BY TOMOKO MANO, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
7月は、梅雨も明けて夏本番。鮎の解禁、七夕、盆踊り。夏の風物詩はいろいろありますが、暑さをやり過ごし、暮らしを楽しむ日本人の知恵が感じられるものばかり。川のせせらぎや風鈴の音で涼を感じたり、玄関先に打ち水をしたり、ガラスの器にふわりと積まれた氷を楽しんだり。古来、日本人は五感をフルにつかって涼を楽しんできました。いかにも涼しきように、庭にも部屋にも、涼を誘うしつらえに趣向を凝らす夏。暮らしの中に涼を呼ぶ美しいかたちを、大切な人へのご挨拶に添えて。
文月とも呼ばれる7月。その由来には諸説あるけれど、七夕の短冊に歌や字を書き、書の上達を願ったことからともいわれている。そろそろお中元なども考え始める今日この頃、ご挨拶に添える手紙や一筆箋などをしたためる機会もいつもより増える。そんなときに使う文鎮が涼やかに目を楽しませてくれる品であれば、心までうるおいそうだ。
“水と生き物”をテーマにした作品づくりを手がけるのは、ガラス作家・久保裕子さん。富山県の立山連峰を望む雄大な自然に包まれた場所に工房を構え、作品づくりに励んでいる。「ガラスと水の表面の表情は似ているところがたくさんあって、それを見つけて形にしていくことを楽しんでいます」と語る久保さん。代表作のひとつが、石文鎮。周囲は半透明の磨りガラス、上面は澄みきった水をたたえたような透明なガラスでできた作品は、夏の池の水辺の小さな世界を表現する。水面では光が踊り、水中では色鮮やかな金魚がすいすいと泳ぐ。そして日光やライトを受けると、水底に透き通った光とさざ波の軽やかなうねりが静かに広がる。眺めていると、日差しと風を受けて揺らめく水面にすーっと引き込まれ、水辺の小さな生き物たちの世界へと誘われるよう。ほかに、春には水面に花びら、秋は銀杏や紅葉、冬なら凍った水面の下の世界など、四季折々の表情を楽しめる。
もうひとつは、透き通った「水玉(すいぎょく)」。朝露のような丸みを帯びたフォルムは、みずみずしさに満ちている。水面に気泡が浮かび上がる一瞬を閉じ込めたかのような世界が表現されている。光にかざすと、手作りならではのゆるやかな凹凸のある曲面が、見つめる角度によって表情を多彩に変える。のぞきこむと清流に泳ぐ鮎や水草のそよぎがなんとも涼しげで、不思議な躍動感に心躍る。清流を手ですくったかのような美しい文鎮からは水の中の物語がいくつも連想され、時を忘れてのぞきこんでしまう。風流を愛する方には、夏のお便りやご挨拶に添えて、こんな美しい“涼”を贈ってみては。
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