伝統ある「江戸前料理」が今、新しい局面を迎えている。伝統的な仕事に技と工夫を加えた寿司、蕎麦、鰻、天ぷら。その注目すべき唯一無二の美味4軒を、“タベアルキスト”マッキー牧元がガイドする

BY MACKY MAKIMOTO, PHOTOGRAPHS BY SHIGERU OHTSUKI

 寿司、蕎麦、鰻に天ぷらは、東京が誇る食文化である。いずれも江戸時代後期にいわゆる“仕事”が確立し、全国に広がっていった。当然、東京には数多く名店がある。今、そんな状況をより面白くしているのは、「新・江戸前」と呼びたい、新たな仕事を加えた店である。知恵と工夫、技が至福へと導く各店を紹介しよう。江戸前という言葉でまず思い浮かぶのは寿司であろう。今や全国から最高品質の魚介が集結し、鮮度が要求されるものと、寝かせておいしくなっていくものが区別されるようになったが、その考えをさらに推し進めたのが「すし 㐂邑(きむら)」である。

 店主の木村康司さんは、今まで誰もやっていなかった「魚の熟成」という仕事を始めたのである。血抜きをし、内臓をとって密封。魚種や状態を見て熟成日数を決める。周りをどれくらい削るか見極め、赤酢に合うネタを作り出す。初めて食べた驚きは忘れない。鰯やカンパチ、鯖など、知っている魚が味わいをぐっと深め、色香を灯していた。それが赤酢の酢飯と美しく共鳴する。脂がきれいに抜けてなめらかさが増し、貴婦人の品を漂わすカンパチ。磯臭さが消えて酢飯と抱き合いながらうま味を膨らませる、イサキ。繊維などなきかのようにしなやかで、濃密な味に笑う、皮付き鰯。

画像: 1カ月熟成のカンパチ、2週間のシマアジとイサキ

1カ月熟成のカンパチ、2週間のシマアジとイサキ

画像: 鮑と、10日間熟成の鰯

鮑と、10日間熟成の鰯

 どの魚も、既存の常識と既知の味わいを超えている。誰にでもできる仕事ではない。個体差を見極め、熟成期間と方法を何年も試行錯誤してきた結実である。余分な雑味を抜き、真の味を引き出す。木村さんの誠実と魚への敬意が生んだ、新しい味の天体である。

画像1: マッキー牧元が選ぶ珠玉の4軒。
「新・江戸前料理」に刮目せよ!

すし 㐂邑
完全予約制、おまかせのみ。昼・夜ともに¥22,000
住所:東京都世田谷区玉川3-21-8
営業時間:
(水・日曜)12:00~14:00、19:30~21:30の2部制、
(火・木~土曜)17:30~19:30、19:30~21:30の2部制
定休日:月曜
電話: 03(3707)6355
公式サイト
予約専用サイト

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