窓は文化である。
『窓展』に学ぶ
アーティストたちの視点

The Windows: A Journey of Art and Architecture through Windows
人間の暮らしに深く関わる「窓」は、ときに芸術家たちのインスピレーション源になり、また建築デザインの発展の要にもなってきた――窓をテーマに、建築やアート作品を紹介するユニークな展覧会が開催中だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

「窓学」という学問がある。「一般財団法人 窓研究所」が展開する学術活動で、研究対象はズバリ「窓」。建築家や研究者とともに、歴史や機能、意匠、そして言語学や民俗学、健康学などの観点から、また漫画や映画といった大衆文化も範疇に、窓がどのように生活や社会に関与してきたかを調査してきた。

 東京国立近代美術館で始まった『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』は、この窓研究所と同美術館がタッグを組んで企画されたもの。窓を切り口に、絵画から写真、ビデオ、インスタレーションまで、115点の作品を紹介する。まず驚くのは、世界的な作家たちもそこに名を連ねていることだ。ピエール・ボナールやパウル・クレー、ナム・ジュン・パイク、ゲルハルト・リヒター、ヴォルフガング・ティルマンス――。技法や制作された時代、ムーブメントを問わず、こんなにも多くの著名アーティストが、窓に関連する作品を残しているのである。

画像: パウル・クレー 《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館 COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, TOKYO

パウル・クレー 《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館
COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, TOKYO

「美術のなかでも特に絵画は、古くから窓と“親戚関係”にあると言われてきました。部屋の壁面に設置され、その四角い枠の向こうには別の世界の眺めがある。窓と絵、どちらもよく似た仕組みを持っています」と担当学芸員の蔵屋美香さんは言う。学術的にその関係を紐解けば、15世紀、風景画の基礎となる一点透視図法を体系化した『絵画論』(レオン・バッティスタ・アルベルティ著)では、絵画のキャンバスを窓枠になぞらえながら、その作図法が説明されているという。また、抽象絵画においても、アメリカの美術評論家、ロザリンド・E・クラウスは著書『オリジナリティと反復』で、そこに窓のモチーフが潜んでいることを指摘した。

画像: アンリ・マティス 《待つ》 1921-22年 愛知県美術館 COURTESY OF AICHI PREFECTURAL MUSEUM OF ART

アンリ・マティス 《待つ》 1921-22年 愛知県美術館
COURTESY OF AICHI PREFECTURAL MUSEUM OF ART

 なにより窓は、絵画のドラマティックな舞台にもなってきた。フェルメールをはじめ、17世紀のオランダの画家たちは多くの室内絵画を描いたが、照明装置がない時代、その舞台になったのは、もっとも美しい光が入る窓辺だ。また空間的演出に加え、ある種の心理ドラマも描き出す。20世紀のフォービスムの画家アンリ・マティスは、南仏ニースに滞在中、アパートメントの窓辺の様子をよく描いた。
「本展の目玉である《待つ》もそのひとつ。そこには二人の女性が描かれていますが、カーテンが閉められた側の女性はうつむき、一方開かれた側の女性は、外を眺めている。マティスはその意味を明確に話していませんが、この窓を通して、ふたりの待つ女性の意味深長な心情が表現されているようにも見えます」と蔵屋さんは指摘する。

画像: 窓研究所の学術協力により完成した「窓年表」もひとつのみどころだ PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

窓研究所の学術協力により完成した「窓年表」もひとつのみどころだ
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

 また、窓は、建築デザインの発展の大切な要素にもなってきた。本展では、窓学の総合監修を務める、建築史家・建築評論家の五十嵐太郎さんが選んだ、窓にまつわる建築書や、モダニズムまたポストモダニズムを牽引した20世紀の建築家たちのドローイングも並ぶ。たとえば、ル・コルビュジエの「水平連続窓」のスケッチ、ハンス・シャロウンの「ガラスの家」プロジェクトのためのドローイング。モンドリアンが率いた「デ・ステイル(新造形主義運動の母体)」に参加していたJ・J・Pアウトの、色ガラスをつかった外装色彩計画のための立面図など。また、これまでの窓学のリサーチ成果のひとつとして、窓にまつわる美術と建築の歴史、また窓の技術革新をまとめた、全長12メートルの「窓年表」を会場内に配置した。

 面白いのは、この窓の技術革新も、人々のライフスタイルを変え、新しいアート作品を生み出すきっかけになっていることだ。20世紀初頭、大きな一枚板のガラスの製造方法が確立されると、街並みにショーウインドウが生まれ、人々はウインドウ・ショッピングを楽しむようになる。会場にも、ショーウインドウで賑わうパリの街並みを描いた茂田井 武のイラスト、ウインドウに映り込む都市風景を捉えたウジェーヌ・アジェの作品が並ぶ。一方、ショーウインドウをモチーフに、一風変わった作品を見せるのは、林田嶺一。彼は幼少期、上海のレストランで家族と夕食を取っている最中、窓越しに戦闘機による爆撃を目にした。作品のなかに描かれているのは、個人的な記憶や幻影。作家にとってショーウィンドウは、イメージを映し出す装置にもなるわけだ。

画像: (写真左) 茂田井武 《「ton paris」より 72 気晴らしはうさを追い払う》1930-33年 公益財団法人 大川美術館 (写真右) ウジェーヌ・アジェ 《マネキン》1900年 京都国立近代美術館 PHOTOGRAPHS BY MASANOBU MATSUMOTO

(写真左)茂田井武《「ton paris」より 72 気晴らしはうさを追い払う》1930-33年 公益財団法人 大川美術館
(写真右)ウジェーヌ・アジェ《マネキン》1900年 京都国立近代美術館
PHOTOGRAPHS BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 林田嶺一 《とある日用雑貨店のショーウインドーケース(ハルビン郊外731部隊の幻影》 2002年 青森県立美術館 PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

林田嶺一《とある日用雑貨店のショーウインドーケース(ハルビン郊外731部隊の幻影》 2002年 青森県立美術館
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 

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