BY MASANOBU MATSUMOTO
1952年に詩集『二十億光年の孤独』を発表し、戦後の詩壇に彗星のように登場。以降、詩作だけでなく、絵本の翻訳や歌謡曲の作詞、映画の脚本など、マルチなシーンでその才能を見せてきた谷川俊太郎。86歳になる彼の展覧会「谷川俊太郎展」が、東京オペラシティ アートギャラリーで始まった。「絵描きじゃないから展覧会は無理だ 音楽家じゃないからコンサートも開けない 今はマックで書くから手書きの原稿もない 何を並べりゃいいのか知恵を絞った」とあいさつに代えた詩に記しているが、言葉をなりわいにする詩人は、アートスペースで何をどう展示するのか。
その展覧会は、3つのユニークな作品空間で構成。来場者が初めに目にするのは、コーネリアス小山田圭吾とインターフェイスデザイナー中村勇吾とのコラボによる“詩の空間体験”的作品だ。これは、谷川の『ことばあそびうた』に収録されている「かっぱ」「いるか」を朗読する谷川の声と、文字によるサウンドインスタレーション。声(音)と字(映像)というプリミティブな要素から、独特のリズムをもつ谷川の詩を再考させ、また言葉遊びという詩の楽しさ、おもしろさを改めて教える作品だ。
そして、谷川が2007年に書いた20行の詩「自己紹介」をベースにしたインスタレーション、本展のための新作の詩「ではまた」を壁面に大きく展示した空間へと続く。特に印象的なのは前者、「自己紹介」のスペースだろう。そこには、20行の詩に沿って、谷川にまつわるもの――出版物や愛用してきた歴代のパソコン、お気に入りのラジオのコレクションや工具類、トレードマークのTシャツ、大切な人からの書簡や家族写真などを分類して展示している。その多くはもちろん谷川の私物で、展覧会のおかげで自宅はものが消え、寂しい状況だとか。
展覧会のレセプション前日、谷川は会場を訪れ、「自己紹介」の詩に応えるように即興で20のテキストを書き、会場に展示して帰っていったという。どこにでもある紙に、どこにでも売っているマジックで書かれ、家のどこかの引き出しにありそうな愛らしい黄色いマスキングテープで、その言葉は留められている。
こうした一連の展示物は、谷川がいつも“暮らし”の中にある実感をベースに詩を生み出してきたことを改めて気づかせる。そういえば、アートの語源はラテン語の「アルス」であり、それは“生きるための技術”を意味する。狩猟の成功を祈って壁に描かれた洞窟壁画や、人の肉体や精神を癒す医術、生活のなかで絞り出される知恵もまたアートだ。その意味で、生活から紡ぎ出されるみずみずしい谷川の詩はまぎれもないアートであり、谷川俊太郎はアートの本質を体現してきた稀有な人物でもあることを、本展は紹介してくれる。
谷川俊太郎展 TANIKAWA Shuntaro
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
会期:~2018年3月25日(日)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00 〜19:00
(金・土は〜20:00、最終入場は閉館の30分前まで)
休館日 : 月曜日(祝休日の場合は、開館、翌火曜日は休館)、2月11日(日)
入場料 :一般 ¥1,200、大・高生 ¥800、中学生以下無料
電話: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト