食材にこだわりのある料理家から絶大な信頼を集める「エコファームアサノ」の浅野悦男。「人と同じことはしたくない」と、世界中の野菜やハーブを栽培し、成長途中の野菜を提供するなど、料理家たちのクリエイティビティを常に刺激し続けている

BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA

 本誌10月25日号掲載の特集「おいしいひと皿から世界が変わる。」で取材したフランス料理店「レフェルヴェソンス」のシェフ 生江史伸さんが手がけるブーランジェリー「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」。この店の皿の上を彩るのはすべて、生江シェフが敬愛してやまない生産者たちが手塩にかけた食材だ。“おいしいひと皿”をつくる6人の生産者の声を、全6回にわたりお届けする。

最終回となる第6回目は、千葉県八街市を拠点に、独自の農法でさまざまな西洋野菜を栽培する「エコファームアサノ」を紹介。


 エネルギッシュで俗世離れしたオーラ、骨太でブレない言葉、反骨精神――浅野悦男に会ったとき、農家というよりロックミュージシャンのよう! というのが最初の印象だった。佇まいがものすごくかっこいいのだ。

画像: 浅野悦男 フランスの三ツ星フレンチレストランのシェフ、ピエール・ガニエールやコペンハーゲンのレストラン「ノーマ」のレネ・レゼピも浅野の畑を訪れた

浅野悦男
フランスの三ツ星フレンチレストランのシェフ、ピエール・ガニエールやコペンハーゲンのレストラン「ノーマ」のレネ・レゼピも浅野の畑を訪れた

 作る野菜も力強く美しい。八百屋やスーパーマーケットに並ばない種類のものが多く、エディブルフラワーやハーブ類も、一般に認知されるかなり前から栽培してきた。集荷先はおもにレストランだが、浅野と取引をするためには、まず料理人が畑に足を運ばなければならないという取り決めがある。

「その理由は畑にある」というので、浅野についていった。多品目少量栽培の畑から、浅野が何かのつぼみを摘み取り、手に乗せてくれた。「オクラのつぼみだよ。食べてみるとちょっと粘りがあって、ちゃんとオクラの味がする」。花弁は黄色と濃い朱色、そして白。サラダや前菜に散らすと、さぞかしきれいだろう。

画像: (左)オクラのつぼみ。 (右)花弁を解体すると鮮やかな黄色と朱色、白のコントラストが美しい

(左)オクラのつぼみ。
(右)花弁を解体すると鮮やかな黄色と朱色、白のコントラストが美しい

 次に浅野が手にしたのはひょうたんのようなユーモラスな形の鶴首カボチャ。通常出荷されているサイズの4分の1ほどのサイズだ。続いて親指ほどの真っ赤なパプリカ、こちらはなんともキュートで、口に入れると皮は肉厚で甘い。この大きさだったら、切らずにその美しい自然の造形をそのまま皿の上で生かすことができる。

画像: ミニ鶴首かぼちゃ。市場に出回るのはこの何倍もの大きさで、色もベージュ色になる。畑に化学肥料は使わず、有機肥料も最低限しか用いない

ミニ鶴首かぼちゃ。市場に出回るのはこの何倍もの大きさで、色もベージュ色になる。畑に化学肥料は使わず、有機肥料も最低限しか用いない

「食べたことのないものは、それがどんな味か興味があるでしょ?」。浅野は味覚だけでなく、料理になったときのビジュアルが、食べる人の料理の味わい方にも影響することを念頭において野菜を育てている稀有な生産者だ。パリやミラノ、NYのコレクションを毎シーズン、ネット上で見ては、ファッションのトレンドや流行色をチェックし、その服に合う野菜や野菜の花は何なのか、次に作るものを決める参考にしているというから驚かされる。

画像: キャンディケーンビーツ。サラダなどに入れると断面の模様が華やか

キャンディケーンビーツ。サラダなどに入れると断面の模様が華やか

「つぼみを取ってしまったら、実がならないのでは?」と尋ねると、「実は誰かが作るからいいんだ。つぼみを出荷するのは自分ぐらいだね」と笑う。「大根はね、成長過程で何回も食べられる。最初に種を蒔き、芽が出たらそれは貝割れ大根。葉が育ち、発育を促すために間引いたものは葉大根といって、やわらかい葉を食べる。花が咲いたら、それは大根の菜花だし、実ができたら、それはさや大根。全部が食べられるし、大根の味がする。だからね、料理人に言うんです。畑に来て食べてごらん、って。従来の大根をただ切ったりおろしたりするだけじゃなくて、生育ステージに合わせた大根料理を考えればいい。ほかの野菜でも同じことが言える」

 畑を訪れた料理人が成長途中の野菜を食べてみて、そこからインスピレーションを得て新しい料理を作る。「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」の生江シェフもそういった食材の魅力、可能性に気がついている一人だろう。ニンジンは通常、初夏に種を蒔き、秋に収穫して冬までじっくり寝かして旨味を出す。しかし、生江は店の看板メニューのオープンサンドに、あえて採れたてのフレッシュなニンジンを使って、そのみずみずしさを生かした。「生江さんだったらこの野菜をどう使うんだろう、と考えると楽しい」と浅野は話す。

 

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