BY KIMIKO ANZAI, PORTRAIT BY KIKUKO USUYAMA
世界的評価の高い ”スーパー・タスカン” の中で、異彩を放つ存在が「ルーチェ」だ。その芳醇でエレガントな味わいは、多くのワイン愛好家を魅了してきた。“スーパー・タスカン” とは、70年代、イタリア・トスカーナ地方で続々と誕生したボルドースタイルの高級ワインのことで、「ボルドーの格付けワインに比肩する味」と評され、瞬く間に表舞台へと躍り出た。その多くはカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどの国際品種で造られるが、「ルーチェ」はひと味違っている。国際品種のメルロと在来品種のサンジョヴェーゼをブレンドしているのだ。ワイナリーが位置するモンタルチーノは銘醸ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」が生まれる土地で、使用されるサンジョヴェーゼはこの地の誇りでもある。”モンタルチーノらしさ” が反映されていることが、「ルーチェ」のアイデンティティなのだ。
このワインを誕生させたのが、700年の歴史を持つ名門フレスコバルディ家のヴィットリオ・フレスコバルディ侯爵と ”カリフォルニアワインの父” ロバート・モンダヴィ氏だ。ワインの巨星同士が「モンタルチーノの地で前例のないワインを造る」という思いのもとタッグを組み、「テヌータ・ルーチェ」を1995年に創設した。初ヴィンテージ「ルーチェ1993」はリリースされるやいなや、新たな ”スーパー・タスカン” として多くのワイン愛好家を魅了した。現在はフレスコバルディ家が単独でワイナリーを所有、高品質の味を守り続けている。
ワインの世界においてはハリウッドスター的存在ともいえる「テヌータ・ルーチェ」。その陣頭指揮を執るのが醸造責任者のアレッサンドロ・マリーニ氏だ。カリフォルニアのワイナリーやボルドーの有名シャトーで長く研鑽を積み、世界のワインに精通する実力派だ。醸造責任者として指名を受けた時の驚きをこう振り返る。
「イタリア人にとっては ”あのルーチェ” ですから、当初は興奮しました。でも、そのあとで、すぐにプレッシャーに襲われました(笑)。ここで自分がすべきことは何かを熟考し、醸造過程をより丁寧に、緻密に行うことから始めました。同時に、気候変動に対処できる栽培方法を考え、すべての仕事においてレベルアップを図りました」
また、長く海外で過ごしたマリーニ氏は、この地のテロワールと在来品種のサンジョヴェーゼとも、あらためて向き合ったという。「『ルーチェ』はメルロとサンジョヴェーゼが奏でるハーモニーが美しいワインです。サンジョヴェーゼは ”モンタルチーノの魂” とも言える品種で、やわらかな果実味とフレッシュな酸味が特徴。これをどう生かすかを考えました」
結果、新ヴィンテージの「ルーチェ 2020」は、芳醇で美しいワインに仕上がった。ブラックベリー、桑の実、カカオなどの香りがふわりと漂い、とてもアロマティック。タンニンはシルキーで心地よく、味わいは ”極めて” 優雅。「2020年の特徴をひと言で言い表すなら ”バランスとハーモニー” でしょうか。タンニンがなめらかで、若いうちから飲めるのが特徴です。同時に、長期熟成も可能な力強さも持ち併せています」
マリーニ氏によれば、2020年という年は、春は温かく、5月に雨が多く降ったことから、ブドウは例年より早く開花したという。夏は暑かったが、ほどよい降雨や寒暖差に恵まれ、理想的なブドウが収穫でき、香り豊かで深みのあるワインに仕上がったという。「素晴らしいワインに仕上がり、ほっとしています」と晴れやかな笑顔を見せる。
最後に、初来日というマリーニ氏に日本に対する印象を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「日本の皆さんのワインの知識が深いことに驚きました。『ルーチェ』をご存知の方が多かったのもうれしかった。また、私の発見は、『ルーチェ』は日本料理によく合うということでした。今回、尾崎牛のカルパッチョを合わせたのですが、素晴らしかった。鰻ともよく合うと思います」
「ルーチェ2020」を味わっていると、芳醇な果実味と美しい酸味の奥に、トスカーナの太陽のような温かみのあるニュアンスが隠れていることに気づく。ボトルには太陽を思わせるアイコンが描かれているが、この意匠はフィレンツェのサント・スピリト教会の大祭壇の紋章にインスピレーションを受けたもので、”神の光” を表すという。”光” は 自然や人間に豊かさをもたらす。「ルーチェ」は、大切な人々と過ごす時間を優しく包む幸福の光でもある。
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