BY KIMIKO ANZAI
“マールボロのソーヴィニヨン・ブラン”が80年代に注目されたのを機に、世界的に高い評価を受けるプレミアムワインが次々と誕生しているワイン産地がニュージーランドだ。特にここ10年ほどはピノ・ノワールの進化がめざましく、“繊細で洗練されたマーティンボロ(北島)”、“芳醇ながらも優雅なセントラル・オタゴ(南島)”など、土地の個性を語るピノ・ノワールが次々と登場している。
![画像: 「クラギー・レンジ ピノ・ノワール テ・ムナ・ロード ヴィンヤード マーティンボロ 2023」。ピノ・ノワール100%。750ml ¥7,040。ワイルドベリーやキノコ、ハーブの香り。果実味豊かで繊細な味。酸味も美しい。フレンチオークで10カ月熟成。肉料理のほか、醬油を使った根菜類や魚の煮つけとも合う](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2024/08/26/a6ff07dabbd7cb84ea6913d0f3815f40816f2a59_large.jpg#lz:xlarge)
「クラギー・レンジ ピノ・ノワール テ・ムナ・ロード ヴィンヤード マーティンボロ 2023」。ピノ・ノワール100%。750ml ¥7,040。ワイルドベリーやキノコ、ハーブの香り。果実味豊かで繊細な味。酸味も美しい。フレンチオークで10カ月熟成。肉料理のほか、醬油を使った根菜類や魚の煮つけとも合う
「クラギー・レンジ ピノ・ノワール テ・ムナ・ロード ヴィンヤード マーティンボロ 2023」もそのひとつで、冷涼なテロワールの個性が感じられる魅力的な一本だ。サクランボやチェリーなど赤い果実の香りと心地よいスパイス香、豊かな果実味とピュアな酸味が心に残る。印象的なのがシルキーな質感で、ナチュラルなその味わいは、ブドウが育った壮大で美しい畑の風景を思い起こさせる。
![画像: ダヴィッド・ピーボディ Jr. 氏。経営、栽培、醸造と八面六臂の活躍を見せる。今回で来日は12回目。「日本料理は大好きです。和牛とシラー、天ぷらとシャルドネなど、どれもよく合っていました。日本には多様な食文化があるので、ペアリングも多彩に楽しめますね」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2024/08/26/a7e722b449eb24126062708f29a1e80b8d6868d1_large.jpg#lz:orig)
ダヴィッド・ピーボディ Jr. 氏。経営、栽培、醸造と八面六臂の活躍を見せる。今回で来日は12回目。「日本料理は大好きです。和牛とシラー、天ぷらとシャルドネなど、どれもよく合っていました。日本には多様な食文化があるので、ペアリングも多彩に楽しめますね」
「クラギー・レンジ」は、ニュージーランド北島ホークス・ベイに1998年に設立されたワイナリーで、『The world’s most admired wine brands(世界で最も称賛されるワインブランド)』では2020年から24年まで5年連続でトップ50に入り、権威あるワイン専門誌『ワイン・アドヴォケイト』では、ワイナリーのプレステージラインである「クラギー・レンジ・ル・ソル・ギムブレット・グレーヴェルズ・ヴィンヤード」(シラー100%)が常に高得点を獲得するなど、常に高評価を受ける生産者として知られる。
オーナーファミリーの3代目で、現在はブランドアンバサダーとして活躍するダヴィッド・ピーボディ Jr. 氏は言う。
「私たちファミリーは、アメリカ出身のオーストラリア移民で、国ではいくつかのビジネスを成功させていました。家族が集まる食卓にはいつもワインがあり、『いつか世界で認められるワインを造ってみたいね』と話していました。ワインを造ることは、家族の夢でもあったのです。その“夢の場所”を探すために、私の祖父母はフランスやナパなど世界のワイン産地を回り、見つけたのがニュージーランド北島のホークス・ベイとワイララパのマーティンボロでした。ホークス・ベイは温暖で肥沃な土地、マーティンボロは冷涼な気候で、ここでなら、良質のブドウが育つと思いました。私の両親はその可能性を見出し、ワイン造りをスタートさせたのです」。
