北海道のニセコに昨年誕生した宿「SHIGUCHI(シグチ)」。古民家を移築し、北海道の工芸品や器で彩られた客室は、人と文化、自然を繋ぐことを目的としている。派手さはないが上質な時間が流れ、新しい贅沢を提供する「SHIGUCHI」の魅力を紹介する

BY KANA ENDO

宿の概念を超え、自分自身を見つける旅へ誘う滞在を

 ニセコ積丹小樽海岸国定公園内に「坐忘林」という宿がある。モダンな設えと旅館のおもてなしを兼ね備えたその宿は、2015年に開業するや否や国内外から人気を博し、予約困難な宿となった。その「坐忘林」から5分ほどの場所に、姉妹ともいえる宿「SHIGUCHI」が誕生した。

画像: 倶知安町花園地区にあるSHIGUCHI。見渡す限りの原生林に囲まれる

倶知安町花園地区にあるSHIGUCHI。見渡す限りの原生林に囲まれる

「SHIGUCHI」を手掛けたのは「坐忘林」共同創設者兼共同オーナーであるショウヤ・グリッグだ。イギリスのヨークシャーで生まれ、10代の頃、一家でオーストラリアへ移住。20代で単身北海道へ。移住の理由は「迷子になりたかったから」。以降、広告制作やデザイナー、写真家などをしながら、ホテルやレストランのリノベーションを手掛ける。「坐忘林」のクリエイティブ・ディレクターとして注目を集め、昨年「SHIGUCHI」を開業した。

 グリッグは、自身の人生を“ショウヤ・グリッグ トリロジー”と名付けており、その第一章が「坐忘林」、第二章が「SHIGUCHI」なのだそう。「坐忘林」はその場に座してすべてを忘れることができるよう、心身にゆとりを感じることができる空間として誕生したが、「SHIGUCHI」はその先へ進む。自分にとっての大切なものとの関わりを見つけ、未来を見据えて自分にできることは何かを問う、そんな体験を提供するという。ちなみに、続く第三章は、自分を癒やし、満たすことで、次なるミッションに挑戦するための支度をするような場所を考えているのだとか。

画像: オーナーのショウヤ・グリッグ氏

オーナーのショウヤ・グリッグ氏

目に見えない大切なものを見つけ、それらを繋ぐことで新しい物語が始まる

 宿の名前である「SHIGUCHI」は、建築用語の“仕口”から発想を得てつけられた。仕口とは、桁や梁、土台と柱などをつなぐ時に使われる手法で、釘などを使わずに美しい仕上がりを実現するとともに堅牢性も保つことができる、日本に古くから伝わる匠の技だ。この場所で過ごす時間や空間が、仕口のように自然と人、文化を有機的に繋ぎ、それまで気づかなかった音や、光、味、時代、言葉などのなかから自分が本当に大切にしたいことを見つけるきっかけになって欲しいとグリッグは語る。

画像: 仕口がアート作品のように飾られている

仕口がアート作品のように飾られている

「SHIGUCHI」は5棟の古民家で構成されている。5棟のうち3棟は客室として使用され、2棟はレストランとギャラリーだ。これらの古民家の一部は江戸時代に建てられた会津・國井家のもので、それらを解体し、大きな開口部を設けるなどの手を加え移築された。長い時間、会津で使われてきた柱や梁がニセコという新しい場所で息を吹き返し、経年変化によってできた味わいが、空間に落ち着きと安らぎを与えてくれる。

画像: 広々としたリビングルームにはアート作品が飾られ、大きな窓からはニセコの自然を眺められる

広々としたリビングルームにはアート作品が飾られ、大きな窓からはニセコの自然を眺められる

 客室ヴィラは、144㎡の2ベッドルームから、351㎡の3ベッドルームの計3タイプの5室で、家族や友人と過ごすには充分な広さを有する。リビングや浴室からはニセコの豊かな自然を望むことができ、四季を通じてゲストの心身を癒す。すべてのヴィラは半露天風呂を備え、「SHIGUCHI」敷地内のソモザ源泉から引いた加水なしのかけ流しのお湯を、24時間いつでも楽しむことが可能だ。ゲストにプライベートな空間をゆっくり楽しんでもらうために、客室内には簡単なキッチンとランドリーも完備され、部屋着やリネン、アメニティにも自然由来のものや北海道に所縁のあるものなどを用い、細かな部分までこだわりが感じられる。

