窓は文化である。
『窓展』に学ぶ
アーティストたちの視点

The Windows: A Journey of Art and Architecture through Windows
人間の暮らしに深く関わる「窓」は、ときに芸術家たちのインスピレーション源になり、また建築デザインの発展の要にもなってきた――窓をテーマに、建築やアート作品を紹介するユニークな展覧会が開催中だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

 たとえば、人々の社会に対する眼差しの暗喩として,、窓はメタファーとしても機能する。ポーランドの作家ユゼフ・ロバコフスキの作品《わたしの窓から》は、1978年から22年間にわたって自宅マンションの9階の窓から見える景色を撮影し、実況したもの。その間、ポーランドが共産主義から資本主義体制に転換した。この作品は、メーデーのパレード、また外資の流入により街中に高層ビルが建てられていく様子も捉え、窓を通して、変容する社会を総観する。また、メディアアートの先駆者ナム・ジュン・パイクは、世界各地の状況を瞬時に伝えるテレビが、窓的な役割を果たすことにいち早く着目した。

画像: ユゼフ・ロバコフスキの《わたしの窓から》の展示風景 PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

ユゼフ・ロバコフスキの《わたしの窓から》の展示風景
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: ナム・ジュン・パイクとジョン・ゴドフリー 《グローバル・グルーヴ》1973年 東京国立近代美術館 © ELECTRONIC ARTS INTERMIX(EAI), NEW YORK

ナム・ジュン・パイクとジョン・ゴドフリー 《グローバル・グルーヴ》1973年 東京国立近代美術館
© ELECTRONIC ARTS INTERMIX(EAI), NEW YORK

 一方、窓は、アーティストたちの表現メソッドにも関与し、制作そのもののヒントにもなっているようだ。ホンマタカシは、近年、ピンホールカメラを使った作品制作に取り組んでいる。このピンホールカメラは、暗室の壁に窓のような小さな穴を開け、反対側の壁に外の風景を映し出す「カメラオブスキュラ(ラテン語で「暗い部屋」の意味)」の原理に基づいたもの。本展で紹介されている《Camera obscuraーthirty six views of mount fuji》は、富士山が見える東京都内のいくつかの部屋そのものをピンホールカメラに変え、そこからの富士景を収めたものだ。

 現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの作品にも、じつはその発想源に窓ガラスがある。リヒターは、新しい画題を探ろうと、長年絵画と並行してガラス板を用いた構造物を制作してきた。《8枚のガラス》は、8枚のハーフミラーのガラスをさまざまな角度で配置したもの。反射や映り込みなどのエフェクトを伴ったガラス越しの風景に、リヒターは平面作品のインスピレーションをえてきたという。この作品は、絵画と写真、具象と抽象の間を追求するリヒターのまなざしを追体験させる。

画像: ホンマタカシの作品《Camera obscuraーthirty six views of mount fuji》の展示風景。葛飾北斎の連作版画《富嶽三十六景》のオマージュでもあるという PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

ホンマタカシの作品《Camera obscuraーthirty six views of mount fuji》の展示風景。葛飾北斎の連作版画《富嶽三十六景》のオマージュでもあるという
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

画像: ゲルハルト・リヒター 《8枚のガラス》 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート © GERHARD RICHTER, COURTESY OF WAKO WORKS OF ART PHOTOGRAPH BY TOMOKI IMAI

ゲルハルト・リヒター 《8枚のガラス》 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート
© GERHARD RICHTER, COURTESY OF WAKO WORKS OF ART PHOTOGRAPH BY TOMOKI IMAI

 本展のハイライトのひとつは、美術館の前庭に設置された建築家、藤本壮介の《窓に住む家/窓のない家》。これは、実際に大分県にある藤本設計の住宅《House N》のスピンオフ的作品で、二重の立方体の構造物に、さまざまなかたちの窓状の開口部が設けられている。かつて、ル・コルビュジエが《ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸》や《ロンシャンの礼拝堂》に多様なかたちの窓を設けたように、この《窓に住む家/窓のない家》も、窓に対する建築的な挑戦だ。とは言え、四角い枠は、額縁のように美術館周辺の風景や空の移り変わりを絵画のように見せ、建築の知識をひっぱりださなくても、誰もが純粋に楽しめる。

画像: 藤本壮介《窓に住む家/窓のない家》 2019年 PHOTOGRAPH BY DAISUKE SHIMA

藤本壮介《窓に住む家/窓のない家》 2019年
PHOTOGRAPH BY DAISUKE SHIMA

 そもそも映画や漫画では、よく主人公たちが窓辺でぼんやりと空想にふけるシーンが描かれてきた。本展には、錯視効果を楽しむもの、またナンセンスな窓アートもあり、凝り固まったものの見方を解きほぐし、ときに現実問題を忘却さえてくれさえする。それもまた窓辺で過ごす時間の醍醐味、ひとびとが窓に惹かれる大きな理由であったはずだ。

<EVENT>
アーティストトーク『窓とカメラオブスキュラ』
会場:東京国立近代美術館 地下1階講堂
日程:2019年12月14日(土)
時間:14:00〜15:30
登壇者:ホンマタカシ(写真家)
モデレーター:五十嵐太郎(建築史家・「窓学」総合監修)
※申込不要(先着130名)、当日10:00より受付にて整理券配布
※聴講無料、要観覧券

『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』
会期:〜2020年2月2日(日)
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は〜20:00)
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(1月13日は開館)、12月28日〜2020年1月1日、1月14日
入館料:一般 ¥1,200、大学生 ¥700
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.