フレンチの巨匠、アラン・デュカス。彼が手がけたレストランは現在、ミシュランガイドで合計20個もの星を獲得している。食を通して、フランスのアール・ド・ヴィーヴル(生活芸術)を伝えつつ、十数年前から地球環境などの問題にも取り組む。この春リニューアルした「ベージュ アラン・デュカス 東京」を訪れたデュカスに、これからのガストロノミーのあり方を聞いた

BY MIKA KITAMURA

画像: アラン・デュカス。フランス南西ランド地方出身。本格的なビストロから3ツ星レストランまで、世界9カ国で約35のレストランを統括する。「ベージュ アラン・デュカス 東京」のラウンジにて

アラン・デュカス。フランス南西ランド地方出身。本格的なビストロから3ツ星レストランまで、世界9カ国で約35のレストランを統括する。「ベージュ アラン・デュカス 東京」のラウンジにて

 銀座のフレンチレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京」はシャネル銀座ビルディング10階に2004年にオープン。アラン・デュカスの料理哲学を体現する、東京で最もシックなレストランとして人気を博してきた。
 この春リニューアルし、アラン・デュカスのレストランで10年以上に渡って研鑽を重ねてきた上岡彰彦が総料理長に就任した。「上岡シェフは8年間、このお店で小島景シェフ(現『エステール』シェフ)と一緒に料理をしてきました。私の料理のエスプリを伝えられる日本人シェフです。上岡シェフに期待しています」

 リニューアルに際し、どのように変わったのでしょうかと問えば、「変わったのではなく、進化したのです」ときっぱり。「より若々しくモダンになり、カジュアルダウンしました。エレガントであるのは今まで通りです。オープンして20年ほど経ったので、時代に合わせて進化させました」

 ファインダイニングの上質な味と丁寧なサービスはそのままに、テーブルからクロスを取り去り、雰囲気をスマートに刷新したのはさすがだ。今回のリニューアルで圧倒的な存在感を誇るのが、入り口のラウンジの壁に掲げられたフランス人写真家、アンヌ・ドゥ・ヴァンディエールの作品だ。シャネルを支える職人たちの手の動きを捉えた写真は、レストランの料理、空間、サービスの全てが職人の技によって支えられていることを感じさせてくれる。

画像: フランス人写真家・アンヌ・ドゥ・ヴァンディエールによる、シャネルのメティエダールの13のアトリエを撮り下ろした作品が掲げられたラウンジ

フランス人写真家・アンヌ・ドゥ・ヴァンディエールによる、シャネルのメティエダールの13のアトリエを撮り下ろした作品が掲げられたラウンジ

 「ベージュ アラン・デュカス 東京」の料理は、食材との対話から生まれる。味わいも食後感も以前より軽くなった。「私自身、自宅で食べているのは野菜中心の健康的な食事です。魚介類も大好き。脂肪と塩分、糖分は控え、でもワインや日本酒をいただくので、料理とお酒の組み合わせはとても重要なテーマです」。お店の料理がアラン・デュカスの個人的嗜好に影響されているのは間違いない。SDGsが叫ばれるずっと以前から、生産者への敬意を忘れず、食材の無駄は出さないように料理人は意識しなければならないと説いていたアラン・デュカス。時代の先端を読み、行動してきた。

画像: 真鯛に塩をふり数時間置き、さらにそこから一晩昆布締めにするという、フランス料理ではなく、あえて日本料理の技法を用いた料理。余分な水分を抜き、昆布締めで昆布の旨味と香りを移すことで、より真鯛の美味しさを引き出し、ひよこ豆の食感と甘味、フレッシュなトマトの酸味が調和した一品。お料理は¥12,000、¥16,000、¥25,000のコースにて。(※¥12,000のコースはランチのみ。また、季節によって内容は変わります)

真鯛に塩をふり数時間置き、さらにそこから一晩昆布締めにするという、フランス料理ではなく、あえて日本料理の技法を用いた料理。余分な水分を抜き、昆布締めで昆布の旨味と香りを移すことで、より真鯛の美味しさを引き出し、ひよこ豆の食感と甘味、フレッシュなトマトの酸味が調和した一品。お料理は¥12,000、¥16,000、¥25,000のコースにて。(※¥12,000のコースはランチのみ。また、季節によって内容は変わります)

 パリやモナコをはじめ、世界中にレストランを展開し、世界を駆け巡ってきたアラン・デュカス。そんな彼でさえも、コロナ禍中はフランス国内に留まっていたという。

 「コロナ禍で移動に時間をかけなくなったことはよい変化でした。私たちはより効率的に仕事ができるようになりました。パンデミックの影響でレストラン業界は大変でしたが、ポジティブな部分としては、オンラインで仕事をうまく回せたのがとてもよかった。例えば、2020年に、京都・嵐山に新店をオープンし、オリジナルの日本酒も発表しました。今後もオンライン態勢をキープしつつ、やはり、顔を見て仕事をするのが大切ですから、そのバランスをうまくとりながら進めるつもりです」。

 今後、レストランのあり方はどのように変わっていくべきか。そう尋ねると、「今までよりさらに、地球と自分にやさしい食べ方を大切にしていくべきです。ガストロノミーレストランでの食材の割合は以前、肉や魚などのたんぱく質が80%、野菜と穀類は20%が基本でしたが、私はこれを逆転させました。人類が今後、食糧難に陥らないためには、レストランこそが考えて料理をしていかなければならないと思っています。そのため、野菜を中心にして脂質や糖質、塩分を減らします。食材や料理の無駄を出さないため、適正な量をお皿にのせることも大切です。さらに、食材のクオリティーを上げれば、自ずと安心安全で健康的な料理になります。質の高い食材を作れば、生産量が減っても、生産者はより多くの収入を得られるようになります。生産者と食べ手、そして地球にとって、とても健康的でしょう?」

画像: エレガントなデザート「カレ・シャネル」。シャネルのアイコン、カメリアが描かれたグラサージュの下には、「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のオリジナルブレンド、ノワールを使った濃厚なムースとカカオニブやカリカリしたシリアルなど隠れ、重層的な深みのある味わい。添えられているのは、カカオニブと蕎麦の実、黒米の入ったショコラアイスクリーム

エレガントなデザート「カレ・シャネル」。シャネルのアイコン、カメリアが描かれたグラサージュの下には、「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のオリジナルブレンド、ノワールを使った濃厚なムースとカカオニブやカリカリしたシリアルなど隠れ、重層的な深みのある味わい。添えられているのは、カカオニブと蕎麦の実、黒米の入ったショコラアイスクリーム

 常に世界の食業界を牽引し、地球環境への関心を持ち続けてきた彼はこの秋、サステナブルなガストロノミーのために、モナコのアルベール2世大公後援の下、世界初のサミットを開催する。9月21日に行われる第1回のテーマは、地中海における海洋資源について世界のグランシェフがサステナブルなガストロノミーの模範となれるよう、海洋エコシステムの保護とよりよい地球環境を目指す専門家が集うサミットになります」

 そもそも、ガストロノミー自体、持続可能な存在なのだろうかとの問いに、アラン・デュカスは次のように答えた。「オートキュイジーヌは、ファッションにおけるオートクチュールと同様、人々にとって必要不可欠なものです。今後も絶えることなく存在し続けるでしょう。オートクチュールがファッションの流れをリードしているように、ガストロノミーの世界が食業界の流れを動かしていくと考えています」

 最後に、いま何に関心があるのか尋ねると、「私の興味は、旅、建築、世界の食習慣の進化へ向いています。『私がまだ知らないこと』に興味があるのです」。

 偉大なるシェフの旅は限りなく続く。彼の目を通した食の世界で、私たちは今後も示唆に富んだそのメッセージを、楽しみながら受け取るのだろう。

画像: 窓いっぱいに広がる東京の空と街を眺めながら、哲学に貫かれた一皿を深く味わいたい.  PHOTOGRAPHS: COURTESY OF BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO

窓いっぱいに広がる東京の空と街を眺めながら、哲学に貫かれた一皿を深く味わいたい.

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO

ベージュ アラン・デュカス 東京
住所:東京都中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング10階
営業時間:11:30〜13:30(L.O.)17:30〜20:00(L.O.)
電話:03-5159-5500(お問い合わせ・予約専用)
定休日:不定休
公式サイトはこちら

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