BY LINDSAY TALBOT, STILL LIFE BY SHARON RADISCH, SET DESIGN BY VICTORIA PETRO-CONROY, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
イヴ・サンローラン(1936~2008)は、アルジェリアのオランにある地中海を見下ろす家で育った。父親は保険会社を経営し、数軒の映画館を所有していた。10代の頃、サンローランは演劇に夢中になり、木箱でミニチュアの舞台まで作り、ボール紙で作った人形に、自分でデザインして、母親のドレスから布地を切り取って作った衣装を着せた。1954年、18歳でパリに出てサンディカ・パリクチュール校でファッションデザインを学ぶ。それから1年もたたないうちにクリスチャン・ディオールと出会い、その場でスタジオ・アシスタントとして雇われることに。1957年、ディオールの急逝を受けて、サンローランは21歳にして世界最年少のクチュリエとなった。1960年にメゾンを解雇されたものの、翌年にパートナーでもある実業家のピエール・ベルジェの支援を受けて、パリ16区にある広々とした集合住宅の一室に自身のクチュールサロンをオープン。サンローランの服は細部にまでこだわる緻密な作りであると同時に――船乗りの上着に着想を得たピーコートは、白いシャンタン素材のパンツと合わせられていた――その服は、女性の身体を解放するものだった。1962年春夏のショーに始まり、1979年秋冬から2002年のラストのオートクチュール・コレクションまでほぼ毎シーズン、ショーではひとりのモデル(たいていはそのシーズンいちのお気に入り)が、ロジェ・シェママの作製したハート形ネックレスをつけていた。サンローランはこの「クール・フェティッシュ」(ハートのラッキーチャーム)が大好きで、オリジナルのペンダントとその後続バージョンのひとつ――スモーキーなグレーダイヤモンドと赤いクリスタル、ティアドロップ形のパールカボションをちりばめたアシンメトリーなデザインーーを、バビロン通りの私邸に保管していた。
現在、「サンローラン」のクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロは、このアーカイブアイテムを2024-’25年秋冬コレクションで復活させた。カラーラインストーンと、いぶしたようなシルバーメタルでできた新作ネックレスは、今年2月に開催されたパリ・ファッションウィークでのショーで、モデルの背中に垂れ下がるようにかけられ、透け感のあるキャラメルベージュやオークルのブラウス、ペンシルスカートといったアイテムとは対照的な、まばゆい輝きを放っていた。「情熱をハート形にして女性の首にかけること以上に美しいものがあるだろうか?」と、かつてイヴ・サンローランは記した。それに対するヴァカレロの答えが、このネックレス。親切なことにブローチにもなる仕組みだ。
PHOTO ASSISTANT: CHRISTOPHER THOMAS LINN. INSET: © YVES SAINT LAURENT
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