画像: メゾネットタイプの客室もラインナップされている

メゾネットタイプの客室もラインナップされている

画像: 石をくり抜いたバスタブはまるでアート作品のように美しい

石をくり抜いたバスタブはまるでアート作品のように美しい

 ヴィラに用意されている食器はすべて北海道の作家によるもの。馬渡新平は江別やニセコの粘土を使用し、余市で栽培された果樹の枝を焼いてできた木の灰を釉薬として使う。工藤和彦は、北海道の北部にある剣淵町にある粘土を蹴ろくろで成形。釉薬には楢や白樺からとれる木の灰を使用。北海道の大地を写し取ったような作品には、ダイナミックな地球の息吹が感じられ、これらはギャラリーで購入することができる。

 そのほかにも、客室内にはさまざまなアートや工芸品が飾られている。北海道を起源とする工芸品を始め、日本の古美術や西洋アンティーク、現代作家による器などが、ショウヤ・グリッグの感性でキュレートされている。自然に囲まれた空間でアートや工芸品に触れながら過ごす数日は、美術館やギャラリーで作品を短時間で観るのとは異なり、新たな視点や深い気づきを与えてくれることだろう。

画像: 客室にはヨーガンレール ババグーリ製のパジャマが用意されている。手紡ぎのミルコットンを使用し、とても柔らかな手触り

客室にはヨーガンレール ババグーリ製のパジャマが用意されている。手紡ぎのミルコットンを使用し、とても柔らかな手触り

北海道に敬意を評したコレクションと料理

 別棟である「そもざ」には、ギャラリーとレストランが備えられている。1階と地下にあるギャラリーでは、ショウヤ・グリッグが自ら集めた北海道の工芸品や器などで構成された北海道コレクションや、グリッグ自身の作品の展示、企画展などが開催される。縄文時代の土器や装飾品、アイヌの芸術作品、北海道各地の画家や彫刻家による作品の数々は、さながら北海道の歴史を凝縮した博物館のよう。これらの北海道コレクションは、人生の半数以上を過ごしている北海道という土地への畏敬の念を表現しており、アイヌを始めとする北海道の文化や芸術、歴史を少しでも多くのゲストに知ってもらい、それぞれの作品が持つ物語に耳を傾けて欲しいという。

画像: レストランに併設したギャラリーショップでは、客室で使われている器や小物などが展示販売されている

レストランに併設したギャラリーショップでは、客室で使われている器や小物などが展示販売されている

画像: シグチギャラリーには、グリッグ氏のコレクションと作品が飾られている

シグチギャラリーには、グリッグ氏のコレクションと作品が飾られている

 レストランは12席の大きなテーブルと屋外のテラス席があり、朝食とディナーをいただくことができる。腕を振るうのは小関達弥シェフ。パリのLes Enfants Rougesなどで修行した後、 ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパにあったミシェル・ブラス トーヤ ジャポンに勤務した。「SHIGUCHI」では自生する野山の植物や、自家菜園で育った新鮮な食材を使い、アイヌや縄文の食生活や環境に敬意を払った独創的な料理を提供する。また、食事とともに供されるのは、稀少な道産ワインやクラフトビール、ウィスキーなど北海道の自然が育んだアルコール類。「SHIGUCHI」の湧き水を使ったカクテルやモクテルは、料理に寄り添い、この地でしか味わえない特別なひとときを演出してくれる。

画像: ディナーは宿泊客だけでなく、食事のみの予約客も利用可能 PHOTOGRAPHS:©SHIGUCHI

ディナーは宿泊客だけでなく、食事のみの予約客も利用可能

PHOTOGRAPHS:©SHIGUCHI

「SHIGUCHI」は、ギャラリーステイというコンセプトのもと、自然や文化、人を繋ぎ、自分の本質を見つめ直す滞在を提供する。決して華美ではなく派手さはないが、そこには地に足のついた贅沢な時間が流れる。新時代のラグジュアリーを体験できる宿だ。

SHIGUCHI/シグチ
住所: 北海道虻田郡倶知安町花園78−5
TEL. 0136-55-5235
価格:朝・夕食付き 1名1泊76,000円〜
※10%消費税込、宿泊税・入湯税別途(宿泊税:税別価格の2%、入湯税:1人150円)
公式サイトはこちら

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