BY CHIHARU ITAGAKI
撮影や取材を徹底して拒み、公の場に姿を現さなかったファッションデザイナーのマルタン・マルジェラ。2008年に引退してからも存在感を示す彼本人が、ついに自らの半生について語った。
ドキュメンタリー映画『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』では、初公開の貴重な資料とともに、人気の「タビ」シューズが生まれた背景や匿名性を貫いたことへの思いが、彼自身の言葉で語られる。刺激的な作風で知られる彼だが、その口調は驚くほど穏やかで、布地に触れる指先は繊細でやさしい。かつてショーに出演したモデルたちが口を揃えて「女性に対する敬意が感じられた」と言う彼の人となりが、画面の端々から垣間見える。
マルジェラの作品は今も決して古びず、新しくさえ見える。バレンシアガを率いるデムナ・ヴァザリアの名を出すまでもなく、現代の若いデザイナーたちの多くが彼から強い影響を受けている。「たくさんのランウェイにまだ彼がいる」と語るのは、著名なファッションエディターのカリーヌ・ロワトフェルドだ。この映画は、偉大なひとりの天才を回顧するだけでなく、未来のファッション・シーンを考えるヒントも与えてくれそうだ。
『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』
2021年9月17日(金)よりホワイトシネクイントほか、全国順次公開
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