2019年1月、「ドン ペリニヨン」の醸造最高責任者が変わる。先日、日本で行われたレガシーの”継承式”で、新旧醸造責任者の思いを聞いた

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA

 醸造最高責任者が変わるだけで世界的な話題になるシャンパーニュは、おそらく「ドン ペリニヨン」だけと言っても過言ではないだろう。リシャール・ジェフロワからヴァンサン・シャプロンへ。その記念すべき継承式が、去る11月末、小田原の江之浦測候所において行われた。古代ローマの円形劇場を模したというステージからは相模湾が見渡せ、暮れなずむ景色をバックに、新旧の醸造最高責任者が登場。この日ふるまわれたのは「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2008」。聞けば、ふたりで仕込んだ記念すべきヴィンテージだという。

画像: 「天空のうちにある自己を確認する」というアートの起源に立ち戻るべく、杉本博司氏によって構想・設立された「江之浦測候所」が継承式の舞台。有史以来変わらない相模湾の水平線を一望する

「天空のうちにある自己を確認する」というアートの起源に立ち戻るべく、杉本博司氏によって構想・設立された「江之浦測候所」が継承式の舞台。有史以来変わらない相模湾の水平線を一望する

画像: 江之浦測候所の能舞台で乾杯をかわすリシャール・ジェフロワ(右)とヴァンサン・シャプロン(左)。ジェフロワは2018年を最後にその職を退き、醸造最高責任者(シェフ・ド・カーヴ)をシャプロンに引き継ぐ

江之浦測候所の能舞台で乾杯をかわすリシャール・ジェフロワ(右)とヴァンサン・シャプロン(左)。ジェフロワは2018年を最後にその職を退き、醸造最高責任者(シェフ・ド・カーヴ)をシャプロンに引き継ぐ

 乾杯の後、舞台では喜多流の大島輝久、佐々木多門による能『高砂』が演じられた。いにしえから変わらぬ相模湾の景色に、謡と鼓の音が溶け込んでいく。その幽玄の世界は限りなく美しい。演目が終わった後、シャプロンに舞台の感想を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「とても美しかった。静謐なのに情熱的。心打たれました」。そう、静謐なのに情熱的。この相反するファクターの共存こそが、『ドン ペリニヨン』の“レゾン・デートル(存在意義)”でもある。

画像: 「ドン ペリニヨン」の新しい門出を寿ぐ『高砂』。ゲストは「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2008」を片手に鑑賞。舞台の向こうには相模湾が広がる

「ドン ペリニヨン」の新しい門出を寿ぐ『高砂』。ゲストは「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2008」を片手に鑑賞。舞台の向こうには相模湾が広がる

 確かに、「ドン ペリニヨン」ほど不思議な魅力をたたえたシャンパーニュはほかに類を見ない。繊細さと芳醇さ、清らかさと官能性、そして前出のように静謐さと情熱といった相反する要素を携え、それがボトルの中で見事に融合しているのだ。

 28年の長きにわたりメゾンを牽引し、世界のトップを走り続けた前醸造最高責任者のジェフロワに「ドン ペリニヨン」の複雑性について尋ねると、こう答えてくれた。
「私は『ドン ペリニヨン』は“調和を表現するひとつのオブジェ”だと思っています。私たちは、この味わいを通じて“調和”を世界に訴えてきた。そして、この“調和”は、実際にドン・ペリニヨン修道士のヴィジョンでもありました。これこそが本物の遺産であり、私たちはこのヴィジョンを大切にしながら『ドン ペリニヨン』を造り続けてきたのです。今、ようやくヴァンサンにバトンタッチできて、ほっとしています」

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