ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第44回目は、東京とは思えぬ大自然に心やすらぐ「東京・青梅石神温泉 清流の宿 おくたま路」

BY KYOKO SEKINE

 人生初の青梅駅での下車。まず、東京とは思えない静かさやのどかさ、小高い山々の連なる緑美しい風景に驚かされた。都心から電車で約90分、青梅駅からは車で15分ほどで到着する宿に向かったのは、新緑が残る6月初旬だった。

画像: 濃い緑に包まれる宿「清流の宿 おくたま路」が中央に見える。清流は多摩川の源流。初夏はアユ釣りも解禁になる

濃い緑に包まれる宿「清流の宿 おくたま路」が中央に見える。清流は多摩川の源流。初夏はアユ釣りも解禁になる

 これまでも繰り返してきたが、東京は実に懐が深い。大都会のビル群だけではなく、山も、清流も、海も、東京にはまだまだ大自然が随所に残されている。その首都東京の奥座敷と呼ばれる奥多摩に、ひっそりと佇む温泉旅館「東京・青梅石神温泉 清流の宿 おくたま路」を、この連載の初夏の旅先に選んだ。

 宿は、「青梅、御岳、奥多摩への観光拠点として最高の立地」と謳っている。敷地の三方が、源流に近い多摩川の流れに囲まれた”扇状地”の扇頂にあり、萌黄色をいまだ残す初夏の新緑は眺めるだけで感動的だ。この宿にはテニスコートもあり、宿の周辺の散策もできる。新緑に包まれた景色を楽しみながら散策し、アユ釣りの解禁になった清流を見に行くのも、体と心のデトックスに最高だろう。しかし、私は何をするでもなく、温泉を楽しみ、予定を作らずに広いロビーラウンジでゆったりと時の流れを楽しんだ。   

画像: 初夏のモミジが美しい宿の前景

初夏のモミジが美しい宿の前景

 秋の紅葉もまた、格別にいいと言われている。よく見れば宿の周囲には広葉樹が多く、特に年季の入った紅葉の木がとても多いことに気づかされる。桜の木もたくさんあり、春もさぞかし華やかな情景が楽しめるのだろう。つまり自然の豊かな場所では、いつの時期に来ても、四季折々の彩が楽しめるのだ。

画像: 天井の高いロビーラウンジ。窓が大きく外の自然との一体感が快適

天井の高いロビーラウンジ。窓が大きく外の自然との一体感が快適

 館内の「レストラン清流」では、若い料理長が腕を振るう、大胆さと繊細さの交差する創作日本料理が楽しめる。地元食材で創られる素朴で野趣あふれる料理は、新鮮で素直に美味しい。付近の農家や近くの清流からの恵みに加え、ブランド豚「TOKYO X」や地元産わさびまで、山里の旬の食材がふんだんに使われている。

 レストランでの夕食時、一人で来ている若い女性を見かけた。その女性とは、夕食後に大浴場で再び出会った。挨拶を交わすと、「都心から週末を過ごしに来ている」と言う。誰に遠慮もなく、静かな時間を過ごしたい一人旅にも最適の宿なのだ。支配人も「一人旅の女性は案外いらっしゃいます」と語る。

画像: 清流を眺めながらの食事を楽しめる、広々とした食事処「レストラン清流」。初夏を代表する多摩川の新鮮な恵み「鮎」と、地元の肉、野菜など地産地消をたっぷりいただく「石焼き」

清流を眺めながらの食事を楽しめる、広々とした食事処「レストラン清流」。初夏を代表する多摩川の新鮮な恵み「鮎」と、地元の肉、野菜など地産地消をたっぷりいただく「石焼き」

 距離的にも、料金的にも、気軽に足を運べる東京の温泉宿である。ここ青梅石神温泉は、小河内ダムの湖底に水没した「鶴の湯温泉」をポンプで汲み上げ、タンクローリーで毎日配湯されている効能豊かで貴重な温泉だ。pH値が10.0という高アルカリ温泉で美肌の湯でもあり、浸かった後には肌がツルツル。

画像: これが噂の天然温泉。湧出地は奥多摩の「青梅石神温泉」大浴場。日帰り入浴も可(¥800)。リラクゼーションスペースにはマッサージチェアが揃う

これが噂の天然温泉。湧出地は奥多摩の「青梅石神温泉」大浴場。日帰り入浴も可(¥800)。リラクゼーションスペースにはマッサージチェアが揃う

 都心を流れる多摩川からは想像もつかないが、この宿には、澄んだ清流の多摩川が望める客室が全20室揃っている。和室、和洋室、洋室があり、ツインルームやトリプルルームの洋室にはセミダブルベッドが設置されている。またエキストラベッドが備わる部屋もあり、宿が所有する二面のテニスコート目的に来る常連客や、会社の研修などのグループ客にも対応しているという。

画像: 「清流眺望の和室」 人気の高い和室、清流眺望の和室。外には清流が流れる

「清流眺望の和室」
人気の高い和室、清流眺望の和室。外には清流が流れる

画像: ゆとりのある和洋室はバスルーム付き PHOTOGRAPHS: COURTESY OF JAPANESE STYLE HOTEL OKUTAMAJI

ゆとりのある和洋室はバスルーム付き
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF JAPANESE STYLE HOTEL OKUTAMAJI

 宿はもともと「国民年金健康保養センター おくたま路」として営業していたが、その贅沢な建物を平成26年7月、日本ビューホテルグループがリニューアルを手掛けて現在の形となった。高級感のある客室の造りは、敢えて意匠を壊さず残しており、網代の天井、手漉き和紙のライティング、洒落た和室のデザインなど、当時、丁寧に、そして細やかな心遣いで造られた建物であることを、そこここに感じることができる。

 とにかく、これからの夏旅におすすめの宿である。奥多摩の原風景の中で過ごしているだけで心癒され、都心とはあまりに違う顔の東京が愛おしいほどである。

東京・青梅石神温泉 清流の宿 おくたま路(JAPANESE STYLE HOTEL OKUTAMAJI)
住所:東京都青梅市二俣尾2-371
電話:0428(78)9711
客室数:全20室
料金:「やまなみプラン」¥15,000、「清流プラン」¥17,000、「せせらぎプラン」¥19,000(2名利用の1名1泊2食。消費税・入湯税・宿泊税 別)
※ 土・日・祝日はプラス¥3000
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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