2018年8月末にパリ7区に完成した複合施設「Beaupassage(ボーパッサージュ)」。ガストロノミーの新たな殿堂は、パリの人々の暮らしにも影響を与えそうだ

BY KAORU URATA

 8月最後の週末、パリ市中心7区に、商業と住居の複合施設「Beaupassage(ボーパッサージュ)」がオープンした。この場所がボーパッサージュと命名されたのは、18世紀後半当時、240ほどあったと言われる回廊式小道「パッサージュ」に由来する。パリ市右岸の劇場近辺に多く見られた、店舗が隣接したガラス張り天井のアーケードのことだ。パリが発祥の地であるパッサージュは、ミラノやナポリ、ベルリンのアーケードの起源にもなった。現在では、パリ市内には17つのパッサージュしか残っていない。そんなパリの歴史を現代に引き継ぐパッサージュが、新しく左岸に誕生したのである。

画像: ヤニック・アレノのギャラリー空間から見下ろすボーパッサージュ PHOTOGRAPH BY ADELINE MOREAU

ヤニック・アレノのギャラリー空間から見下ろすボーパッサージュ
PHOTOGRAPH BY ADELINE MOREAU

 ここはガストロノミーの殿堂だ。一つの場所で、美食界を導く料理シェフ、ヤニック・アレノ、ティエリー・マルクス、アンヌ・ソフィー・ピック、菓子職人のピエール・エルメ、肉職人のアレクサンドル・ポルマール、フィッシュ&チップスのオリヴィエ・ブラン、コーヒーバリスタの山口淳一といった、選りすぐりの味覚に触れることができる。

 いきなり余談だが、豊かなコーヒー文化をもつフランスで、山口氏が展開する「%ARABICA」を口にした人たちから「こんなおいしいコーヒーがあったとは」と聞くとき、日本人の高度な味覚をあらためて実感する。フランスのエスプレッソは酸味が効いていて、フルコースの食後には適しているが、旨味のあるまろやかなコーヒーを口にすることはあまりない。パリジャンにとってもこれが発見の味であることは間違いない。

画像: 朝訪れたい「ティエリー・マルクス ル・ブーランジュリー」 PHOTOGRAPH BY ANNE-EMMANUELLE THION

朝訪れたい「ティエリー・マルクス ル・ブーランジュリー」
PHOTOGRAPH BY ANNE-EMMANUELLE THION

 朝は、「%ARABICA」のコーヒーに、星付きシェフのティエリー・マルクスが2号店としてオープンしたパン屋でオーガニックの小麦を使用したパンを味わうのもいい。鉄板焼で薄いパン生地に具を入れて焼いた、巻き寿司のような7種類のBreadmakisは店の看板だ。栄養バランスを考えたヘルシーなランチをしたい方は、アンヌ・ソフィー・ピックの「Daily PIC」でガラス容器(ヴェリンヌ)の創作料理か、ストリート風シーフード「Mersea」(フランス語と英語の海をかけあわせた店名)で、揚げたてのフィッシュ&チップスはいかがだろうか。

 ティータイムにはピエール・エルメのスウィーツを、アペリティフにはヤニック・アレノの店で、7,500品種のワインリストからテイスティングを堪能した流れで食事をするのもいい。肉の熟成度を極めるアレクサンドル・ポルマールの肉は切り身でも購入できるが、レストランでちょうどいい加減にグリルしてもらうのも悪くない。ダンディーたちが集うシガーバーでは、ホンデュラス産限定の葉巻3,000本がそろう。どの店でも、熱意伝わるプロ集団の極みをアクセスプライスで体感できるのがうれしいところ。

画像: 天気のいい日が待ち遠しくなるピエール・エルメのカフェテラス © PIERRE HERMĒ

天気のいい日が待ち遠しくなるピエール・エルメのカフェテラス
© PIERRE HERMĒ

 オーガニック商品群に特化したスーパーマーケット「カルフール」も併設されて、地元の住人たちにも親しまれる場所に成長していくであろうボーパッサージュ。近所で50年近く店を構えるチーズ職人、エリーゼ宮殿御用達のニコール・バルテレミのチーズもここに2店舗めを構える。ユニークなのは、飲食店ばかりの商業施設に、元タイ式ボクシングのプロ選手が経営する会員制スポーツジムもあること。一日だけの利用パスもあり、ジムやボクシングトレーニングのほかにサウナやヨガ、パーソナルトリートメントのキャビンを備え、コーヒー&ミューズリーのバーまである。

 天空を仰ぎながら、通勤や散歩の通り道として、待ち合わせの場所として人々が自由に行き交うパッサージュは、車や自転車が通らないために、車のクラクションや排気ガスを気にせず子どもを遊ばせておくこともできる。今後、ここで新しいパリの一面を見ることもできそうだ。

画像: アート、美食、健康の3拍子を指揮するプロジェクト総メンバー。 (左から)Marc Vellay, Frédéric Bourstin, Fabrice Hyber, Abdoulaye Fadiga, Stefan Rinck, Eva Jospin, Junichi Yamaguchi, Laurent Dumas, Thierry Marx, Pierre Hermé, Anne-Sophie Pic, Alexandre Polmard, Yannick Alléno, Nicole Barthélémy, Olivier Bellin, Franklin Azzi, Michel Desvigne PHOTOGRAPH BY ANNE-EMMANUELLE THION

アート、美食、健康の3拍子を指揮するプロジェクト総メンバー。
(左から)Marc Vellay, Frédéric Bourstin, Fabrice Hyber, Abdoulaye Fadiga, Stefan Rinck, Eva Jospin, Junichi Yamaguchi, Laurent Dumas, Thierry Marx, Pierre Hermé, Anne-Sophie Pic, Alexandre Polmard, Yannick Alléno, Nicole Barthélémy, Olivier Bellin, Franklin Azzi, Michel Desvigne
PHOTOGRAPH BY ANNE-EMMANUELLE THION

 こうしたプロジェクトが日の目を見るまでには、8年の歳月を要した。事業開発のデベロッパーは、17世紀後期に建立された修道院と20世紀の産業建築群が隣接する10,000㎡の土地区画を徐々に購入したのち、3つの通りにつながる都市計画を企画した。総合設計を担当したのは、パリに拠点を置く建築家フランクリン・アジとB&B Architectes、ランドスケープデザインは世界的に有名な建築家のプロジェクトに参画することで知られるミッシェル・デヴィンニュが手がけた。ボーパッサージュは5,600㎡の商業施設と住宅施設4,800㎡で構成され、ランドスケープの樹木や植物のあいだには、彫刻やインスタレーションなど現代アーティスト4名の作品が常設されている。

 社会の移り変わりに伴い、消費者の購買行動も変容している。モノの購入から体感を求める消費へと移行し、販売側は、そこでしか体感できない場を提供しないと吸引力を求めることが困難な時代である。そうした意味でもボーパッサージュは、フランスが誇る食、文化、健康というキーワードで、都市空間と商業施設の在り方のお手本となりそうだ。

BEAUPASSAGE
住所:53-57 rue de Grenelle, 75007 Paris
営業時間:7:00~23:00
※店舗に応じて営業時間・定休日は異なります
公式サイト

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.