和菓子には、食べるだけでなく見る楽しみもある。江戸時代から続く「工芸菓子」は、また新たな和菓子ワールドへと誘ってくれる

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 梅や紅葉、椿といった植物や、稲穂をついばむ可愛らしい雀。赤、緑、青と極彩色の羽をもつ南米のインコなど、まるで本物かと見紛うような色鮮やかな工芸品の数々。じつはこれ、すべてお菓子でつくられたものだ。桜は一枚一枚の花びらに淡いグラデーションが施され、木は風雨にさらされたような趣が、あるはずのない樹齢を感じさせる。まるで命を吹き込まれたような精巧な工芸菓子には、圧倒されるばかりだ。

画像: 日本の花鳥風月が凝縮された「四季」。昔ながらの里山を思わせる。中央の雉は、「宗家 源吉兆庵」の創業の地・岡山の「桃太郎伝説」に由来する

日本の花鳥風月が凝縮された「四季」。昔ながらの里山を思わせる。中央の雉は、「宗家 源吉兆庵」の創業の地・岡山の「桃太郎伝説」に由来する

画像: 「四季」の中には梅とウグイスも。“日本らしさ”が細やかに表現されている

「四季」の中には梅とウグイスも。“日本らしさ”が細やかに表現されている

 これらの作品は、「宗家 源 吉兆庵 銀座本店」で現在開催中の「お菓子でつくる彩色の美 世界の花と鳥展」で見ることができる。今回展示されるのは、日本最大級のお菓子の祭典「全国菓子大博覧会」の「お伊勢さん菓子博2017」にて名誉総裁賞を受賞した職人による工芸菓子。日本の四季だけではなく、ハワイの花の伝説に基づく「ベニハワイミツスイ」や、アフリカや東南アジアに生息する「ハタオリドリ」など、世界の珍しい花や鳥に出合うことができるのも楽しい。

画像: 「ベニコンゴウインコ」は「本物?」と思ってしまうほどの迫力。目だけがガラス製だが、ほかはすべてお菓子でできている

「ベニコンゴウインコ」は「本物?」と思ってしまうほどの迫力。目だけがガラス製だが、ほかはすべてお菓子でできている

画像: 見るほどに驚かされるのが、ディテールの細やかさ。色合いもそれぞれ異なる羽の一枚一枚に、職人の技術の高さを実感

見るほどに驚かされるのが、ディテールの細やかさ。色合いもそれぞれ異なる羽の一枚一枚に、職人の技術の高さを実感

 工芸菓子とは、もともとは元禄・享保年間(1688~1736年)に大奥の女性たちへの献上品として作られたもの。食べるというより「鑑賞」を目的としたものであったという。「宗家 源 吉兆庵」では、この和菓子の伝統文化を次世代へ伝えたいとの想いから、17年ほど前に工芸室を設置。工芸菓子の職人は現在4名で、販売用の菓子を作る職人とは別に、専門のプロジェクトチームを組んでいるという。工芸室室長であり、「お伊勢さん菓子博2017」の名誉総裁賞受賞の原動力ともなった祇園公子さんに話を聞くと、こんなことを教えてくれた。

「工芸菓子は、砂糖、白あん、米粉のみを材料として作ります。お菓子には“花鳥風月”を映すことが大前提。その中で、自然界にある美をどのようにお菓子で表現するか、また、どんな題材を選べば見る人の心に訴えることができるのか、たえず皆で研究しています」

 彼女の話を聞いて驚いたのが、使用する色がわずか3色に限られていることだ。白は素材そのものの色で表現できるが、それ以外は赤、青、黄色のみを用いてすべての自然界の色をつくり出すのだという。

画像: 工芸室室長、祇園公子さん。 「ひとつの作品にはチームで取り組みますが、私は近年、鳥担当です」とほほえむ。店頭にも雀やうさぎなどの工芸作品が飾られている

工芸室室長、祇園公子さん。
「ひとつの作品にはチームで取り組みますが、私は近年、鳥担当です」とほほえむ。店頭にも雀やうさぎなどの工芸作品が飾られている

「同色系の素材を濃淡違いで2種用意し、互いに練りこむことで色のグラデーションを生み出します。でも、色合いが美しくできても、まずは工芸菓子の“組み立て”をきちんとやらなくては台無しになってしまいます。たとえば難しいのが花。自然の中になにげなく咲いているものなので、そのさりげなさをどう表現するかがなかなか大変です。ですから、工芸菓子を見てくださった方に『本物のよう』と言っていただくと、本当にうれしいですね」

 精巧な工芸菓子には、菓子職人の技と魂が込められていると言っても過言ではない。小さな美術館を訪れるような感覚で、足を運んでみてほしい。

「お菓子でつくる彩色の美 世界の花と鳥展」
場所:宗家 源 吉兆庵 銀座本店
住所:東京都中央区銀座7-8-9
期間:~2018年9月28日(金)まで
開場時間:10:00~21:00(土・日曜~19:00)
※最終日は17:00閉場
定休日:無休
入場料:無料
電話: 03(5537)5457

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