京都市内の各所で写真芸術を鑑賞できるイベントKYOTOGRAPHIE。12回目を迎えた今年は「SOURSE(源、起源)」がテーマ。生命、コミュニティ、格差社会など多彩な視点を提示する展示の数々から、おすすめを選んだ

BY MARI MATSUBARA

ヴィヴィアン・サッセン
PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション1990~2023

画像1: ©️KYOTOGRAPHIE2024 photo by Kenryou Gu

©️KYOTOGRAPHIE2024 photo by Kenryou Gu

画像2: ©️KYOTOGRAPHIE2024 photo by Kenryou Gu

©️KYOTOGRAPHIE2024 photo by Kenryou Gu

 幼少期をケニアで過ごし、オランダでファッションデザインや写真を学び、モデルの経験もあるオランダ人写真家ヴィヴィアン・サッセンは、自身のプロジェクト作品とコマーシャルの仕事を並行して手がけている。ケニアで記憶に残った光と影のコントラストや強烈な色彩から着想した《Umbra(シャドー)》のシリーズや、写真の上にペインティングをほどこした《Paint Studies》、コラージュのようにしたシリーズなど、現実と夢が折り重なったポエティックな世界が表現されている。かつて新聞印刷の輪転機が稼働していた巨大な地下空間の闇に、サッセン作品が鮮やかに発光している。

@京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
Presented by DIOR

Birdhead(鳥頭)
Welcome to Birdhead World Again, Kyoto 2024

画像1: ©️ Takeshi Asano- KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano- KYOTOGRAPHIE 2024

画像2: ©️ Takeshi Asano- KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano- KYOTOGRAPHIE 2024

 中国人のソン・タオとジ・ウェイユィによって2004年に結成されたアートユニットの展示。デジタル化が進むなかフィルム写真にこだわり続け、劇的に変わりゆく上海の街や都市開発の様相を撮り続けている。同時に多種多様なプリント写真をコラージュして新たなイメージを浮かび上がらせるシリーズ「Matrix」を展開。昨年、京都と東京で撮り下ろした124点の写真から構成されている。きわめて近代的な建造物のディテールや樹木をクローズアップした写真を3点つなげて抽象的な図像に仕立てた「Bigger Photo」シリーズなど、ユニークなアプローチが印象的だ。展示会場となった老舗帯問屋の、奥に広い町家建築との相性もいい。

@誉田源兵衛 竹院の間、黒蔵
Presented by CHANEL NEXUS HALL

From Our Windows
川内倫子「Cui Cui+ as it is」
潮田登久子「冷蔵庫+マイハズバンド」

 もともと川内が潮田を指名したことにより実現した女性写真家二人展。互いに初対面だったが、川内は以前から潮田の作品と自身の作品に「家族」という共通項があると感じていたという。二人展とはいえ、両者はテーマも展示空間も別々に設けている。

画像1: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

 川内倫子の展示「Cui Cui+as it is」。Cui Cuiとはフランス語で雀のさえずりを意味する。別れの日が近い祖父とその死、自身の懐妊と子供の誕生そして成長と、変化し続ける家族の様子を撮影し続けた二つのシリーズを繋げて展示する。時間のうつろいや生命の循環をやわらかい光に満ちた写真で表現している。

 一方、潮田登久子の「冷蔵庫/ICE BOX+マイハズバンド」。1981年に夫がどこからか手に入れてきたというスウェーデン製の大きな冷蔵庫を撮影したことをきっかけに、友人宅などの冷蔵庫を閉めた状態と開けた状態、2点セットで撮影し続けた《冷蔵庫/ICE BOX》シリーズでは、中に詰め込まれた食品の寡多や種類、扉に貼られたマグネットや走り書きなどを通して、持ち主の食生活はおろか生きざままで透けて見えるようで面白い。

画像2: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

《マイハズバンド》は、1978年から85年ぐらいまで暮らした古い洋館での生活と家族を捉えたシリーズ。未発表だったプリントが2019年に自宅整理で発見され、2022年に同名の写真集が刊行された。その中の一部が今回展示されている。潮田が捨てられずにとっておいたおもちゃや雑貨などの現物も展示されている。

