チェーン系のブックショップが閉店していくなかで、「スリー・ライブス&カンパニー」は健在だ。ここは、いまも地域住人たちの典型的な溜まり場になっている

BY REGGIE NADELSON, TRANSLATED BY MASANOBU MATSUMOTO

 いま、店の中は棚や長テーブル、フロントのデスクの上まで、本でいっぱいだ。ペーパーバックもハードカバーも、フィクションから歴史モノ、犯罪モノ、そして「スリー・ライブス・プレス」によって印刷された最初の本『The Last Leaf』(邦題:最後の一葉)を含む、ニューヨークについての素晴らしいセレクションも置かれている。ちなみにこの『The Last Leaf』は、昔のグリニッチ・ビレッジでのアートと生活を題材にしたO.ヘンリーの短編小説である。

画像: スリー・ライブスが入っている建物の1940年代後半の様子。当時のグリニッジ・ビレッジは、他に稼ぎどころのない作家や芸術家たちの“避難所”的なエリアだった。このとき、建物に店を構えていたのはウエスト・ビレッジにサービスを提供するデリ&食料品店だった COURTESY OF THREE LIVES & CO.

スリー・ライブスが入っている建物の1940年代後半の様子。当時のグリニッジ・ビレッジは、他に稼ぎどころのない作家や芸術家たちの“避難所”的なエリアだった。このとき、建物に店を構えていたのはウエスト・ビレッジにサービスを提供するデリ&食料品店だった
COURTESY OF THREE LIVES & CO.

 毎日、店長のトロイ・チャタートンが店を開けると、客たちがどっとスリー・ライブスに入ってくる。まるで酸素がどっと体を巡り細胞を修復していくように。トロイは、ある種、昔ながらの男で、“グリニッチ・ビレッジの本屋で働く青年の21世紀バージョン”といった感じの人間だ。親しみやすく、クールで、スリー・ライブスをよく訪れた作家のエドマンド・ホワイトやオリバー・サックスらの優れた作品もよく読んでいる。私は、スリー・ライブスをトロイという管理人による街中に隠れた“秘密の庭”だと思っている。お互いのことや友人のこと、見知らぬ人たちについての低俗的なおしゃべりをする人は少なく、人々は好きな作家について話し合ったり、古典作品の改訂版について意見を述べあったりする。そんな楽しい賑わいがある。

 スリー・ライブスで20年働いているジョイス・マクナマラは「最高のお客様というのは、1時間ここで過ごすだけで、店内のあらゆるものを見て、それを理解し、“あなただったらどう思う?”と尋ねてくる人」だと言う。マクナマラは、ある一冊の本をきっかけにこの仕事についた。「マイケル・カニンガムの『THE HOURS』(邦題:めぐりあう時間たち)で、マイケルがスリー・ライブスへの謝辞を記していたのを見たのです」と彼女は言う。

 私は、かび臭い過去を祝うようなニューヨークの感傷主義が苦手だ。しかし独立系の書店がなくなっていくのは辛い。私がグリニッチ・ビレッジで育ったころ、この交差点の書店は、薬局やバーと同じように街の一部になっていた。夕食後の散歩に、ほとんどいつもここを訪れ、そしてドラッグストア「シーオービゲロウ」に寄ってアイスクリームを買うという家族もいる。「散歩の後に、子どもを連れてきて、それが子どもたちにとって初めての読書体験になったという家族も、数え切れないほどいるでしょう」とフェダーは話す。

画像: 店内のあらゆる空間は本で埋め尽くされている PHOTOGRAPH BY NINA WESTERVELT

店内のあらゆる空間は本で埋め尽くされている
PHOTOGRAPH BY NINA WESTERVELT

 昔を懐かしがるのはこの辺でやめておこう。ロンドンの優れた書店を多く所有しているジェームズ・ドーントは、アメリカ最大の書店チェーン「バーンズ&ノーブル」を“本屋らしい本屋”に戻すだろうか?(註:2019年、経営難が噂されていたバーンズ&ノーブルを、2019年、ヘッジファンド「エリオット・マネジメント」が買収。ジェームズ・ドーントがCEOに就任した)。今、成功しているのは、西61丁目の書店「アーゴシー」やフランス大使館にある「アルバーティン」のような特徴のある書店だ。スリー・ライブスも週末は人でごった返しになる。私は『ハリーポッター』が発売された時と同じように、昨年、村上春樹の新刊を手に入れるために、この店で深夜1時から順番待ちしなければいけなかったのを覚えている。また、あまり名が知られていないノルウェーの小説やチェコの詩集の翻訳版を、いつも誰かが購入している姿がある。

「私はいつも、店員におすすめを聞くようにしています」と、ニューヨーク大学の人類学の教授マイケル・ギルセナンは話す。彼は少なくとも週に一度はスリー・ライブスに立ち寄るという。「店員はいつも、顧客がどんなことに興味をもっているかを考えながら、忙しく働いています。ここは本当の意味で、開かれた場所であり、地域の一部分になっているのです」

 太陽がいつもとおなじく西に沈んだころ、スリー・ライブスは、ハリウッドのデザイナーが作り出した書店のような美しい姿を見せる。夢の本屋だ。ここは、ニューヨークの独立系企業の美しく完璧な形態であり、顧客の興奮で活気に満ちていて、ニューヨークの小売業には、まだこうした本当のロマンスが存在しているのだという安心感を与えてくれる書店なのである。

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