ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第67回目は、都心にありながら日々の喧騒を忘れさせてくれる温泉旅館 「由縁別邸 代田」

BY KYOKO SEKINE

 新宿から小田急線で12分ほど、世田谷代田の駅に隣接し、閑静な住宅地の一角に佇む温泉旅館「由縁別邸 代田」が、2020年9月28日にオープンした。その前年の2019年5月には「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」が開業しており、今回は都内二軒目の「由縁」となる。異なる点を挙げるならば、「ONSEN RYOKAN 由縁」はターミナル駅近くで展開するタイプ、「由縁別邸」は落ち着いた立地で展開する低層の施設で、上質な空間やサービスを楽しめるアッパークラスの温泉旅館として位置づけられている。

画像: 小田急線・世田谷代田駅に隣接するとは思えない閑静な場所に建つ旅館。周囲には新たに作られた緑道や洒落た店舗が続き、下北沢までの散策も楽しめる

小田急線・世田谷代田駅に隣接するとは思えない閑静な場所に建つ旅館。周囲には新たに作られた緑道や洒落た店舗が続き、下北沢までの散策も楽しめる

「由縁別邸 代田」は、昔と変わらぬ情景のように、街に溶け込む屋敷の佇まいを目指したという。館内のパブリックスペースには、築100年以上の歴史ある世田谷の茅葺屋敷から譲り受けた建具や景石なども採り入れている。こうして世田谷代田という地域らしさ、その土地の記憶を纏った空間が造られた。モダンなスペースのレセプションエリアにも、花が彫られた美しい欄間や、巨石など譲り受けたものが飾られ、先人たちが残した日本家屋の美意識が輝いている。

画像: 光を落としたロビーに入ると、ここが都心かと思うほどの雰囲気が漂う

光を落としたロビーに入ると、ここが都心かと思うほどの雰囲気が漂う

 客室数は全35室、そのうち「露天風呂付デラックスツインルーム」が2部屋あり、他の部屋はシャワー付きだ。それとは別に、温泉の露天風呂と、沸かし湯の内湯からなる大浴場が用意されている。温泉は、「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」同様、箱根「小田急 山のホテル」の自家源泉、「芦ノ湖温泉“つつじの湯”」から運ばれ、男女別大浴場のそれぞれの露天風呂を満たしている。泉質は肌に良いアルカリ性単純温泉だ。中庭を望む内湯と、ヒバの木の香り漂う露天風呂の温泉は東京の喧騒をすっかり忘れさせてくれる趣がある。また、女湯には淡路島の香りアーティスト、IZUMI KAN(和泉 侃)氏プロデュースによるオリジナルアロマのミストサウナがあり、男湯には広い空間のドライサウナが設置されている。

画像: 2階「プレミアムダブルコーナールーム」<32㎡>

2階「プレミアムダブルコーナールーム」<32㎡>

画像: 「デラックスダブルルーム」<23㎡>

「デラックスダブルルーム」<23㎡>

 とにかく都心で本物の温泉を楽しめるとあり、SNSや口コミで噂はあっという間に広がり、開業以来なかなかの人気を誇る旅館である。温泉と飲食のセットプラン「日帰りプラン」(甘味セット、おつまみセット、ランチセット、ディナーセット)は若者の利用も多く、さらに女性同士や家族連れにも幅広い人気となっている。そのためホテルではコロナウイルス感染症対策に万全を期し、現在は、大浴場やサウナの利用には人数制限を行っている。

画像: 男女ともに露天風呂は箱根から運ぶ天然温泉。アルカリ性単純温泉でゆったりと浸かり、都会の喧騒を忘れて

男女ともに露天風呂は箱根から運ぶ天然温泉。アルカリ性単純温泉でゆったりと浸かり、都会の喧騒を忘れて

画像: 男女別大浴場にはそれぞれ庭が造られ落ち着いた雰囲気。男湯にはドライサウナ、女湯にはオリジナルアロマのミストサウナが付いている

男女別大浴場にはそれぞれ庭が造られ落ち着いた雰囲気。男湯にはドライサウナ、女湯にはオリジナルアロマのミストサウナが付いている

 また食事にもこだわりがあり、「割烹 月かげ」では和食の職人が旬の食材を用い、心を込めて調理。本格的な美味しい和食がいただける。「茶寮 月かげ」では、茶業で栄えていた代田の歴史と文化を継承し、日本茶をメインに取り扱う茶寮として、お茶と同時に自家製の甘味も楽しめる。また夜はバーとして、雰囲気のある欅のカウンターがより一層大人のムードを醸し出している。

画像: ロビーに隣接する「茶寮 月かげ」は、かつて茶業で潤っていた代田の歴史を継承し日本茶をメインに、昼はカフェラウンジとして自家製甘味も提供。夜は大人の空気感あふれるバーに PHOTOGRAPHS:COURTESY OF NACASA & PARTNERS

ロビーに隣接する「茶寮 月かげ」は、かつて茶業で潤っていた代田の歴史を継承し日本茶をメインに、昼はカフェラウンジとして自家製甘味も提供。夜は大人の空気感あふれるバーに
PHOTOGRAPHS:COURTESY OF NACASA & PARTNERS

「茶寮 月かげ」のお茶に対する本物志向は、代田の歴史に根づいている。旅館が建つ世田谷区代田は、かつて茶畑が広がっていたという。そうした背景に敬意を払い、日本では15人しかいない茶師十段、2名を有する地元の日本茶専門店「しもきた茶苑大山」がセレクトするお茶を美味しく淹れることにこだわる。世田谷区の変遷をたどると、明治時代には広大な茶園が広がり、製茶業も営まれていたとのこと。東京にもそんな一面があったとはーーこうして身近な場所に知らない歴史が隠れていることもあり、知見を広げることの楽しさは計り知れない。

画像: 香り深く甘みのある水出し緑茶は好評 COURTESY OF YUEN BETTEI DAITA

香り深く甘みのある水出し緑茶は好評
COURTESY OF YUEN BETTEI DAITA

由縁別邸 代田(YUEN BETTEI DAITA)
住所:東京都世田谷区代田2-31-26
電話:03(5431)3101
客室数:全35室
料金:¥25,000~(2名1室の室料、消費税・サービス料込、食事別、入湯税¥150)
※ その他各種プランあり
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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