100年の夢と軌跡に出会うーー。ともにアール・デコ様式でデザインされた、歴史的ハイジュエリーと旧宮家の邸宅。東京都庭園美術館で開催される展覧会『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ー ハイジュエリーが語るアール・デコ』から、100年前の潮流が見えてくる

BY KEIKO HONMA

画像: バラを描いたブレスレットは本展の白眉。強い色彩のコントラスト、様式化された表現にアール・デコの特徴が現れる。《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)〈プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド〉 COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

バラを描いたブレスレットは本展の白眉。強い色彩のコントラスト、様式化された表現にアール・デコの特徴が現れる。《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)〈プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド〉

COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 今、日本では大阪・関西万博に多くの人々が足を運んでいるが、100年前のパリでも同じことが起きていた。1925年の現代装飾美術・産業美術国際博覧会──通称「アール・デコ博覧会」と呼ばれる万博には日本を含む22カ国が参加し、約150のパビリオンがつくられ、1600万人もの人が訪れたという。このアール・デコ博覧会から今年でちょうど100年。『永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ー ハイジュエリーが語るアール・デコ』は、1 世紀前の熱狂的なムーブメントに再び焦点をあてる展覧会だ。

 会場は、旧朝香宮邸として知られる東京都庭園美術館。1933年に竣工した本館は、アール・デコ様式の装飾が随所に施された国の重要文化財でもある。ここに並ぶのは、パリの名門ハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーペルが誇る歴史的なジュエリー、時計、工芸品およそ250点と、デッサンなどの資料およそ60点。アール・デコ建築のなかで、アール・デコ・ジュエリーの精華を見ることができるまたとない機会となっている。

画像: 直線的なバゲットカットダイヤモンドを多用したデザイン。エジプト王家のために仕立てられたもので、揺れるエメラルドは目を見はる大きさ。《コルレット》(1929年)〈プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド〉エジプトのファイーザ王女旧蔵 COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

直線的なバゲットカットダイヤモンドを多用したデザイン。エジプト王家のために仕立てられたもので、揺れるエメラルドは目を見はる大きさ。《コルレット》(1929年)〈プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド〉エジプトのファイーザ王女旧蔵

COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 アール・デコとは、1920年代から30年代にかけてフランスを中心にヨーロッパを席巻し、1925年の博覧会の名前をとってこのように呼ばれているデザインの潮流のこと。ライフスタイルやファッションがモダンに変化するなかで広まったアール・デコの機運は、やがて海を越えてアメリカや日本にまで波及した。

画像: 日本の影響を感じる菊の花のデザイン。宝石を固定する爪を見せない技法、ミステリーセットでルビーを留めている。《クリサンセマム クリップ》(1937年)〈プラチナ、イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ダイヤモンド〉/すべてヴァン クリーフ&アーペル コレクション COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

日本の影響を感じる菊の花のデザイン。宝石を固定する爪を見せない技法、ミステリーセットでルビーを留めている。《クリサンセマム クリップ》(1937年)〈プラチナ、イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ダイヤモンド〉/すべてヴァン クリーフ&アーペル コレクション

COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 当時、日本の皇族であった朝香宮鳩彦王(あさかのみややすひこおう)はフランスに長期滞在しており、妃の允子妃(のぶこひ)とともにパリでアール・デコ博覧会を観覧して、その様式美に大いに魅せられたという。帰国後、自邸を建設するにあたっては、アンリ・ラパンやルネ・ラリックなどフランスきっての優れたデザイナーに依頼して、瀟洒(しょうしゃ)なアール・デコ様式の邸宅をつくり上げた。宮家の皇籍離脱後は、首相公邸や迎賓館としても使用されてきたが、内装、外装ともにここまで良好な状態で残されたアール・デコ建築は、フランス本国でも珍しいという。

画像: アンリ・ラパンがデザインしたセーブル焼の《香水塔》。かつては照明の熱で香水を温め、部屋を香りで満たした。《東京都庭園美術館 本館 次室と香水塔》 COURTESY OF TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM

アンリ・ラパンがデザインしたセーブル焼の《香水塔》。かつては照明の熱で香水を温め、部屋を香りで満たした。《東京都庭園美術館 本館 次室と香水塔》

COURTESY OF TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM

 今回の展示のハイライト《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》は、アール・デコ博覧会に出品され、宝飾部門でグランプリを受賞した記念碑的な作品。ルビーの鮮烈な赤でバラを描き出した本作は、きっと博覧会の会場で朝香宮夫妻も目にしたことだろう。このブレスレットは、花模様のレリーフが壁面を飾る大食堂に展示される。花々に囲まれた部屋で見る、バラのハイジュエリー。博覧会から100年後に果たされた、夢のような邂逅(かいこう)だ。

 1906年にパリのヴァンドーム広場に宝飾店を構えたヴァン クリーフ&アーペルは、創業後たちまち国際舞台に躍り出て、王侯貴族や大富豪、文化人、そしてマハラジャからも愛された。とりわけアール・デコ期におけるメゾンの躍進はめざましく、機能的な「ミノディエール」や、宝石を立爪なしで留める「ミステリーセット」などの豪奢なスタイルで名を馳せた。本展では、メゾンが収集する「パトリモニー コレクション」から選りすぐりの貴重なマスターピースが、旧朝香宮邸の建築と呼応し、響き合う。優雅によみがえる100年前の時代の空気を体感できる展覧会なのだ。

画像: パウダーやシガレットなど女性の携行品を収納するケース、ミノディエールにヴァン クリーフ&アーペルの独創性が光る。椿の花の形をした留金はブローチとしても着用可能。《カメリア ミノディエール》(1938年)〈イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ルビー〉 COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS


パウダーやシガレットなど女性の携行品を収納するケース、ミノディエールにヴァン クリーフ&アーペルの独創性が光る。椿の花の形をした留金はブローチとしても着用可能。《カメリア ミノディエール》(1938年)〈イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ルビー〉

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画像: 《東京都庭園美術館 本館 正面玄関》新館では庭園を巡るような展示空間で、メゾンのサヴォアフェール(匠の技)に迫る COURTESY OF TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM

《東京都庭園美術館 本館 正面玄関》新館では庭園を巡るような展示空間で、メゾンのサヴォアフェール(匠の技)に迫る

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『永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ー ハイジュエリーが語るアール・デコ』
会期: 2025年9 月27日(土)〜2026年1 月18日(日)
会場:東京都庭園美術館 開館時間:10時〜18時
(11月21・22・28・29日、12月5・6 日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜、年末年始(12月28日〜1 月4 日)
祝日の月曜は開館、翌日の火曜は休館 
※日時指定予約制
問い合わせ:TEL. 050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

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