画像3: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

@京都市京セラ美術館 本館南回廊2階
Supported by KERING’S WOMEN IN MOTION

川田喜久治
見えない地図

画像4: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

画像5: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

 今年91歳になる日本写真界の巨匠、川田喜久治は現在も日々インスタグラムに写真をアップするなど、意欲的に活動している。戦後を象徴する《地図》シリーズ(1960-65)、戦後から昭和の終わり、世紀末までを写した《ラスト・コスモロジー》、1960年代に始まり近年同タイトルで新たに取り組んでいる《ロス・カプリチョス》の3タイトルを本展では一望できる。特に広島・長崎の原爆投下と敗戦の歴史を記号化しメタファーとして作品に昇華した《地図》のシリーズは、60年代のヴィンテージプリントを2000年代にサイズを変えて焼き直したり、デジタル化して和紙にプリントしたり、メディウムを変えながら新たな図像として発表する姿勢に飽くなき創作意欲がうかがえる。映画『オッペンハイマー』が話題となっている今、さまざまなことを考えさせられる作品群だ。

@京都市京セラ美術館 本館南回廊2階
Supported by SIGMA

柏田テツヲ
「空(くう)」をたぐる

画像6: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

画像7: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

 建仁寺の塔頭、両足院で展示されたのは、シャンパンメゾン、ルイナールのアーティスト・イン・レジデンスに参加した柏田テツヲの作品だ。柏田は昨年9月に10日間、シャンパーニュ地方ランスに滞在し、撮影とリサーチをした。世界的な気候変動の影響が葡萄畑にも及んでおり、1℃気温が違うだけでワインの出来が大きく左右するという話を聞き、目に見えないもののメタファーとして、糸で蜘蛛の巣を作って葡萄の枝にかけ写真に収めた作品も。開け放った障子の外に広がる日本庭園の緑との一体化を目指した展示だ。

@両足院
Ruinart Japan Award 2023 Winner, Presented by Ruinart

イランの市民と写真家たち
あなたは死なない──もうひとつのイラン蜂起の物語──

画像: ©️ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2024

 2022年9月にイラン人の若い女性が「イスラム的でない」という理由で警察に拘束されたまま死亡した事件があった。このことに端を発し、女性のヒジャブ着用義務とあらゆる不公平や差別に対する抗議デモが勃発。当局の弾圧により500人が死傷、8人が処刑された。ヒジャブを被らない勇気ある女性のポートレートや、デモの様子を収めた匿名の写真・映像を、フランスの『ル・モンド』紙に勤務する女性記者とフォト・エディターがキュレーションし展示している。報道統制の下、イランではSNSで写真をアップすることは自分の身を危険に晒すのと同義だ。世界に配信されない現実と、今なお自由・人権への闘争が存在することを思い知らされる。

@Sfera
In collaboration with Le Monde

ジェームス・モリソン
子どもたちの眠る場所

画像8: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

画像9: ©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©️ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

 ケニアで生まれ、イギリスで育ち、現在はヴェネチアに在住する写真家ジェームス・モリソンによる、世界中の子どもたちとその寝室をテーマにした作品。好きなポスターを貼り、おもちゃやぬいぐるみが置かれた寝室には、子どもたちのアイデンティティと物質的・文化的な状況が刻み込まれているだろうと考えて始めたプロジェクトだったが、撮影を進めるにつれ、子ども専用のベッドルームがあること自体がどれほど恵まれたことであるかを思い知らされたと作家は語る。戦争や紛争、自然災害、貧困、難民危機などにさらされた国々で撮影されたさまざまな子どもたちの寝室の写真と、添えられたキャプションに目が釘付けになる。

@京都芸術センター
Supported by Fujifilm

京都国際写真祭 KYOTOGRAPHIE 2024
会期:2024年4月13日(土)〜5月12日(日)
会場:京都市内各所
公式サイトはこちら

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