BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY WATARU ISHIDA

『連獅子』仔獅子の精=尾上眞秀
歌舞伎座という大舞台で、親子の情と獅子の野性を体現するこの演目に向き合う尾上眞秀。まだ中学生でありながら、その言葉にはすでに舞台人としての確かな手応えがにじむ。尾上右近演じる親獅子とともに、親子ではないからこそ見せられる“厳しさと愛”を、今、眞秀はどう表現するだろうか。
——右近さんの自主公演に続いて、今回が二度目の『連獅子』となります。歌舞伎座で上演されることについて、どのようなお気持ちですか。
眞秀:お母さん(寺島しのぶ)から「4月はケンケン(尾上右近の愛称)と『連獅子』で呼ばれたよ」って言われて、“演る”という感じでした!びっくりもしましたけど、それよりもまずやるんだ、という気持ちが強かったです。前回(「第八回研の會」2024年)のときから、いつか歌舞伎座で演りたいと思っていたので、今回こうして本公演で舞台に立てることがすごく嬉しいです。特別ビジュアルの撮影もしたのですが、『連獅子』の曲をかけながら撮りました。
——『連獅子』という作品に対して、どのような印象をお持ちですか。
眞秀:野生な感じというか、獣っぽさを感じていただけるように踊りたいと思っています。しっかり獅子として見えるようにしたいです。
――ご覧になっていた時と、実際に演じてみての違いはありますか。
眞秀:見ていると“すごいな”と思うだけなんですけど、実際に演じてみると、ほんの少しの差で見え方が変わることがわかってきて。そういう細かいところを意識するようになりました。
——右近さんとの共演についてはいかがですか。
眞秀:やっぱりすごく嬉しかったです。右近さんの踊りには激しさがあって、そのエネルギーがすごいなと感じています。

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀
——『連獅子』は体力的にも厳しい演目ですが、現在課題に感じていることはありますか。
眞秀:後ジテの部分で、表現を大きくしたいと思っています。毛を振っているときも、登場するときも、全部さらにパワフルにしたいです。でも、今回は歌舞伎座は舞台が広くてかなり移動しないといけないので大変ですね。
——前回と比べて、何か変化はありましたか。
眞秀:前はとにかく激しくやればいいと思っていたんですけど、今回は形をしっかり決めることを意識しています。そこが大きく変わったところだと思います。それから「研の會」のときは前ジテのほうは自分で化粧をして、後ジテはやっていただいたんですが、今回はどちらも自分で化粧をしています。
——狂言師としての前ジテでは、どのようなことを大切にされていますか。
眞秀:すり足です。稽古のときも、ずっとすり足の練習をし続けていました。一度演ってみたことで、こういうところがダメだということがわかって、すり足を大事にしなければならないと思ったからです。
——親子の関係性はどのように表現したいとお考えですか。
眞秀:右近さんの親獅子には厳しさの中に優しさがあるので、親獅子と仔獅子の間に感じるような“愛”が出せればいいなと思っています。
——右近さんから受けた影響で印象に残っていることはありますか。
眞秀:稽古では厳しい時もありますが、ずっと張りつめているわけではないです。ご飯に連れて行っていただいたりもして、気持ちが少し楽になりました。

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀 狂言師右近=尾上右近

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀

『連獅子』狂言師左近=尾上眞秀 狂言師右近=尾上右近
——1か月間の公演となりますが、どのようにコンディションを整えていますか。
眞秀:しっかり寝ることと、ずっと体を動かすようにしています。お母さんとバドミントンやバレーボールをしたりして、家の中でも動きまわっています(笑)。好きでやっているんですが、そのおかげで自然と体力がついていると思います。
——ご自身の強みだと感じていることは。
眞秀:目力だと思います。目力が弱いと、形がきれいでもかっこよく見えなくなってしまうので、そこは大事にしています。
——舞台に立っているとき、どんな瞬間に楽しいと感じますか。
眞秀:親獅子と向き合ったときです。“ああ、連獅子をやっているな”っていう実感があって、その瞬間がすごく楽しいです。
——舞台を離れた時間はどのように過ごされていますか。
眞秀:とんぼ道場(歌舞伎座内にあるとんぼと呼ばれる宙返りを練習する場所)や楽屋で遊んだり、先輩の楽屋に行ったりしてリラックスしています。そういう時間が気持ちの切り替えになっています。
——今後挑戦したいことを教えてください。
眞秀:女方も立役も、どちらもやりたいです。女方ってきれいですよね。それで演ってみたいと思ったのですが、『道成寺』や『藤娘』のような踊りにも挑戦してみたいと思っています。寺島家が立役と女方の両方を演るので、それに憧れています。いつかを弁天小僧菊之助を演ってみたいです。
——こうした取材でいろいろなことを聞かれてご自分の言葉としてお答えになったことで何か気づきはありましたか?
眞秀:いっぱい質問をされるとそれも知識になるので、逆に教えていただいているような感覚です。
——最後に、初日を前にした今の心境を教えてください。
眞秀:僕は本番では緊張しないタイプなんです。今は、お客さんがたくさん拍手してくださることを想像すると、それが楽しみです。

