フードライター北村美香が自信をもっておすすめする美味の店。その技と思いを凝縮した「食べるべきひと皿」とともに、おいしさの理由をひもとく連載第3回

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA

「バー」とは言うものの、純然たるバーではない。「jiubar(ジュウバー)」とは、中国語で酒場の意味だ。気軽に中国料理を楽しめる酒場として、昨年4月にオープン。店名同様、中国料理の王道を少しはずしてひとひねりした味と、ワインはもちろんハイボールやクラフトビール、クラフトジンまでを揃えた“中華バル”だ。謎めいた立地も、人を惹きつける要因だろう。

 神楽坂のメインストリートに面しているが、スムーズにたどり着ける人は少ない(はず)。エレベーターのない古いビルの階段を3階まで上っても、看板はない。素っ気ない鉄の扉に手書きのメモがペラリと貼ってあるだけ。ある日は「クラフトジン、いかがでしょう」、別の日には「〆のカレーあります」。このメモ以外、どこにもお店の名前が記されてないのだもの、誰だって不安になる。初めて訪れたとき、そーっと扉を開け、ダウンライトのムーディーな灯りにほっとする反面、ここがジュウバーであることを確認できるまでドキドキ。この隠れ家感に心くすぐられた。

画像: 1枚板のカウンターからは街路樹が見える。お酒のラインナップは豊富で、「泡」も充実。写真はフランスのスパークリングワインで、1本¥4,500。ほかに長野県産シードル、ランブルスコと揃う。ドリンクメニューは、ウイスキーやワイン、紹興酒のほか、自家製シロップで作るレモンサワーや、ミントの代わりにパクチーを使うモヒートなども

1枚板のカウンターからは街路樹が見える。お酒のラインナップは豊富で、「泡」も充実。写真はフランスのスパークリングワインで、1本¥4,500。ほかに長野県産シードル、ランブルスコと揃う。ドリンクメニューは、ウイスキーやワイン、紹興酒のほか、自家製シロップで作るレモンサワーや、ミントの代わりにパクチーを使うモヒートなども

 店内はカウンター8席とテーブル11席。カウンターに座れば、ライトアップされた街路樹の緑が大きな窓から見えて、気持ちが晴れやかになる(冬は落葉していて見られないのが残念)。

 ここで必ず頼むのが肉団子。初めて訪問したとき、「肉団子はどこで食べてもおいしいけど、メニューのトップに書かれているから一応頼むか」。そんな気持ちで注文した愚かな私は、ひと口食べて、心をわしづかみにされた。キリリと爽やかなトマトソースをまとった肉団子の旨味がじゅわんと広がり、複雑な辛味がキリリと味を引き締めていた。辛味の中でも、爽やかな感じが特に印象的。いままで食べた肉団子とは異なる味わいだ。

画像: 「ジュウバーの肉団子」¥680。ランブルスコ(中辛口)1本¥3,800。 メニューはアラカルトのみで、一皿¥680〜¥2,000、ビールやグラスワイン一杯¥680とお値段はリーズナブル

「ジュウバーの肉団子」¥680。ランブルスコ(中辛口)1本¥3,800。
メニューはアラカルトのみで、一皿¥680〜¥2,000、ビールやグラスワイン一杯¥680とお値段はリーズナブル

 肉団子は、ゆでて揚げることがほとんどだが、ここでは揚げてから蒸す。揚げることで肉の旨味を封じ込め、蒸すことでふっくらとした口当たりに。美味しさの秘密は、「魚香(ユーシャン)」と呼ばれる自家製調味料と青山椒だ。

 魚香は川上武美店長が中国・四川省を訪れたときに出合った調味料。現地の豆板醤や朝天唐辛子を使った酸味と辛味、甘味が渾然一体となった味わい。これを加えたフレッシュトマトのソースを肉団子にからめ、生の青山椒をパラリ。本場では肉団子に魚香を使うことはないが、禁じ手をあえて使い、いままでにない味を演出している。やはり中国・成都で仕入れてくる生の青山椒の香気が華やかで、清々しい。

画像: 店長の川上武美さん。お店の立ち上げに際して、何度も中国を訪れて勉強。いままでにない店を作ろうと、このスタイルを考えた

店長の川上武美さん。お店の立ち上げに際して、何度も中国を訪れて勉強。いままでにない店を作ろうと、このスタイルを考えた

 このお店を好きな理由は、もうひとつある。イタリアの微発泡赤ワイン「ランブルスコ」を必ずおいているのだ。シュワシュワと軽やかでフルーティーで辛口。赤ワインなので、軽やかなタンニンが肉の脂分を洗い流してくれる。肉団子との相性がよい。

 ほかにも、パクチーのポテサラをはじめ、きのこのオイスター炒め、ゆでワンタン、レバニラ、回鍋肉、酢豚などなじみの味を、ときにはスパイスやハーブを効かせたり、ときには添える野菜を目新しいものに変えたり。〆には「中華屋のカレー」を。どれもジュウバー流に仕上げてあり、「ひとひねりの味」を楽しめる。

 しっかりごはんを食べたいときも、小腹の空いた深夜にも、バーとしても。新しい中国料理のスタイルがしっかり受け入れられて、たちまち人気店となっている。

jiubar(ジュウバー)
住所:東京都新宿区神楽坂2-12 神楽坂ビル 3階
営業時間:18:00〜26:00(LO)
定休日:日曜・祝日
電話:︎ 03(6265)0846
公式サイト

※本記事の内容は、取材時点の情報になります。最新情報につきましては、直接お店までお問い合わせください。

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