BY THOMAS CHATTERTON WILLIAMS,PHOTOGRAPHS BY JOANN PAI, TRANSLATED BY KANAE HASEGAWA
こうした場の持つ文脈に歩み寄りながらも、OGATA Parisは何よりも連綿と受け継がれてきた日本のクラフト、職人技、そして広い意味での日本流の暮らしの愉しみ方に敬意を表し、それを体現するショーケースだ。緒方がOGATAをなす5つの柱と考えるのは、茶を喫すること、料理を味わうこと、ものづくりを継承すること、もてなすこと、そしてさまざまなつながりによって文化を創造することだ。それらの視点から、彼は日本の美を追い求め、自身で表現することに心を尽くしてきた。とりわけ、禅僧が嵯峨天皇に献茶した9世紀にまでその起源をさかのぼる、高度に様式化された儀式である“茶”の探究に情熱を注いできた。
OGATA Parisの1階は聖堂のように薄暗く、静まり返り、二層分が吹き抜けになった空間で、天窓からの明かりが、白いテラゾーの床に唯一あしらわれた丸いガラス板の存在によって際立っている。その脇の空間には、石を切り出した手水鉢がしつらえてある。壁は漆喰(しっくい:石灰岩と卵の殻を配合したベネチアのスタッコ塗りに相当する日本の塗装方法)で覆われ、和菓子や“ひと口果子”(木の実や干した果実など、さまざまな素材を異なる餡で包んだもの)をテイクアウトできるブティックも入っている。そこからさらに、茶の専門家が常駐するティーブティックへとつながり、その黒石のカウンターを覆う銅板が日本の家庭で代々受け継がれる京都の茶筒を思わせる。来店者はここでほうじ茶や玉露といった稀少な茶葉を選んで購入できる。

建物の1階のティーブティック。ほうじ茶、玉露、抹茶および煎茶を取りそろえる。ほかにもブレンド茶などが桐の棚に収納されている

象徴的な菓子“ひと口果子”は、柔らかい餡をひと口サイズのボール状にしたもの。種類は胡桃のロースト、棗(なつめ)椰子、発酵バターを使った「棗バター」、抹茶餡とレーズンを使った「萌葱」、生姜餡と蜂蜜羹を使った「鳥の子」などがある
五感に響くこの魔法の空間に音楽はない。あるのは水のしたたる音、グラスの鳴る音、そしてあらゆるギフトを紙で包むときの音のみ。そうしたギフトには緒方が手がける環境にやさしい紙の器WASARAや、常に入れ替わるSゝゝ[エス]のアイテムなどがある。楡(にれ)やクスノキの木から削り出した器といったヴィンテージの品々は、緒方が修繕しアップデートしたもので、これまで日本以外ではほぼ扱いがなかったものだ。1階と中2階の2フロアは美術品と骨董を展示するギャラリー(オープニングでは和紙と漆の作品の展示)となっており、日本および世界の現代写真家による写真も展示する。
ギャラリーに隣接するバーではオリジナルのカクテルを提供し、和食レストランでは緒方と十六年来、仕事をしてきた料理人の渡辺一貴が、日本各地に息づく家庭料理や郷土料理から着想した洗練された四季折々の料理を供する。黒酢とすだちソースで和えた鴨と梨のサラダや、蕪(かぶ)のピュレを添えたブリの煮付けといったメニューだ。規模(約800平方メートル)の面でも内容の面でも、このプロジェクトはデザイナーの緒方が成し遂げてきたことすべての集大成として実を結んだものだ。

和食レストランのオープンキッチンで下ごしらえをする料理人たち。ここでは緒方と長年ともに協働してきた料理人の渡辺一貴が監修する現代の日本食を提供する

炭火であぶった鴨肉を盛り付ける料理人