1台1台が唯一無二の響きを持つという至宝のピアノ。その美しい音色の秘密とは――?

BY MAKIKO HARAGA

画像: PHOTOGARH BY KOJI FUJII(Nacasa&Partners Inc.)

PHOTOGARH BY KOJI FUJII(Nacasa&Partners Inc.)

 最高峰のピアノといえば、誰もがその名を思い浮かべるスタインウェイ。世界の名だたるコンサートホールの9割以上で選ばれている名器だ。

 その直営店「スタインウェイ&サンズ東京」が、天王洲アイルにオープンした。暖炉と本棚があるロビーは、欧州の邸宅をイメージして作られている。その本棚はからくり仕掛けの扉のように開き、約20台のグランドピアノが並ぶ部屋へと誘う。ロココ調の「ルイ15世モデル」、猫脚が美しい木目デザイン、コンサートホールで見るモデルーー。これらのピアノを試弾できるのだから、ピアノ愛好家にとって至福の体験だ。

 1853年にニューヨークで創業した「Steinway & Sons」は、南ドイツ出身のハインリッヒ・スタインヴェク(のちにヘンリー・スタインウェイと英語風に改名)と息子たちが作り上げた。ハインリッヒは15歳のとき、落雷で家族を失い天涯孤独になった。大工として家具の製作やオルガンの修理をしながらピアノづくりを始め、1836年に1台目を自宅の台所で完成させた。

 ショパンやリストが活躍した時代に後発メーカーとして出発したが、短期間にめざましい躍進を遂げた。しかし、革命の嵐が吹き荒れる欧州で事業を大きくするのは難しいと判断し、新天地を求めて一家で渡米。父と息子たちは異なる工房で修業を積み、それぞれが専門性を身につけた。物理と音響が得意な長男のセオドアは、多くの革新的な技術を生み出した。創業以来、同社は130を超える特許を取得している。

画像: すべてのモデルのケースを様々なデザインと彩色でつくることは、スタインウェイ&サンズ社の伝統。これは「ルイ15世」モデル。熟練の職人による、見事な彫刻と金箔を施した白色半艶塗装で仕上げられている。このような1台をも実際に見て試弾することが、この直営店では可能だ COURTESY OF STEINWAY & SONS JAPAN

すべてのモデルのケースを様々なデザインと彩色でつくることは、スタインウェイ&サンズ社の伝統。これは「ルイ15世」モデル。熟練の職人による、見事な彫刻と金箔を施した白色半艶塗装で仕上げられている。このような1台をも実際に見て試弾することが、この直営店では可能だ
COURTESY OF STEINWAY & SONS JAPAN

 みずから「比類なき響き」と形容するスタインウェイのピアノには、1万2千ものパーツが使われている。そしてそのすべてに、至高の音を追求する妥協を許さない精神が貫かれている。たとえば木材は、音伝達を高めるために、木目のつまったものを厳選して使う。地球温暖化の影響で森林の生態系が変化しており、こうした木材を安定的に確保するのは容易ではない。だが、スタインウェイ品質を保証するために、これは譲れないこだわりなのだ。こうして独自の技術と伝統を守り続けているからこそ、スタインウェイのピアノにはタイムレスな価値がある。自分では演奏しないが資産として所有する人がいるというのも頷ける。

 同社はニューヨークとハンブルグに工場を持つ。日本に輸入されるピアノは、基本的にハンブルグ製だ。どちらの工場でも、熟練した職人たちが木材の個性を尊重しながら、1台ずつ丹念に手作業を重ね作る。同じモデルでも、木の持ち味によってピアノの響きが異なるのだ。

 筆者がピアノを習っていたとき、先生のスタインウェイで弾くのが、なによりの楽しみだった。おざなりに弾いてしまったときは如実にそれが表れるけれど、1音ずつ大切に、心の中で歌いながら弾けたときには、驚くほど深くてまろやかな音色になった。スタインウェイには嘘がつけないと思うと、おのずと背筋が伸びた。

 弾き手に寄り添い、その人と対話する。それが名器たるゆえんなのだろう。演奏者の持ち味、技量、心で感じていること。そのすべてを受けとめ、その人の音として映し出す。これもまた、古くから世界中のピアニストたちに選ばれ、愛されている理由に違いない。

スタインウェイ&サンズ東京
住所:東京都品川区東品川2-6-4 G1ビル1F
営業時間:11:00~19:00(火~土曜)
定休日:日・月・祝・年末年始休
電話:03(3450)7270
公式サイト
※2017年7月23日~8月31日までの期間、夏期営業日の変更あり
※予約優先のため、来店の際は事前に要連絡

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