フランスで自然派ワインの造り手として世界に認められた日本人がいる。20年暮らしたローヌを離れ、岡山で新たにワイン造りを始めた理由とは

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA

 日本で新たにワイン醸造を始めるにはおよそ5,000万円はかかる。だが大岡は古い米倉庫を安く譲り受け、醸造タンクなどの設備のほとんどをネットオークションで格安で手に入れて、初期投資を500万円台に抑えた。ワイン造りに興味のある若手に「資金がなくても始められる」先例になれば、との思いからだ。

画像: 米倉庫を改造した醸造所。約100年前の木枠のプレス機と熟成用の樽は、中古品だが苦労してフランスから運んだもの。牛乳タンクを再利用した白ワイン醸造用タンク2台は、ネットオークションで各10万円。各5万円ほどで入手した日本酒タンク3台には赤ワイン用のぶどうを皮ごと漬け込んでいる

米倉庫を改造した醸造所。約100年前の木枠のプレス機と熟成用の樽は、中古品だが苦労してフランスから運んだもの。牛乳タンクを再利用した白ワイン醸造用タンク2台は、ネットオークションで各10万円。各5万円ほどで入手した日本酒タンク3台には赤ワイン用のぶどうを皮ごと漬け込んでいる

 アレキサンドリア種のワイン用への転換は急務だが、大岡はその先を見ている。「ヨーロッパのぶどう品種は、高温多湿の日本では病気になりやすい。日本でワインを造るには、日本独自の品種を使うべきなんです。そのほうが独自性が出て世界市場で勝負できる。今、注目しているのは山ぶどう系の『小公子』です。実が小さく味が濃い。すでに2017年から、山梨で育てられた完全無農薬の小公子で醸造しています」。アレキサンドリアのペティヤン(微発泡酒)と小公子の赤ワインを試飲した。ペティヤンはフレッシュでキリリとした中に丸みを帯びた果実の香り。小公子は糖と酸味のバランスがとれた風格のある味だ。

画像: 醸造所の向かいの畑には小公子が植えられていた

醸造所の向かいの畑には小公子が植えられていた

画像: 育種家・林慎悟(右)と、何種類ものぶどうが生い茂る林のぶどう畑で。林が10年かけて開発した「マスカットジパング」は今、大人気の品種だ。「たとえば育種家が醸造家へ苗木を無料で配布し、ワイン1本につき50円ほどのロイヤリティを得る方式にすれば、双方にメリットが生まれます」と大岡は語る

育種家・林慎悟(右)と、何種類ものぶどうが生い茂る林のぶどう畑で。林が10年かけて開発した「マスカットジパング」は今、大人気の品種だ。「たとえば育種家が醸造家へ苗木を無料で配布し、ワイン1本につき50円ほどのロイヤリティを得る方式にすれば、双方にメリットが生まれます」と大岡は語る

 醸造家が負担する苗木の価格も大きな課題だ。フランスでぶどうの苗木は1本約1ユーロだが、日本では1,000円ほど。小公子は約2,000円だ。もっと安くできる山ぶどう系の品種がないか――。考えていた矢先に、ぶどう品種を開発する育種家の林慎悟と出会い、共同で独自の品種開発に着手。絶滅危惧種の岡山原産「白神ぶどう」と「藤の夢」を掛け合わせ、昨年、1年がかりで発芽に成功した。

「でも、フランスでは二千年もかけてワインに合う品種が改良されてきたわけで、何年でわれわれの試みがうまくいくか。私が生きているうちには無理でしょうね」。岡山から世界へ羽ばたく日本ワイン。大岡の開拓者魂が日本のワインの未来を変えるかもしれない。

 

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