さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第5回は人類学者の中沢新一さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

「取材や講演のあとには必ず甘いものを食べたくなるし、ブランデーやラムなどアルコールの強いお酒と一緒にパフェをいただくのも好き。レストランでも最初にデザートを食べたくなるほど、甘いものが好きなんです。甘いものを口にしたときのなんともいえない幸福感。陶酔させるというのとは違う、醒めたままやさしい世界へと誘ってくれるーーそんな感覚を味わうのが好きなのかもしれません」と語るのは人類学者の中沢新一さん。

 中沢さんの甘いもの好きは、幼少期にまでさかのぼる。「僕が生まれた1950年代の日本はまだまだ貧しかったので、甘いものは貴重でね。生まれ故郷の山梨は果物が豊富でよくとれるので、そのままガブッとかじるか、柿の皮を干したものなど、祖母お手製のおやつをよく食べていました」。読書家だった中沢さんは、ヨーロッパ文学のページに綴られた未知の料理やお菓子にドキドキワクワク。いてもたってもいられなくなり、粉に牛乳を加えて作るプディング、ゼリー、アイスクリームやシュークリーム作りに自ら挑戦したこともあったとか。そんなおやつの中でも、中沢少年の心をぎゅっとつかんで離さなかったのがパイ。とりわけアップルパイだ。

画像: 「アップルパイ」1カット¥350 新宿高野本店 TEL. 03(5368)5151 http://takano.jp

「アップルパイ」1カット¥350
新宿高野本店
TEL. 03(5368)5151
http://takano.jp

「高校一年生の頃だったかな、東京の大学に通う姉が、帰省みやげで買ってきてくれたのが『新宿高野』のアップルパイでした。大きなホールのサイズが夢を誘ったし、素朴なパイ生地の中に、香りよく、煮込み具合がちょうどいい紅玉がたっぷり入っていて。とりつかれたように夢中になりました。大学進学で自分自身が上京してから今に至るまでずっと、日本初上陸のものや専門店の逸品など、いろいろなアップルパイを探しては食べているけれど、今もやっぱりこれが一番ですね」

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