建築、デザイン、グリーン、アートが融合した〈白井屋ホテル/SHIROIYA HOTEL〉。前橋に誕生した注目のホテルは、新たな街づくりの起点ともなる。藤本壮介、田中仁、ふたりのキーパーソンが語った

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY KOHEI OMACHI

〈白井屋ホテル〉に入ってまず驚かされるのは、そこに現れる緑の生い茂る巨大な吹き抜けのラウンジ空間だ。
「最初にこの建物を見たときに、全部ぶち抜いて吹き抜けをつくるくらいのインパクトでできたら面白いですねと田中さんに話したんです」と建築家の藤本壮介は振り返る。

「ラウンジに気持ちのよい吹き抜けをつくり、そこになんでも入ってきていいようなある種のおおらかさを持たせたいと考えました。ラウンジを街のリビングルームのような広がりのある空間にしたいと思ったんですね。さらに1階にはラウンジのほかに、レセプション、レストラン、オールデイダイニングといろいろな要素があるので、すべてがつながりすぎないように緑を入れました。吹き抜け空間にはブリッジや階段を巡らせて、下から見上げるだけでなく、空間を動き回れると楽しいのではと、そんなふうに少しずつ設計は進んでゆきました」

画像: 最上階となる4階から見下ろした吹き抜け空間。客室は吹き抜けを囲む通路沿いに配置され、階段と通路をつなぐブリッジとレアンドロ・エルリッヒの《Lighting Pipes》が迷路のような空間をつくり出す

最上階となる4階から見下ろした吹き抜け空間。客室は吹き抜けを囲む通路沿いに配置され、階段と通路をつなぐブリッジとレアンドロ・エルリッヒの《Lighting Pipes》が迷路のような空間をつくり出す

 4フロアを貫く吹き抜けには、ブリッジが張り渡され、さらにその合間を縫うように現代美術家レアンドロ・エルリッヒによる《Lighting Pipes》と名付けられた光るパイプが駆け巡る。その様子は迷宮を思わせ、この空間自体が現代美術のようだ。ほかにも、ラウンジには安東陽子のテキスタイルや武田鉄平のペインティングが配され、レセプションには杉本博司の海景シリーズ《ガリラヤ湖、ゴラン》がかけられている。客室はデザイン界の大御所ジャスパー・モリソンやミケーレ・デ・ルッキがデザインした部屋をはじめ、塩田千春、鬼頭健吾、鈴木ヒラクといった現代美術家の作品を展示した部屋など、すべて異なるクリエイターが関わるものとなっている。

画像: 25室ある客室のうち4室はクリエイターが内装から手がけたスペシャルルームとなっている。写真は、デザイナー、ジャスパー・モリソンによるスペシャルルーム。木製の箱のようなデザインで、部屋に入ると心地よい木の香りが楽しめる

25室ある客室のうち4室はクリエイターが内装から手がけたスペシャルルームとなっている。写真は、デザイナー、ジャスパー・モリソンによるスペシャルルーム。木製の箱のようなデザインで、部屋に入ると心地よい木の香りが楽しめる

「ここまでいろいろな人とコラボレーションしたのは初めてでしたが、あまり抵抗なく進みました。このホテルには、クリエイター以外にも、建物が面する国道、裏手を走る馬場川通り、既存の白井屋の建物、馬場川通りにある家々などたくさんの要素があります。それらを緩やかに束ねるベースとなる枠組みをつくるのが、建築家の役割だと考えています。さまざまな要素が入ってくることで、それぞれが引き立ち、最終的によりよいものになる。それに建築はでき上がっても、そこで完成することはありません。いろいろな人を巻き込みながら成長してゆくことで、豊かな建築になるのだと思います」

画像: アーティスト集団、ダムタイプのメンバーでもある高谷史郎の写真作品が飾られた部屋

アーティスト集団、ダムタイプのメンバーでもある高谷史郎の写真作品が飾られた部屋

画像: 藤本壮介デザインのスペシャルルーム。家具につけられた管から植物がめぶいている。家具も藤本が手がけた

藤本壮介デザインのスペシャルルーム。家具につけられた管から植物がめぶいている。家具も藤本が手がけた

 ホテルのプロジェクトがスタートしてからオープンに至るまで、6年の時間が費やされた。その間に、「めぶく。」というビジョンが生まれ、当初は重きをおいていなかったアートがホテルの重要な要素のひとつともなった。さまざまなアイデアが生まれる中で、田中と藤本は月に一度打ち合わせの場を設け、ひとつひとつ丁寧に吟味していったという。

