せきね きょうこ 連載
新・東京ホテル物語<Vol.32>

New Tokyo Hotel Story “THE CAPITOL HOTEL TOKYU”
ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第32回目は、“賓客をもてなす”歴史ある地に新たな価値を築く「ザ・キャピトルホテル 東急」

BY KYOKO SEKINE

 超都心の小高い丘を舞台に、木々の緑に包まれて建つ「ザ・キャピトルホテル 東急」。このホテルに秘められたあまたのストーリーをご存じだろうか。エントランスに到着すると、竹に隠されたガラスの向こうに、このホテルが辿った華やいだ歴史が隠れているかと想像するだけで高揚感が止まらない。

画像: 坂を上りつめてエントランスに近づくと、若緑色の竹が目に飛び込んでくる。和の趣とモダン建築との融合に魅せられる

坂を上りつめてエントランスに近づくと、若緑色の竹が目に飛び込んでくる。和の趣とモダン建築との融合に魅せられる

 ホテルが発信する情報によれば、「最初は華族の社交場として名をはせた会員制倶楽部。明治期より“賓客をもてなす地”として歴史と伝統を育み、(略)大正の終わりから昭和のはじめには、稀代の美食家・北大路魯山人が会員制料亭『美食倶楽部 星岡茶寮』を主宰し、その美食の系譜を受け継ぐ…(略)」とある。そんな由緒あるホテルの今を紐解いてみよう。

 立地は道路を隔てた繁華街の赤坂地区とは趣を異にし、永田町という日本の政府機関の中枢となる超都心の一等地である。隣接するのは赤坂日枝神社。ここは江戸三大祭りのひとつ「山王祭」でにぎわう神社であり、当ホテルとは小高い丘の上に寄り添うように佇んでいる。「ザ・キャピトルホテル 東急」は、1963年、くだんの星岡茶寮の跡地に建てられ、ホテル「東京ヒルトン」に始まっている。まさに、第一回東京オリンピック・パラリンピックの開催された1964年に向かう日本の高度成長の黎明期に、ホテル建設促進事業の一環としてヒルトン・インターナショナルが進出したのである。

画像: 水場を大切にしているホテルの、あまり知られていないアングル。右がロビーエリア、左は日本料理『水簾』

水場を大切にしているホテルの、あまり知られていないアングル。右がロビーエリア、左は日本料理『水簾』

 ヒルトンインターナショナルとの契約満了に伴い、東急グループへと移籍し「キャピトル東急ホテル」に改名されたのが1984年1月1日。さらにさまざまな経緯を経て、惜しまれながらも未来を見据えて高層ビルへと新築のため2006年に閉館。約4年間もの時を工事に費やし、2010年10月22日、晴れて竣工なった「東急キャピトルタワー」(29階建て)内に、東急ホテルズのフラッグシップとして「ザ・キャピトルホテル 東急」が開業を迎えた。

 前身のホテル時代にはザ・ビートルズが初来日の際に滞在したことでも知られているが、なんの、こうしたストーリーは枚挙に暇のないほど。セレブリティや政府高官、世界の要人たちがこぞって滞在したホテルなのである。現在も同様に、永田町という土地柄もあり政界関係者の利用は多いという。日本の伝統と清楚なモダニズムを感じさせるこのホテルには、日枝神社での厳かな挙式のあとに滞在する若いカップルも増加中だ。都心にいるとは思えない柔らかで格式ある空気感が漂い、都会の喧騒から解き放たれた安らぎのある貴重な空間である。

画像: メインロビーでは草月流の大きな生け花が季節感を演出。奥にはオールデイダイニング『ORIGAMI』が

メインロビーでは草月流の大きな生け花が季節感を演出。奥にはオールデイダイニング『ORIGAMI』が

画像: 和モダンのデザイン「デラックスキング」<44.8㎡>。 バスルームとの仕切りは障子。大きな窓には国会議事堂など東京らしいパノラマビューが広がる

和モダンのデザイン「デラックスキング」<44.8㎡>。
バスルームとの仕切りは障子。大きな窓には国会議事堂など東京らしいパノラマビューが広がる

 ホテルの外観、ロビーのデザインは隈研吾氏によるものだ。天井は釘や接着剤などを使わない木造りの枓栱(ときょう。柱上部などに設置され、軒桁を支える日本伝統的工法。隈研吾氏は外の森と一体になって人を温かく迎え入れるよう、自然との調和を体現する日本建築をデザインした)で構成され、木彫のスタイリッシュな仕切りや水場と相まって新旧伝統の趣を感じさせる。客室はスイート14室を含めて全251室。どの客室もゆったりとしたスペース(44.8㎡以上)があり、障子や襖のアクセントが和モダンを引き立てている。

画像: ロビーから渡殿を抜けた先にある、離れのような造りのメインダイニング『水簾(すいれん)』。写真は個室の夜景

ロビーから渡殿を抜けた先にある、離れのような造りのメインダイニング『水簾(すいれん)』。写真は個室の夜景

画像: 写真はフカヒレ料理とともに人気の高い『星ヶ岡』の豚肉料理。土・日曜・祝日は伝統のオーダー式バイキング「スペシャルトリート」を開催。120種類のメニューから好みのものを好きなだけ、という豪華版だ PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE CAPITOL HOTEL TOKYU

写真はフカヒレ料理とともに人気の高い『星ヶ岡』の豚肉料理。土・日曜・祝日は伝統のオーダー式バイキング「スペシャルトリート」を開催。120種類のメニューから好みのものを好きなだけ、という豪華版だ
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE CAPITOL HOTEL TOKYU

 また、オリジナリティあふれるレストランのラインナップは、飽くなき美食家として知られた北大路魯山人が、かつてこの地でゲストをもてなした『星岡茶寮』(前述)の精神を継ぎ、ホテルのコンセプトとして掲げる“不易流行”を食の提供にも採り入れたもの。これもまた、「新旧融合の中で大切なものは守る、そこに新しさをプラスして追求する」という、現在の「ザ・キャピトルホテル 東急」の礎(いしずえ)である。

ザ・キャピトルホテル 東急(The Capitol Hotel Tokyu)

住所:東京都千代田区永田町2-10-3
電話: 03(3503)0109
客室:全251室
料金:¥48,000~(1泊1室2名の室料。消費税・宿泊税・サービス料別 )
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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