本誌ファッション特集で活躍中のスタイリストの古牧ゆかりさんは、無類の旅好きだ。「旅先で見る景色は、心の中の引き出しにたくさんの色彩のストックを作ってくれる。旅は人生の宝物」という彼女が訪れたウズベキスタンへの旅の記録を、全3回でお届けする

TEXT AND PHOTOGRAPHS BY YUKARI KOMAKI

 翌日はウルグ・ベク天文台へ。ウルグ・ベクはティムール朝の第4代君主であり、優れた天文学者でもあった。彼と有識者のチームは1420年代から天文観測を行い、その記録は1437年に世界初の天文表としてまとめられた。この天文台で、1年が365日6時間10分8秒と計測された。現代の最新技術を用いて計測した数字と、わずか2秒しか差のない正確さだ。天文台の小さな窓から夜空に輝く星の数をひたすら観測するなんて、現代に生きる私たちには想像できないほど緻密で地道で、そしてあまりにもロマンティックな作業。ただただ天体の規則性や科学のことわりを深く知りたいという、純粋な欲求に突き動かされていたのだろう――と空想する。

画像: ウグル・ベク像。その後ろのブルーのタイルには天体を描いたレリーフが施されている

ウグル・ベク像。その後ろのブルーのタイルには天体を描いたレリーフが施されている

 だが、当時の保守的な勢力からの反発および支配権争いにより、実子のアブドゥル・リャティフによりウルグ・ベクは暗殺され、天文台は破壊されてしまった。1908年にロシアの考古学者ヴァシリー・ヴィヤトキンが文書を発見し、その天文表を頼りにこの地を掘り起こし、土の中から発見するまで、この天文台の存在は知られていなかったのだ。

それにしても、600年も前に現代と2秒しか差のない値を導き出していたとは! 天文学の父といわれるガリレオ・ガリレイよりも100年以上前の話だ。ここは科学をはじめ、世界屈指の学術の最先端都市だったのだろう。今、私がここで見上げている空に輝く星々は、当時のサマルカンドの上の満点の星空にも輝いていたのだと、悠久なる時の流れにしばし思いを馳せる。

画像: 地下に残る六分儀跡(太陽の南中を決定するための観測施設)。天文台の地上部分は破壊されてしまい、現存しない

地下に残る六分儀跡(太陽の南中を決定するための観測施設)。天文台の地上部分は破壊されてしまい、現存しない

 史跡を訪ねた後は、ウズベキスタンの現在の食を探索すべく、市場へ向かう。途中、ターミナル・ステーションの構内で、女性たちが自家製のパンを売っていたので足を止める。サマルカンドはわざわざよそからこの地までパンを買いに人々がやってくるほど、パン(ナン)がおいしい土地だ。

 円盤状で少し甘みのあるパンは、たいてい真ん中のへこんだあたりにゴマが乗っていて、香ばしくてほんのりと甘い。なんとなくモロッコで食べたパンを思い出した。パンを毛布にくるんで売っているのは固くならないようにするためらしい。一人で山のように何枚も買っていく人もいて、そんなに買い込んだら、それこそ食べ切る前に固くなるのでないかと疑問に思う。あとで聞いてみると、なんとこのパン、固くなっても水を含ませて焼き直せば、この地の気候なら2年くらいもつものらしい。

画像: パンを売る女性。ほかにもパン売りの屋台は数多く並んでいたが、色鮮やかな布を何枚もまとった彼女たちの笑顔に、思わず吸い寄せられてしまった

パンを売る女性。ほかにもパン売りの屋台は数多く並んでいたが、色鮮やかな布を何枚もまとった彼女たちの笑顔に、思わず吸い寄せられてしまった

 パン売りのおばさんたちは寒さよけのためか、服を何枚も着込んで、まん丸になっている。ピンクのエプロンがアクセントになっていたり、豹柄のスカーフだって、なんだかイケている。以前インドに行ったときも感動したものだが、遠い街で出会う人たちの着こなしに、時おりハッとさせられる。すばらしい色彩と組み合わせ、その新鮮さにわくわくする。ただあるものを重ねて着込んでいるだけなのだろうと思うが、案外、もともと彼らが持っている色彩感覚のなせる技なのかもしれない。

 

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