「ビジネス的には、そんなに時間をかけてよいのかと思いますが」と藤本は笑いながら振り返る。「床に用いたレンガから客室のドアノブまで、田中さんと一緒にマテリアルを見ながら決めました。その結果、ホテル全体に熟成感が生まれたと思います。いろいろなものが溶け合っている感じがしますね」

画像: 「グリーンタワー」の頂上にある小屋の中には、宮島達男によるデジタルカウンター作品を展示。メディテーションルームのような雰囲気に。宿泊者のみが鑑賞できるスペースとなっている TATSUO MIYAJIMA LIFE (LE CORPS SANS ORGANES)- NO.17 2013 VARIABLE SIZE L.E.D., IC, MICROCOMPUTER BY IKEGAMI PROGRAM, STEEL, PLASTIC COVER, PASSIVE SENSOR, ELECTRIC WIRE. LIFE (LE CORPS SANS ORGANES)- NO.10 2014 VARIABLE SIZE L.E.D., IC, MICROCOMPUTER BY IKEGAMI PROGRAM, STEEL, PLASTIC COVER, PASSIVE SENSOR, ELECTRIC WIRE

「グリーンタワー」の頂上にある小屋の中には、宮島達男によるデジタルカウンター作品を展示。メディテーションルームのような雰囲気に。宿泊者のみが鑑賞できるスペースとなっている

TATSUO MIYAJIMA LIFE (LE CORPS SANS ORGANES)- NO.17 2013 VARIABLE SIZE L.E.D., IC, MICROCOMPUTER BY IKEGAMI PROGRAM, STEEL, PLASTIC COVER, PASSIVE SENSOR, ELECTRIC WIRE. LIFE (LE CORPS SANS ORGANES)- NO.10 2014 VARIABLE SIZE L.E.D., IC, MICROCOMPUTER BY IKEGAMI PROGRAM, STEEL, PLASTIC COVER, PASSIVE SENSOR, ELECTRIC WIRE

 確かに〈白井屋ホテル〉には、新しいホテルに漂う冷たさがない。既存の建物のリノベーションということもあるかもしれないが、ラウンジに配された生い茂る緑と相まって、長い時間の経過した建物が持つような居心地のよさがある。

「田中さんは、街のポテンシャルが残っているところに、点で新しいものを入れてゆくというやり方で街づくりを行っています。人々の生活はいい意味で変わらないけれど、ある日突然新しい何かがぽこっとできてゆっくり街全体が変わってゆく。小さいけれども効果的な点を打つことにより、既存のもののよさと新しいものの刺激が混在し、街を壊すことなく活性化させることができるのではないでしょうか」

画像: 現代美術家の杉本博司と建築家の榊田倫之による新素材研究所が設計した「真茶亭」 プライベートな会食や集いを行うための特別個室。〈白井屋旅館〉にあった茶室に着想を得て、内装の土壁は抹茶色に。ファサードには職人が小口を割って表情をつけた100枚を超えるガラスが積み重ねられている © HIROSHI SUGIMOTO / COURTESY OF NEW MATERIAL RESEARCH LABORATORY

現代美術家の杉本博司と建築家の榊田倫之による新素材研究所が設計した「真茶亭」
プライベートな会食や集いを行うための特別個室。〈白井屋旅館〉にあった茶室に着想を得て、内装の土壁は抹茶色に。ファサードには職人が小口を割って表情をつけた100枚を超えるガラスが積み重ねられている
© HIROSHI SUGIMOTO / COURTESY OF NEW MATERIAL RESEARCH LABORATORY

 ホテルのオープンを終えた田中は、この場所を起点としたさらなる街づくりへと思いを膨らませている。
「完成したホテルを見て、日本のほかの地にはない、前橋ならではのアートシーンがつくれると思いました。前橋は商店街も含めた主要な要素が徒歩圏内に集まっているので、歩いて観光できる街なんです。今、ホテルから一歩出て、街にひらかれた、もっと人々の生活動線に関わる仕組みづくりをしています。特別なことではなく、日常の中にも美術を取り入れ、楽しめるようなことをしながら、地元の経済にも貢献するようなものです。建築だけでもアートだけでもグリーンだけでもダメで、街の活性化にはビジネスを結びつけてゆくことが大事なんです」

 点と点がつながり線となり、面となる。前橋にめぶいたホテルがどんな木となり、そして森がつくられてゆくのか。ここは、よきものが育つ地(Where good thingsgrow)なのだ。

白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)
住所:群馬県前橋市本町2-2-15
電話:027(231)4618
客室数:全25室
料金:¥35,453~(2名1室の1名の料金、消費税・サービス料込)
※ 上記は参考価格。料金は宿泊日により変動するため、要問い合わせ
公式サイト

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