP KYOTO
開催期間:~2024年9月8日(日)
住所:京都市中京区烏丸通姉小路下ル場之町586-2 新風館1F
お問合せ
TEL. 075- 585-6611
メール. support@cfcl.jp
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