おいしいもののことなら知り尽くすフードライター北村美香さんが自信を持っておすすめする美味の店。作り手の技と思いが凝縮した「食べるべきひと皿」と、おいしさの理由をひもとく連載を、好評にこたえて再開。第三回は、広尾の「日日の料理びおら」のお昼のメニューより、アジフライをご紹介

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA

画像: 写真はお昼のメニューから。内容は月替わりで、取材をした月は「アジフライ定食」。よいアジが手に入るかどうかでメニューにのせるので、予約時に確認を。

写真はお昼のメニューから。内容は月替わりで、取材をした月は「アジフライ定食」。よいアジが手に入るかどうかでメニューにのせるので、予約時に確認を。

 アジフライ。明治以降の洋食メニューだが、一般には和食と思われているほど日本のソウルフードのひとつだ。ご飯にもお酒にも合うし、どこでも食べられる料理だからこそ、とびきりのアジフライを食べたい!と探していたら……。

 出合ったのは、広尾「日日の料理 びおら」。衣はさくさく、アジはふわふわ。醤油やタルタルソースをつけなくても素晴らしい風味が口中に広がる。添えられたキャベツのせん切りをいただけば、すぐにさっぱり。ずっと食べ続けられるループに入ってしまう。キャベツのせん切りは大葉入りなので、爽やかな香りと味でさらに食欲が増す仕掛けに。

 その日最高の新鮮なアジを仕入れ、パン粉専門店で吟味した生パン粉を使う。太白ごま油でかりっと揚がったお馴染みの味に、「おいしい」安心感と満足がしみじみ深まる。

 こちらは、料理研究家の後藤加寿子先生と、次女のすみれさんが開いた家庭料理のお店だ。茶道の武者小路千家のお家元の娘として生まれた加寿子先生。懐石料理の第一人者だった母の千澄子さんの薫陶を受け、京料理や茶懐石に造詣が深く、現代の家庭で作りやすいレシピや設えを提案し続けてきた。これまで伝えてきた日本の食文化を、これからの時代へ向けてさらに発信する場所にと、昨夏、この店をオープンした。

 「最上の食材を使って『ケ』の料理をお出しするのがうちのコンセプトです。食材や調味料は、いままで私が使ってきた中から、これはというものを選んでいます。家庭料理のお店ですが、焼き魚と筑前煮といった昔ながらの組み合わせではなく、いまのスタイルに合ったものをお出ししています。ご飯に合うものをと思い、アジフライのような洋食もお出ししたかったのです」

画像: 炊きたてご飯、季節のお汁。香のものは、賀茂茄子の原種を育てる京都の「田鶴農園」の賀茂茄子の芥子漬け。夏の終わりに、出荷できない小さい茄子を捨てずに塩漬けし、芥子漬けにしたものです。京都の人は昔からものを捨てず、生かす知恵を育んできました」。京都・大原産の菜の花の糠漬けと盛り合わせて

炊きたてご飯、季節のお汁。香のものは、賀茂茄子の原種を育てる京都の「田鶴農園」の賀茂茄子の芥子漬け。夏の終わりに、出荷できない小さい茄子を捨てずに塩漬けし、芥子漬けにしたものです。京都の人は昔からものを捨てず、生かす知恵を育んできました」。京都・大原産の菜の花の糠漬けと盛り合わせて

画像: 京都「有次」に特注した雪平鍋で、その季節にいちばんおいしいお米を炊く

京都「有次」に特注した雪平鍋で、その季節にいちばんおいしいお米を炊く

画像: 後藤加寿子先生(左)と次女のすみれさん。「私、畑が好きなんです」と笑う加寿子先生。加寿子先生のお母様が畑と山の花が好きだったという。「丁寧に作られた和食のおいしさを伝え、人の集まる場所にしていきたい」とすみれさん

後藤加寿子先生(左)と次女のすみれさん。「私、畑が好きなんです」と笑う加寿子先生。加寿子先生のお母様が畑と山の花が好きだったという。「丁寧に作られた和食のおいしさを伝え、人の集まる場所にしていきたい」とすみれさん

 締めくくりのお楽しみは、炊きたてのご飯にお汁、日本料理には欠かせない香のもの。お料理の進み具合を計りつつ、お客様ごとに小さな釜で炊き上げる。きちんととった出汁と旬の食材のお汁に、「香のものは必ず添えます」と加寿子先生。夜のおまかせコースの最後のご飯は、お腹いっぱいでもおかわりしてしまう。

 「お茶事の料理は最後のお濃茶をおいしくいただくためのもの。油ものや香辛料は避け、お茶の味を感じていただけるように料理を組み立てます。また、お客様に喜んでいただけるよう、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくお出しし、設えも整えます。この心遣いは家庭料理でも同じですね」と加寿子先生。 
 
 茶懐石も家庭料理も、根底に流れる、相手を思い遣る心は同じ。揚げたてのアジフライのような「極上のケ」の料理を、温かいサービスと心地よい空間でいただける幸せを「日日の料理びおら」で感じてほしい。

画像: 内装デザインは柳原照弘さん。左官仕事で仕上げられた和洋ミックスのモダンな空間。加寿子先生が選んだアート作品が壁にかけられている。お昼は一汁三菜のコース¥3,300、夜は8品ほどのおまかせコース¥8,800~

内装デザインは柳原照弘さん。左官仕事で仕上げられた和洋ミックスのモダンな空間。加寿子先生が選んだアート作品が壁にかけられている。お昼は一汁三菜のコース¥3,300、夜は8品ほどのおまかせコース¥8,800~

日日の料理 びおら
住所:東京都港区南麻布4の12の4プラチナコート広尾1F
営業時間 : 11:00~14:00(L.O.)、~16:00(喫茶)、18:00~21:30(L.O.)(※コースは20:00(L.O.)
定休日:日・祝日・月曜(昼の部と喫茶のみ休み)
TEL.03-6277-3522

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