![画像: 南島ワイララバ地方マーティンボロにあるテ・ムナ・ムード・ヴィンヤード。冷涼な海洋性気候で、昼夜の寒暖差があり、凝縮感のあるブドウが育つ。ここには、40mの標高差がある畑があり、上部の堆積岩や火山灰が含まれた土壌ではピノ・ノワールを、下部の小石が混じった石灰石土壌ではソーヴィニヨン・ブランを栽培している](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2024/08/26/467ac2c335ff6fc8f65a556b9cc684a70bfe4a02_large.jpg#lz:xlarge)
南島ワイララバ地方マーティンボロにあるテ・ムナ・ムード・ヴィンヤード。冷涼な海洋性気候で、昼夜の寒暖差があり、凝縮感のあるブドウが育つ。ここには、40mの標高差がある畑があり、上部の堆積岩や火山灰が含まれた土壌ではピノ・ノワールを、下部の小石が混じった石灰石土壌ではソーヴィニヨン・ブランを栽培している
今でこそ、ホークス・ベイは高品質のカベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、シャルドネなどで有名で、マーティンボロは繊細でエレガントなピノ・ノワールやピュアな印象のソーヴィニヨン・ブランで知られるが、ワイナリーが設立された当時は未開の地も多かった。「クラギー・レンジ」では「何よりも大切なのはブドウ」と、一本一本ブドウの木を植えるところから始めたという。そして今では、天空まで届くかのような雄々しい岩山に囲まれたブドウ畑は青々と美しく、その壮大な景色に圧倒される。
現在、ワイナリーが注力しているのは自然との共生で、サステイナブルでの栽培を実践、畑の微生物などを調べて土地を理解し、生物生態系を実現させている。ブドウ栽培はオーガニックを実践中で、将来的にはホークス・ベイとマーティンボロのすべての畑をオーガニックに転換する予定だ。
また、栽培の上で興味深いのが、ブドウのクローン(樹の枝を接ぎ木するなどして作られたブドウの樹)へのこだわりだ。ブドウはクローンの違いによって味も違うため、多種のクローンを畝ごとに植えている。たとえば、マーティンボロのテ・ムナ・ロード ヴィンヤードでは、ピノ・ノワールだけで30種のクローンを植え、それを畝ごと、あるいは区画ごとに収穫、75のタンクで細かく発酵させているという。
「こうするとことでテロワールとクローンとの相性が明確にわかり、この地に合ったクローンがセレクトできるのです。土地の個性を生かすためには、クローンの選抜も重要。テロワールの魅力が感じられるワインを造りたいと思っています」とピーボディ Jr.氏。
![画像: ワイナリーはニュージーランドの首都ウェリントンから車で1時間ほどのホークス・ベイに位置。ここにはレストランがあり、『キュイジーヌ・グッド・フード・アワード』で「ワイナリーレストラン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。ジェシンダ・アーダーン前首相が結婚式を挙げたレストランとしても知られる PHOTOGRAPHS:COURTESY OF CRAGGY RANGE](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2024/08/26/bb21ce455cf3a55b79efe22b4af196639030039c_large.jpg#lz:orig)
ワイナリーはニュージーランドの首都ウェリントンから車で1時間ほどのホークス・ベイに位置。ここにはレストランがあり、『キュイジーヌ・グッド・フード・アワード』で「ワイナリーレストラン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。ジェシンダ・アーダーン前首相が結婚式を挙げたレストランとしても知られる
PHOTOGRAPHS:COURTESY OF CRAGGY RANGE
「クラギー・レンジ」のワインは、洗練されたエレガントな味が特徴的だが、それもこの緻密な栽培とていねいな造りがあってのもの。だが、なにより大きな魅力は、グラスを手にする人にどこか肩の力が抜けていくようなリラックス感を与えてくれることだろう。優雅さと透明感を持ちあわせたワインは、週末、ほっとひと息つきたい時間にこそふさわしい。
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