ある写真集に魅了され、カイロに移り住んだバルテルミー。市場で出会った稀有な伝統織物「カヤミヤ」の職人とタッグを組み、既存の概念に疑問を投げかける革新的なタペストリーを制作した

BY GISELA WILLIAMS, PHOTOGRAPH BY ALAN KEOHANE, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 5年前、フランス人のテキスタイル・デザイナー兼イラストレーター、ルイ・バルテルミーは、サルヴァトーレ フェラガモでプリント柄の開発を担当していた。パリとモロッコ・マラケシュの2カ所に拠点を置いていた彼は、インスピレーション源を求めてマラケシュのスーク(市場)を歩き回るのが好きだった。タンジールへ旅したとき、彼はある写真集を見つけた。

 それは『Mère et Fils(母と息子)』という2014年刊行の写真集だった。長いことエジプトで暮らしていた現在61歳のフランス人アーティスト、ドゥニ・ダイユーによるもので、上半身裸になったエジプトの男性ボディビルダーたちを、その母親とともに撮影した写真は、官能的でありながら同時にやさしげでもあった。

 現在30歳になるバルテルミーは、その写真に感銘を受け、カイロへ赴くことを決意。カオスな街にすっかり魅了された彼は、のちにカイロに移住し、広くはあるが色あせた60年代のフラットに落ち着いた。

 ある日、彼はスーク・アル=カヤミヤ(「テントを作る人々の市場」の意)で、ズウェーラ門の南に位置する小さな露店を訪ねた。この店では、タレク・アブデルハイ・ハーフェズ・アブールニンという名の職人が手作業でカヤミヤを作っていた。カヤミヤとは、色鮮やかなキルトに似た織物で、無地のコットンキャンバス地にアプリケの手法で縫いつけた装飾的な柄を特徴とするものだ。千年以上も前から、結婚式や祝い事、葬式の際にテント内部を覆うのに使われてきた。この緻密で時間のかかる技術は今や失われつつあるので(最近のカヤミヤの多くはデジタル・プリントだ)、アブールニンの仕事はいっそう稀有なものだった。彼とアブールニンはコラボレーションをして前代未聞のカヤミヤを作ることにした。伝統的なアラベスク模様やカリグラフィのモチーフから離れ、タブー視される写実的表現と同性愛にあえて挑むことにしたのだ。

画像: 《ナイルの神々》 中央のファラオ像の発想源となったのは、1978年にジャン=ポール・グードが撮影したマイクを手にダンサーのポーズをとるグレイス・ジョーンズの写真。このバルテルミーの作品はマラケシュのホテル、リヤド・メナ・アンド・ビヨンドにて撮影

《ナイルの神々》
中央のファラオ像の発想源となったのは、1978年にジャン=ポール・グードが撮影したマイクを手にダンサーのポーズをとるグレイス・ジョーンズの写真。このバルテルミーの作品はマラケシュのホテル、リヤド・メナ・アンド・ビヨンドにて撮影

「私が描いたのはファンタジーです。素朴で官能的な、ナイルにある想像上のジムの光景です」とバルテルミーは言う。ふたりはカラーパレット(矢車菊のような青、海藻のような緑)を決め、それからアブールニンが縫いつけを始める。そうしてでき上がったのは、華麗な約178cm四方のタペストリーで、図案化されたヤシの木や鳥に囲まれて、筋骨たくましいエジプトの男たちがバーベルやケトルベルを持ち上げている様子が描かれている。バルテルミーの友人、ホテル経営者でクリエイティブ・コンサルタントのフィロミナ・シュラー・メルコルがこれを買い上げ、マラケシュで自らの経営するカルト的人気のホテル、リヤド・メナ・アンド・ビヨンドに飾った。

 10月中旬には、バルテルミーは6つほどのタペストリーからなるコレクションをお披露目する予定だ。これは同テーマをさらに練り上げたもので、レバノン・ベイルートでカルチャーの中心地となっているカフェ、タウレットにて発表される。「新作のひとつは、パリのキャバレー、クレイジー・ホースをファラオ風に解釈したものです」と彼は言う。バルテルミーの作品は享楽を讃え、工芸を讃えるものだ。同時に彼は、ある種の葛藤を扱うことをためらわない。

「イスラムの国々では、女性は肌を隠しますが、男性は誇示したがるのだと気づきました」と彼は言う。「この傾向はソーシャルメディア上でさらに誇張されています。私はこのことについて探求したいのです」。文化の盗用にあたる可能性について聞くと、彼はこう答えた。「もしも高級ブランドが営利目的のためだけに、工芸品をそのまま扱うことがあるとしたら、それは盗用にあたるものだと私は思う」

 彼は、社会的意義に関心の高かった20世紀半ばのエジプト人建築家、ラムセス・ウィサ・ワセフの影響を受けて、ギザでワークショップを始めた。このワークショップでは、一般の人々がカヤミヤを実際に作れるのだ。さらに彼はこうつけ加える。「この先進的な活動には、ものを作るという純粋にクリエイティブな面を超えた意味があり、心を動かされるのです。私が育みたいと思うコミュニティが、ここにあります」

 

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