発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

河合優実の鮮烈な演技が光る!カンヌ国際映画祭でも話題の『ナミビアの砂漠』

画像: Z世代の女性像を赤裸々に表現し、観る者を物語の世界に引き込む河合優実 ©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

Z世代の女性像を赤裸々に表現し、観る者を物語の世界に引き込む河合優実

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

 美容脱毛サロンで働くカナ(河合優実)は、東京在住の21歳。昔のクラスメイトが自殺したと聞かされてもどこか上の空。それより今この瞬間、心ときめくクリエーターのハヤシ(金子大地)に会いたい。そんなカナには同棲している彼氏ホンダ(寛一郎)がいるが……。未来なんてこれっぽっちも信じられない、頑張れば明るい明日が待っているなんて、いまどき信じてる子いる? 沸々と湧く怒りや倦怠感を忘れさせてくれるのは束の間のときめきだけだけど、恋の均衡は脆くも崩れる。飛び跳ね、走り、笑い、怒り、泣き、殴りかかるカナ=河合優実からほとばしる、リアルな感情と放たれる言葉に釘付けになる。脱毛サロン、ススキノ、冷凍ハンバーグ、ピンクのランニングマシーン、ルームランナーと、散りばめられたエピソードに滲むセンスと皮肉も痛快。唐田えりか、渋谷采郁、中島歩らの脇を固めるキャスティングも光る。

画像: 河合がラブコールを送りタッグが実現した山中瑶子監督が、本作の脚本も手がけている ©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

河合がラブコールを送りタッグが実現した山中瑶子監督が、本作の脚本も手がけている

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

 期待の新星・山中瑶子監督と若きカリスマ・河合優実。2人の出会いは河合が高校3年、山中が21歳のとき。PFFアワードで入選した『あみこ』の上映後、河合は山中に「いつかキャスティング候補にしてください」と綴った手紙を手渡したという。それから6年、念願のタッグが叶った『ナミビアの砂漠』は今年のカンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞。27歳の山中は女性監督として最年少受賞記録を塗り替え、河合は「私の勘に狂いはなかった!」と微笑んでみせた。

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『ナミビアの砂漠』
TOHOシネマズ 日比谷ほか 公開中
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天才作曲家の妻という座に秘められた暗い影とは──『チャイコフスキーの妻』

画像: チャイコフスキーの妻、アントニーナを演じるのはロシア出身のアリョーナ・ミハイロワ。オーディションでこの役を獲得した ©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

チャイコフスキーの妻、アントニーナを演じるのはロシア出身のアリョーナ・ミハイロワ。オーディションでこの役を獲得した

©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

 世界三大悪妻として知られるソクラテスの妻クサンティッペ、モーツァルトの妻コンスタンツェ、トルストイの妻ソフィア。しかし今では、本当に悪妻だったのか真偽が疑わしいと言われている。“三大”からは外れたものの、作曲家チャイコフスキーの妻、アントニーナ・ミリューコヴァもまた悪妻と呼ばれてきた女性だ。鬼才ケン・ラッセルのチャイコフスキー映画『恋人たちの曲/悲愴』(1970年)でグレンダ・ジャクソンが演じた最恐のアントニーナ像も悪名の定着に一役かっているだろう。そんなアントニーナを近年の研究をもとに描き直そうとするのが、前作『インフル病みのペトロフ家』(2021年)でロシアの現状を痛烈に風刺した監督キリル・セレブレンニコフ。

画像: チャイコフスキーを演じるのは、アメリカ生まれで20歳のときにロシアに渡ったオーディン・ランド・ビロン ©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

チャイコフスキーを演じるのは、アメリカ生まれで20歳のときにロシアに渡ったオーディン・ランド・ビロン

©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

 今作『チャイコフスキーの妻』の始まりは、1893年サンクトペテルブルクでのチャイコフスキーの葬式の場。冷たい海の底のような深緑色の風景は、チャイコフスキーという光を失ったアントニーナの瞳に映る世界だ。彼女が斎場に入ると、夫の亡骸が起き上がり、「なぜ来ている?お前が欲しかったのは妻の座だけだ!」と怒りの声を上げる。そこから時間は、まだ陽の光が射していた1972年に巻き戻る。天才作曲家に一目惚れしたアントニーナは熱烈な求婚の手紙を送り、「女性を愛したことは一度もない。兄と妹のような愛なら可能」という条件を引き出して結婚に漕ぎ着けるが、盲目の愛はチャイコフスキーの苦悩に耳を傾けられない。

 雪や泥でぬかるんだ道を独り歩くアントニーナ。ツァーリズムの崩壊迫る19世紀後半の男性優位社会とその後のソ連が貶めたヒロインの世界に、狂気が忍び寄る時間を鬼才ならではの映像美とエキセントリックな演出で描き切る。

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『チャイコフスキーの妻』
新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中
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黒沢清監督×菅田将暉の豪華タッグ! アカデミー賞「国際長編映画賞」日本代表作に決定した『Cloud クラウド』

画像: 気づいたら標的にされていた──そんな恐怖と不安を巧みに表現する菅田将暉 ©2024「Cloud」製作委員会

気づいたら標的にされていた──そんな恐怖と不安を巧みに表現する菅田将暉

©2024「Cloud」製作委員会

『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督をはじめ、世界の鬼才から熱狂的に愛される日本人監督・黒沢清。閉幕したばかりのヴェネチア国際映画祭で話題を呼んだ本作は、主演に菅田将暉を迎えたサスペンス・スリラー。菅田が演じる主人公・吉井は “ラーテル”というハンドルネームで“転売ヤー”として稼いでいる。バイト先のクリーニング屋の工場長(荒川良々)が、こつこつ働く吉井を見込んで正社員の話を持ちかけるが、吉井はそれを断り、恋人の秋子(古川琴音)と郊外の一軒家に引っ越して転売に本腰を入れ始める。品物が本物か偽物かはお構いなく、とにかく安く仕入れて即座に売るのが鉄則だ。商売に躍起になればなるほど、吉井の気づかぬところで、インターネットを媒介にした憎悪の連鎖が巻き起こり、やがて集団狂気へとエスカレートしてゆく

画像: 人間の奥に潜む闇を描き出す黒沢清の手腕も見どころだ ©2024「Cloud」製作委員会

人間の奥に潜む闇を描き出す黒沢清の手腕も見どころだ

©2024「Cloud」製作委員会

 2001年の『回路』から久方ぶりに黒沢が描くインターネットの闇。20年前よりも遥かに厳しい不況が影を落とす現代社会の中、誰もが知らぬ間に憎悪のターゲットになり得る隣り合わせの恐怖を描いて震撼させる。はつらつとした笑顔もカリスマ性も封印し、人混みに紛れる吉井の曖昧な存在を巧みに表現する菅田将暉。さらに彼を取り囲む古川琴音、窪田正孝、岡山天音、荒川良々らが不穏な空気とスリルを醸し、先が読めないドラマを走らせる。

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『Cloud クラウド』
9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
公式サイトはこちら

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