BY MASANOBU MATSUMOTO
横浜美術館で始まった『ヌード-英国テート・コレクションより』展が、いま話題だ。これは「テート・モダン」や「テート・ブリテン」など、英国を代表する4つの美術館を運営する公的機関「テート」が企画したもので、彼らが所有する約7万点ものアートコレクションから「ヌード」にまつわる作品だけをピックアップ。ルノワールやマティス、ピカソ、ロダンなど、誰もが知る芸術家による貴重なヌード作品が揃っている。
展覧会は、時代や切り口の異なる8章立てで構成。第1章のスペースに並ぶのは、19世紀、英国ヴィクトリア朝時代の絵画や彫刻だ。解説によれば、この時代の英国では、プロテスタントの禁欲的なムードや古典復興のムーブメントを受け、神話や聖書などの物語を題材とした歴史画でのみ裸体を描くことが許されていた。そうした物語を理想的に描くためのヌードがリアルな“裸の肖像”になっていくプロセスとして、第2章では、印象派やナビ派の画家たちにフォーカスする。彼らはアトリエや自宅の室内で、同時代に生きる妻や友人など身近な人物のヌードを描いた。
章を追うごとに、ヌードの概念は広がっていく。たとえば、キュビスムなど絵画の新しいムーブメントのさなかでは身体のフォルムをどう描くかという絵画的なアプローチとして拡張され、1920年代のシュルレアリスムの画家たちにとって、ヌードは「夢」や「性」を表現する絶好の方法になった。
また、戦後、ヌードはジェンダーや人種に関わる政治的駆け引きの手段となる。70年代のフェミニズムアートにみられるヌード作品は、まさにそうした意志をもって描かれた。またデイヴィッド・ホックニーは同性愛者たちの交わりを描き、アフリカ系アメリカ人であるバークレー・L・ヘンドリックスは“なぜ黒色人種をモチーフにしたヌード作品は少ないのか”という疑問を絵画で示した。生命や身体のエイジングを示すヌード作品もあり、時代とともにその作風や内容はじつに多様に広がってきた。
昨今の「#MeToo」や「Time’s UP」といった抗議運動の影響もあり、アート作品の性的表現に対する検閲的なまなざしは、依然鋭い。最近も、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所有するバルテュスの絵画《夢見るテレーズ》にまつわる騒動がニュースになったばかりだ(無防備に下着をあらわにして椅子に腰かける少女を描いたこの作品を問題視した市民が、作品の撤去を求める署名運動を行った)。そうしたなかで、本展は裸体の美醜や性的表現のよしあしを問うのではなく、ヌード表現の歴史とその変容を俯瞰することをもくろむ。芸術家がなぜヌードを描き、何に挑んできたかを知ることは、表現に対する視座を広げるだろう。ヌードをめぐる作家たちの多様なイマジネーションに、いまこそ触れてほしい。
『ヌード NUDE – 英国テート・コレクションより』
会期:〜6月24日(日)
会場:横浜美術館
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館時間:10:00〜18:00
※ただし、5月11日(金)、6月8日(金)は20:30まで
(入館は閉館の30分前まで)
休館日:木曜、5月7日(月)
入館料:一般 ¥1,600、大学・専門学校生 ¥1,200、高校・中学生 ¥600
TEL. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
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