「京都吉兆」が、このほど、調味加工をせず、天然素材のみで仕上げた“だしパック”「吉兆のだし」を発売した。日本を代表する名料亭が、なぜ“パック”を――? 総料理長、徳岡邦夫氏がその真意を語る

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO, PORTRAIT BY TOMOKO SHIMABUKURO

 あなたはだしを引いていますか?
 日本の家庭で今、味噌汁や煮物のためにだしを引く人は少ないだろう。そもそも、「だしを引く」という言葉の意味を明確に知っている人が、どのくらいいるだろうか。「だしを引く」には、「コトコト煮出したり絞ったりせずにうま味を引き出す」という意味が込められている。この言葉どおり、水に昆布をつけて火にかけ、沸騰する直前に引き上げ、鰹節を加えて漉すのが「昆布と鰹の一番だし」。日本料理の要となる。

 今夏、日本を代表する料亭「京都吉兆」が、天然素材のみで仕上げた無添加のだしパックを発売した。商品名は「吉兆のだしー極みの濃いだしー」。原材料は厳選された国産の昆布と鰹節だけ。食塩や醬油も加えず、もちろん化学調味料、食品添加物、酵母エキスなども不使用。水400mlを沸かし、だしパック1袋を入れ中火で3分ほど煮出すだけで、うま味のある上品なだしができあがる。また、水500mlを沸かし、だしパック2袋を入れ3~5分煮出すと、よりうま味みの濃いだしに仕上がる。

画像: 「吉兆のだし」<5袋>¥1,000 素材本来のうま味を引き出す方法にこだわっただしパック。2019年6月発売開始。食材の長期保存や香り付けなどのための化学調味料や酵母エキスを一切使わず、天然素材のみで仕上げる製法に挑戦。おすすめ活用レシピ付き

「吉兆のだし」<5袋>¥1,000
素材本来のうま味を引き出す方法にこだわっただしパック。2019年6月発売開始。食材の長期保存や香り付けなどのための化学調味料や酵母エキスを一切使わず、天然素材のみで仕上げる製法に挑戦。おすすめ活用レシピ付き

 天下の名料亭が作るだしといえば、「一番だし」に決まっているだろうと勝手に想像していたが、このパックのだしは一番だしではないのだという。一番だしに使った昆布と鰹節を煮出して、さらに追い鰹(鰹節をプラス)するものが二番だしだが、これとも違う。一番だしと二番だしのいいとこどり、というところだろうか。

「京都吉兆」総料理長・徳岡邦夫は、「ご家庭には一番だしは必要ないんです。野菜をコトコト煮たり、かやくごはんを炊いたり、茶碗蒸しを作ったりするには、繊細で淡い一番だしではなく、うま味のある濃いだしが合うのです」と言う。とはいえ、ただ濃いだけではない。確かにうま味たっぷりだが、後口すっきり、軽やかな味わいは、気軽なだしパックでとったとは思えない仕上がりだ。ここに到達するまでに5年の歳月を要したという。

 最高峰の料亭がそもそもなぜ、だしパックを発売することになったのか。京都・嵐山の本店へ行けば、店で使っている本物の昆布や鰹節をお土産に買うことができる(筆者も一度購入したが、それはそれは素晴らしい逸品で、見よう見まねで引いても絶品のだしになった)。なのになぜ、パック?

画像: 徳岡邦夫 「京都吉兆」代表取締役兼、総料理長。日本料理の神さまと称される湯木貞一氏の孫。35歳で「京都吉兆」の総料理長及び三代目となる。「サローネ・デル・グスト」「マドリッド・フージョン」など数々の世界的料理イベントに招聘され、日本料理を紹介。2007年、「洞爺湖サミット」でも日本料理を担当した

徳岡邦夫
「京都吉兆」代表取締役兼、総料理長。日本料理の神さまと称される湯木貞一氏の孫。35歳で「京都吉兆」の総料理長及び三代目となる。「サローネ・デル・グスト」「マドリッド・フージョン」など数々の世界的料理イベントに招聘され、日本料理を紹介。2007年、「洞爺湖サミット」でも日本料理を担当した

 徳岡は5年ほど前、鰹節専門の「株式会社にんべん」の高津克幸社長を紹介され、日本の伝統食文化であるだしを、きちんとした形で後世へ残していこうと意気投合した。「にんべん」が日本橋の「コレド室町2」に出店した「日本橋だし場 はなれ」(だしのうま味を生かした料理を提供するだし料理専門店)へ徳岡がレシピを提供したり、新商品の開発に携わったりする中で、「だしパック」を共同開発することになったのだという。

「どんなに素晴らしいものでも、その時代に受け入れられにくいものは淘汰されると、僕は思っているんです。だしもそう。今は、昆布や鰹節、いりこなどで引いただしの味を知らない子どもたちが多い。ライフスタイルが多様化しているいま、昆布や鰹節でいちいちだしを引きましょうとは言えません。ならば、利便性の高いもので本物の味を伝えたい。それなら、だしパックかなと」

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