ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第45回めは、森と庭園が心を癒す都心のオアシス「ホテル椿山荘東京」

BY KYOKO SEKINE

 7月というのに今年の夏は雨や涼しさの中にあった。しかしそれが功を奏して、ホテル椿山荘東京の敷地内を流れるほたる沢には、暗闇に光を放つ蛍が幾つも姿を現してくれた。蛍は山葵の生育同様、清流でないと見られないのが自然の摂理。こんな都心に澄んだ沢が流れていて、5月下旬からゲンジボタルが姿を現すという。都心での貴重な蛍狩りのひとときを楽しむことができた。

画像: 総敷地面積約5万㎡、特に夏は深い緑に覆われ清々しい庭園となる。パワースポットとして知られる水の湧き出る古香井(ここうせい)、滝、清流などまさに“都会の森”の様相。ホテルはその庭園の一部に建つ

総敷地面積約5万㎡、特に夏は深い緑に覆われ清々しい庭園となる。パワースポットとして知られる水の湧き出る古香井(ここうせい)、滝、清流などまさに“都会の森”の様相。ホテルはその庭園の一部に建つ

 「ホテル椿山荘東京」は、世界的なホテルブランド“フォーシーズンズ”の冠を外し、もともと名門の結婚式場だった椿山荘と統合され、2013年1月1日にスタートを切った。5万㎡の敷地には、緑濃い森や清流が流れる中に、庭のシンボルである三重塔や茶室、数寄屋造りの料亭やレストランなど、見逃せない史蹟や施設が緑に隠れるように点在している。「史蹟めぐりコース」と題する園内散歩は、誰にも高い人気を誇っていると言うが、納得である。春には桜が咲き誇り、初夏の新緑から夏の濃い緑の森へと移り行く自然、そして秋の彩り豊かな紅葉。

画像: 蛍観賞は一般に5月下旬から6月下旬。宿泊した日は、7月というのに涼しさのおかげで蛍が出現

蛍観賞は一般に5月下旬から6月下旬。宿泊した日は、7月というのに涼しさのおかげで蛍が出現

 さらに庭園内には二十もの羅漢石がそこここに隠れている。また、池の近くで笑顔の大黒天を見つけ、思わず心和ませた。都心では珍しい湧き水の古香井(ここうせい)もあり、この水のお蔭で蛍観賞ができるのだ。他にも、白玉稲荷神社や滝をめぐる「パワースポットコース」など散歩コースを選択し、朝の散策に爽快な時が過ごせる庭園である。

画像: 江戸中期の画家、伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)の下絵による五百羅漢のうちの約20体が庭園に点在。ほかは京都・伏見の石峰寺に置かれている。写真は七福神の恵比寿様

江戸中期の画家、伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)の下絵による五百羅漢のうちの約20体が庭園に点在。ほかは京都・伏見の石峰寺に置かれている。写真は七福神の恵比寿様

 1878年(明治11年)、政治家、軍人、文化人であった山縣有朋が、私財を投じて手に入れた「つばきやま」に庭園や邸宅を造り、「椿山荘」の祖を造り上げた。
 時を経て1952年、「旧椿山荘」が誕生。そしてバブル華やかなりし1992年、「旧フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」が開業し日本中で大きな話題となった。当時、まだ東京には外資系のラグジュアリーホテルは少なかったのである。

画像: 華やかなヨーロピアンエレガンスを感じるロビー。多くの案内や大きな看板を出していないのは、“人がご案内する”ことを信条に、ロビーに常にホテルマンが立っているから

華やかなヨーロピアンエレガンスを感じるロビー。多くの案内や大きな看板を出していないのは、“人がご案内する”ことを信条に、ロビーに常にホテルマンが立っているから

 ホテルのエントランスを入ると、豪華な大理石造りのスペースが広がり、庭の緑がすでに目に迫る。ロビー階には、ホテル開業当時から高い人気を誇ったラウンジ「ル・ジャルダン」がある。アフタヌーンティーのために、列を作って何時間も並んだことがニュースになった時代だ。今の若い女性たちは、27年も前にこの優雅なラウンジで起きた数々のドラマを知らない。このラウンジこそ、日本のホテルで提供された本格的な英国式アフタヌーンティーの始まりでもあったのだ。

画像: 「プライムクラシック デラックスルーム ガーデンビュー」 窓のカーテンを開ければ、庭の中心に三重塔が見える。客室内はゆとりのあるエレガントな造り、木の温もりやそれぞれのスペースを仕切るドアにも高級感がある

「プライムクラシック デラックスルーム ガーデンビュー」
窓のカーテンを開ければ、庭の中心に三重塔が見える。客室内はゆとりのあるエレガントな造り、木の温もりやそれぞれのスペースを仕切るドアにも高級感がある

画像: 「ビューバススイート」のバスルーム。庭園を望むモダンなインテリアが印象的

「ビューバススイート」のバスルーム。庭園を望むモダンなインテリアが印象的

 久しぶりに滞在した客室も、「営業しながら、各階ごとにリニューアルをしています」(マーケティング責任者)との言葉通り、大きく変わらないように様々な改装をし、快適に過ごせるよう配慮がなされていた。重厚感のある客室エントランス同様、客室内はどのドアも、キャビネットの造りも、驚くほどの高級感が漂っている。それにしても、ガーデンビューの客室から、カーテンを開けて見える庭園は中央に聳える三重塔を中心に感動的に美しい。また2012年にオープンした空中庭園「セレニティ・ガーデン」も贅沢なオープンスペースである。

画像: 庭園のシンボルである三重塔。大正14年、山縣有朋の後に主となった藤田平太郎が、広島県の竹林寺にあった壊れかけた塔を譲り受け、この地に移築・修理。建築時期は不明だが、室町時代初期の部材が使われている美しい建築 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HOTEL CHINZANSO TOKYO

庭園のシンボルである三重塔。大正14年、山縣有朋の後に主となった藤田平太郎が、広島県の竹林寺にあった壊れかけた塔を譲り受け、この地に移築・修理。建築時期は不明だが、室町時代初期の部材が使われている美しい建築
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HOTEL CHINZANSO TOKYO

 文献には「山縣の庭園は、出身地である萩の地形を再現した」とある。しかし、昭和20年の東京大空襲で、庭園や邸宅は崩れ落ちてしまった。それを昭和23年、藤田鉱業(旧藤田組)が手に入れ、創業者である小川栄一が「戦後の荒廃した東京に緑のオアシスを」と、現在の庭園の基礎を築いた。想像を絶する資金力や、不動の決意、美意識の高さがなければ…… と改めて思う。こうした歴史に思いを馳せ、貴重な庭園を楽しみながら滞在するのが、「ホテル椿山荘東京」の魅力でもあろう。素晴らしい庭園や、蛍飛び交う沢など、もう都心にはできようもないと思うと、守られるべき景観なのである。

ホテル椿山荘東京(HOTEL CHINZANSO TOKYO)
住所:東京都文京区関口 2-10-8
電話:03(3943)1111(代表)
客室数:全267室
料金:¥53,000~(1泊1室の室料。消費税・サービス料・宿泊税別)
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

 

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