1年で最もチョコレートが身近になるバレンタインデー。その陰で、いま危機に瀕しているカカオの原種を救おうと、ショコラティエたちが地道な戦いを続けている

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS ARISA KASAI

 カカオの森が危機に瀕している。
 そう聞けば、温暖化などで地球の自然環境が変化し、森に影響を与えているのだろうと考えるかもしれない。しかしパティシエのフレデリック・カッセルは、今、人の手によって森が壊されているのだと言う。

 カッセルは日本でも有名なパティシエであり、ショコラティエである。フランス・パリ郊外のフォンテ―ヌブローに店を構え、世界15カ国、87名のパティシエが加盟するお菓子協会「ルレ・デセール」の会長も務める。チョコレートシーズンが始まる1月に来日したカッセルに、カカオの森の現状を尋ねた。

画像: フレデリック・カッセル 1967年、フランス北部アブヴィル生まれ。ポール・マニュにて飴細工を学んでいた頃にピエール・エルメ氏と出会い、1988年から「フォション」で修行。エルメ氏から“最高の素材と厳格な仕事”を学ぶ。1994年、高品質の食を求める人たちが多いことで知られる、パリ郊外のフォンテーヌブローにて自身の店をオープン。2002年にはショコラティエとサロン・ド・テも展開する

フレデリック・カッセル
1967年、フランス北部アブヴィル生まれ。ポール・マニュにて飴細工を学んでいた頃にピエール・エルメ氏と出会い、1988年から「フォション」で修行。エルメ氏から“最高の素材と厳格な仕事”を学ぶ。1994年、高品質の食を求める人たちが多いことで知られる、パリ郊外のフォンテーヌブローにて自身の店をオープン。2002年にはショコラティエとサロン・ド・テも展開する

「昨年1月、ドミニカ共和国のLoma Sotavento(ロマ・ソタヴェント)村を皮切りに、『カカオ・フォレスト』と呼ばれる活動が始まりました。ここ数年、古くからのカカオの木を抜いて、ハイブリッド種『CCN51』に植え替える農園が増えてきました。ハイブリッド種は病気に強く、すぐに成長する。手間ひまをかけずにカカオが収穫できるのです。しかし、この樹を植えることで森の環境破壊が進み、生態系が崩れてきています。数十年後には、森全体が破壊されてしまうでしょう」

 在来種のカカオの木のまわりには、ヤシの木が必ず植えられ、風雨や虫からカカオを守っている。しかしCCN51を植える農園は、このヤシとカカオを両方抜いて肥料と農薬を散布する。ヤシの木も抜いてしまうことで、森の生態系が急激に変化しているのだという。

画像: 収穫後のカカオポッド。ひとつのポッドから、20~40個のカカオ豆がとれる COURTESY OF CACAO FOREST

収穫後のカカオポッド。ひとつのポッドから、20~40個のカカオ豆がとれる
COURTESY OF CACAO FOREST

 ハイブリッド種CCN51は香りも風味も本来のカカオとは比べものにならないが、生産コストを抑えることができて量産も可能なため、カカオ市場を席捲しつつある。大量生産のチョコレートやクッキーなどカカオパウダーの製品をおもに製造販売する大手企業は、このハイブリット種に頼っているのが現状だ。

 一方、量より質を大切に、カカオを選び、チョコレートを作っているカッセルのような一流ショコラティエのカカオ使用量は、世界のカカオ生産量のなかでは微々たるものだ。しかしここ数年、ショコラティエが厳選して使うカカオの世界にまで、CCN51の波が押し寄せてきた

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