『連獅子』親獅子の精=尾上右近 仔獅子の精=尾上眞秀

『連獅子』仔獅子の精=尾上眞秀
——初日を迎えて4月21日アンケートにて取材
実際に歌舞伎座の舞台に立ってみて、初日前にお話しされていた『連獅子』への手応えや見え方に、どのような変化を感じていますか?
眞秀:少しずつ歌舞伎座の舞台にも慣れてきて、形やすり足など基礎の部分は成長できている気がします。
——右近さんと舞台上で向き合う中で、「親獅子と仔獅子の関係性」について、稽古のときとは違う発見や実感はありましたか?
眞秀:舞台上でしかない表情がある芝居なので、今までにはない楽しみがありました。
——回を重ねる中で、ご自身が課題として挙げていた「後ジテのパワフルさ」や「目力」の部分について、いまどのような手応えを感じていますか?
眞秀:初日は少し反省点もありましたが、徐々にパワフルさを出せてきた実感があります。まだまだ千秋楽までパワーアップできるように意識しています。
——実際にお客様の前で演じてみて、「連獅子をやっているな」と実感する瞬間に変化はありましたか?
眞秀:お客様の大きな拍手で自然とパワーが出て、お芝居中の気持ちもどんどん乗ってくるので、たくさんのお客様の前で演じるのが楽しいです。
『連獅子』は、親子で演じられることの多い演目である。ゆえに観る側は、その関係性に物語や意味を重ねてしまいがちだ。しかし今回、尾上眞秀は“役として”この作品に向き合う。そこには従来の枠組みを超えて、一歩踏み出そうとする姿があった。
これまで抱いていた距離や迷いを乗り越え、この舞台に立つに至った背景には、尾上右近の存在も大きい。同じように新たな形で『連獅子』に挑んできた先輩としての背中が、眞秀にとって確かな指針となったのだろう。
その経験を経て臨む歌舞伎座の舞台。すっと伸びる指先や足先、積み重ねてきたすり足の精度、そして強いまなざしと迫力ある毛振りに、着実な成長が見て取れる。
「やりたい」という思いを形にした今回の『連獅子』は、眞秀にとって大きな一歩であると同時に、これから先へと続いていく過程の一瞬でもある。その姿を、ぜひ劇場で確かめてほしい。
尾上眞秀(Onoe Mahoro)
東京都生まれ。祖父は尾上菊五郎。17年5月歌舞伎座『魚屋宗五郎』の丁稚与吉で初お目見得。23年5月歌舞伎座『音菊眞秀若武者』の岩見重太郎武連で初代尾上眞秀を名のり初舞台。

四月大歌舞伎
昼の部 11時開演
一、『廓三番叟』
二、『裏表先代萩』
夜の部16時30分
一、『本朝二十四孝 十種香』
二、『連獅子』
三、『浮かれ心中』
※尾上眞秀さんは、
夜の部の『連獅子』に出演。
会場:歌舞伎座
住所: 東京都中央区銀座4-12-15
上演日程: 2026年4月2日(木)〜27日(月)
休演日: 10日、20日
問い合わせ: チケットホン松竹 TEL 0570-000-489
チケットweb松竹
山下シオン(やました・しおん)
エディター&ライター。女性誌、男性誌で、きもの、美容、ファッション、旅、文化、医学など多岐にわたる分野の編集に携わる。歌舞伎観劇歴は約30年で、2007年の平成中村座のニューヨーク公演から本格的に歌舞伎の企画の発案、記事の構成、執筆をしてきた。現在は歌舞伎やバレエ、ミュージカル、映画などのエンターテインメントの魅力を伝えるための企画に多角的な視点から取り組んでいる。
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