1920年代に建てられた6階建てのブリュッセルのタウンハウスと格闘しているデザイナーがいる。彼は部屋を根こそぎ改装し、家具を自らの手で作り、装飾の細部までこだわる。「間」を贅沢に取り入れ、奥ゆかしく心安まる場所を生み出すために

BY STEPHEN HEYMAN, PHOTOGRAPHS BY FREDERIK VERCRUYSSE, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: 自身のスタジオにて。ここで彼は新作の漆塗りのジュエリーを製作する。スタジオは、彼が自ら改装したブリュッセルの自宅の1階にあり、外には庭が広がっている

自身のスタジオにて。ここで彼は新作の漆塗りのジュエリーを製作する。スタジオは、彼が自ら改装したブリュッセルの自宅の1階にあり、外には庭が広がっている

 ラファエル・ヴァン・ジャンの手にかかると、だいたいなんでも実現できてしまう。ベルギー生まれのデザイナーの彼は、43歳にして、バレエダンサー、画家、そして90年代半ばにはニューヨークでファッションモデルとして活躍した経歴の持ち主だ。バレエはアカデミー・サウシンで学び、絵画はブリュッセル・ロイヤルアカデミー・オブ・ファインアーツで習得した。

 ヴァン・ジャンは2000年にヨーロッパに戻り、パリに事務所を開き、写真家のマシュー・サルバイングやファッションデザイナーのシャルル・アナスタスなどのマネジメントを担当する。その傍ら、ジッドゥ・クリシュナムルティのスピリチュアル哲学を学び、デジタル音楽のアルバムの演出もした。「僕はいつも何かを探し求めている。それが僕のやり方だ。気軽になんでもやってみることにしてるんだ」とヴァン・ジャンはフランス語のフレーズ「touche-à-tout」を使って説明した。「僕は知識より感覚に頼って仕事をしているから、自分がどこに向かって進んでいるかを常に把握してるわけじゃない」

画像: 「Objet Singulier」ブランドのカラーブレスレット

「Objet Singulier」ブランドのカラーブレスレット

 3年前に彼は自らの事務所「ビューロー・セントラル」の仕事をセーブしてキャリアを軌道修正し、再出発した。この秋、彫刻と漆塗りを組み合わせた彼自身のジュエリーブランドである「Objet Singulier」をパリの百貨店ボン・マルシェとロンドンのセレクトショップ、マッチズ・ファッションで売り出す予定だ。真鍮と木でできた紐状のネックレスやブレスレットを、淡いピンク色や鮮やかな緑、地中海の青色などに絶妙なバランスで色づけしたコレクションだ。ヴァン・ジャンは「これは自然の原始的な美を表現したものだ」と言う。絶壁のように切り立った崖や濡れた石のなめらかさなど、彼は自然界が生み出す造形からインスピレーションを得てきた。

 ホーチミン近郊の小さな村の昔ながらの工房で、ベトナムのトップクラスの職人たち200人を雇って、商品を生産している。そこでは、職人たちがひとつのジュエリーに漆を18回塗り重ね、製品が完成するまで平均2カ月かかるという。ヴァン・ジャンは、通常は盆や食器やその他の伝統的な手工芸品だけに使われる手の込んだ製法を取り入れて現代デザインの作品を作る最初のひとりだと自らを称する。「僕はまったく異質なものを組み合わせるのが好きなんだ」と彼は言う。「僕の作品づくりの目標も挑戦も、常にまったく違ったアイデアをいかに調和させるかというところにある」

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