BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA
《STAY》「ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド」
美食とクラシック音楽のマリアージュ
18世紀前半にドイツの宮廷や教会で、バロック音楽の大家として活躍したヨハン・セバスティアン・バッハ。その名前を冠した「ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド」が、ここ熱海に誕生したのは2016年のこと。標高361メートル、伊豆山神社よりもさらに高台にて森の邸宅のような佇まいを放ち、知る人ぞ知る存在であった。そんな隠れ家ホテルが、2024年8月に装いも新たに再びグランドオープン。エントランスの扉が開くと、生演奏によるピアノの調べが奏でられ、まるで音楽堂へ足を踏み入れたかのよう。さらに、ロビーラウンジからテラスへと進むと、「コートダジュールのよう」と旅慣れた大人たちが賞賛する絶景が広がる。
偉大なる音楽家の気配は、館内の至る所で感じることができる。たとえば、ロビーラウンジに隣接したベイヴューサロン&テラスはライブラリーに設えられ、バッハやクラシック音楽や旅にまつわる書籍が棚を埋め尽くす。フレッシュハーブやフルーツからなるウェルネスウォーターを飲みながら、まずはゆったりと気持ちを整えられるスペースとなる。さらに、スーベニアショップをのぞくと、ピアノやバイオリンなどの材質としても知られる、赤エゾ松の間伐材を芯に用いたオリジナルのキャンドルが目を惹く。さらに、館内には完全防音のミュージック・シアタールームを新設し、最高グレードの音響設備で音楽や映画を楽しめる。秘蔵のレコードを持ち込んで心置きなく大音量に包まれることも夢ではない。
ディナーで訪れたメインダイニング「風雅 - FUGA -」の中央にも、もちろんグランドピアノが佇み、演奏に興じながら優雅な“熱海キュイジーヌ”のひとときが幕開ける。富士山麓の半径50km圏内の旬の食材を駆使した目にも美しいひと皿が、緩急リズミカルに運ばれるなか、この日は“あしたか牛フィレ”でクレッシェンド(最高潮)を迎えた。
部屋に戻り、テラスで夜景を眺めながら美食の余韻に浸る。もちろんバックミュージックは室内オーディオに収められたバッハである。チェンバロの異次元の音階が夜に溶け込み、心は不思議と静寂に満たされた。いつかどこかで同じ曲を耳にしたとき、熱海で感じた夜空と森と海の気配が思い出されることだろう。
住所:静岡県熱海市伊豆山1048-4
電話:0557-82-1717
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《STAY》「熱海パールスターホテル」
オーシャンビューの絶景湯に揺蕩う
旅のフィナーレにお届けするホテルは、熱海のメイン海岸とされるサンビーチ沿いに建つ。この地で真珠のような輝きを放つ、新たなランドマークとして2022年9月に誕生した「熱海パールスターホテル」である。宿泊の利便性と洗練されたホスピタリティはもちろんだが、今回は温泉施設の日帰り利用とスパトリートメント、アフタヌーンティーがセットになった1日2組限定のプランを案内。熱海滞在の仕上げに贅沢な温泉時間を堪能したい。
まずは旅の疲れをスパトリートメントで癒したい。ひのき白檀、ゆずみかん、さくらゆず、そして熱海限定のだいだいのオリジナル精油から、好みの1本をセレクトしたオイルマッサージが主体となる。45分とコンパクトな時間ではあるが、経験豊富なセラピストがその日、その人のコンディションに合わせた手技をカスタマイズしてくれる。体がほぐれたところで、向かうは自家源泉を使った最上階の大浴場。天空の船をイメージした全長12mのインフィニティバスに身を委ねると、浴槽を満たす湯があたかも海に流れ落ちるよう。内風呂は、炭酸水と水素水の2種類があり、スチームサウナとドライサウナまで楽しめ、心ゆくまで“整う”ことができる。
心身を存分にデトックスした後は、甘い記憶を宿したい。1階のラウンジでふるまわれるアフタヌーンティーでは、土地のフルーツを主役に据えた瑞々しいデザートがプレートを彩る。訪れた頃は8月の終わりということもあり、山梨の桃をソルベや焼き菓子に仕立てたピーチプレートが上段を飾り、中段では三島のマンゴーが瑞々しいデザートへ姿を変えていた。さらに、下段には伝統的なアフタヌーンティーのスタイルに倣い、全粒粉のスコーンやサンドイッチ、コーンスープが品よく並べられていた。細やかに行き届いたサービスも心地よく、次に訪れる際は日帰り利用ではなく「ここに泊まってみよう」と、湯上がりスイーツに満たされた脳に刻まれた。
住所:静岡県熱海市東海岸町6-45
電話:0557-48-6555
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