BY KANAE HASEGAWA
イタリアには歴史のある家具ブランドが多いが、ファッションハウスと同様、近年は経営が海外の投資ファンドの手に渡るブランドが随分と増えた。そうした中にあって、ミラノデザインウィークでは創業者一族がオーナーであるイタリアの家具ブランドが存在感を増していた。
Porro
伝統とグローバルな視点を融合
イタリアの高品質な家具発祥の地として知られる北部ブリアンツァ地方で、1925年に創業したポッロ。創業時は、古典的なイギリス・フランス家具を再現する木工の家内工房だったところ、1950年代に入ると生産の工業化に取り組んだ。80年代、空間に備え付けの収納システムや組み立て式のモデュラーシェルフのようなシステム家具という新しいタイプの家具を考案するなど、社会の変化に合わせた暮らしのあり方を提案してきた。以来、創業から4世代にわたってずっとファミリービジネス。現在では、伝統的クラフトと最先端の生産技術やコンピュータ機材を取り入れることで、ヒンジやネジなどのパーツを表に見せない収納家具やキャビネットに定評のあるブランドだ。
来年創業100周年を迎えるそんなポッロは、ミラノデザインウィークのメインである「ミラノサローネ国際家具見本市」で、自身のルーツを大切にしながらも、グローバルな視点を取り入れるため、アジア、アメリカ、そして北欧のデザイナーによる新作家具を発表した。そうすることで得意としてきた収納やキャビネットだけでなく、新しいライフスタイルに寄り添うコレクションが加わることになった。
たとえば、ニューヨークを拠点に活動する日本のデザイナー田村奈穂が初めてポッロから製品を発表した。彼女がデザインしたベンチとコンソールテーブルの「Origata」コレクションはポッロの家具にアジアの感性を与えたもの。着物のつくりにヒントを得たデザインは、一枚のアルミニウムを反物の基準である約38センチ幅にカットし、できるだけ端材が出ないように折り方を考えて、組み立てられている。シンプルながらも、強度を保つための構造とデザインが合致した作品だ。また、折り紙を思わせるたたずまいには愛らしさがある。住空間を始め、オフィスやホテルにあっても空間にアクセントをもたらしてくれる。
同様に、デンマークの気鋭のデザインオフィス、ガム・フラテージによる初めてのコレクション、ベッド「Iro」が登場した。ベッドの台は、アッシュ材を直径8センチの厚さに削りだして、丸太を組んだようにジョイントしてある。ポッロの家具には都会的でクールなアイテムが多い中、ログハウスの中で浮遊しているようなどこかカントリー感を漂わせたデザインだ。
ポッロは現在、4世代目でマーケティング・コミュニケーションのディレクターを務めるマリア・ポッロがブランドの「顔」となって対外発信をしている。1983年生まれのマリアは、幼い頃、父親の膝の上で彼がデザインをするのを間近で眺めながら育った。ブランドの歩みとともに人生の路を歩んできた彼女にとって、ポッロへの想いは強い。究極の「推し活」で、ポッロのものづくりを世界に伝えてくれるだろう。
問い合わせ先
エ インテリアズ
TEL. 03-6447-1451
Minotti
サプライヤーの顔が見える家具づくり
ポッロと同様に高級家具づくりで知られるブリアンツァ地方で、1948年、クラシック家具の工房から始まったミノッティ。ちょうど第二次世界大戦後、イタリアが国を挙げて戦後からの復興に傾注し、技術革新などが進んだ時代だ。ミノッティも積極的に新技術を導入することで、先を見据えたクラフトとテクノロジーを融合させた家具づくりに取り組んできた。そんなミノッティは、ソファ、アームチェア、オットマンなどを自由に組み合わせることで、空間やニーズに応じたレイアウトができる家具のコレクションをミラノサローネで発表した。
ミラノ在住の建築家 ハンネス・ピールがデザインしたシーティングシステム「YVES」コレクションは、有機的な曲線をパズルのようにつなぎ合わせることで多様な空間に対応できる。YVES に加え、YVES SUITE、YVES SOFA、YVES SOFA LOUNGE、YVES ROUND という計5 種類を組み合わせて100通りのレイアウトが可能だという。また、ソファのシート部分の曲線に円形のテーブルを組み合わせることで、ソファとテーブルが一体となった新たな空間も創出できる。
デンマークのデザインオフィス、ガム・フラテージがデザインしたチェアコレクションの「VIVIENNE」。背もたれはハイバックやローバック、脚は金属パーツ、回転するベースからなり、椅子に座っていながら後ろを向くことができるなど、現代の暮らし方に求められる可変性の高い家具を発表した。
こうした家具の企画から、デザイナーの選択までを担うのはミノッティ家の第三世代でヘッド・オブ・インテリアデコレーションを担うスザンナ・ミノッティ。父親、叔父、兄、いとことともに、今でもミノッティを家族で経営している。ファミリービジネスであることの大切さについて「目先の利益を追うのではなく、ミノッティのものづくりを持続するために、どれだけ研究開発に投資するかなどを株主の許諾によって決めるのではなく、自分たちの判断で決めることができるから」と彼女は話す。「私たちの家具は、本社工場からすべてが12キロ圏内にある金属やガラスなどのサプライヤーの協力があって完成します。つまり、彼らは私たちにとって家族同様の存在。サプライヤーのみなさんのファーストネームも知っています。家具は一つのコミュニティから生まれるんです」と続ける。
まさに顔の見える家具作りだ。
問い合わせ先
Minotti
TEL. 03-6434-0142
Tacchini
歴史的名作を現代の文脈で再解釈
ソファなどの高いパッディング技術に裏打ちされながら、斬新な家具のデザインで知られる1967年創業のタッキーニ社もまた、ブリアンツァ地方に本屋工場を構えるブランドだ。
今回のミラノサローネで発表された中で、出色はソファの「SOLAR」。イギリスのデザイナーのフェイ・トゥーグッドによるソファは薄手の布団やクッションを3枚積み重ねたようなデザインでベッドとしても使える。顔を埋もれさせ、クッションを押しつぶしたようなユーモラスなデザインだが、ふかふかで身を委ねると心地よさは抜群。クッションのパッディングに定評があるタッキーニの技術を生かしたものといえる。
タッキーニは過去の名作の復刻に力を入れているブランドでもある。1967年に最初に建築家のジョー・コロンボがデザインした「Additional System」は高さの異なる6つのクッションを縦にして波の様な形に並べていくモデュラー式家具。頭が乗る部分のクッションは高めに、腰を置く部分は低めにと身体のシルエットに合わせて弧を描くようにクッションを加えることでソファにもなるし、長くすればベッドのようにもなる可変性のある家具だ。50年以上前のデザインでありながらも、一つの部屋で仕事も食事もすれば寝ることもある現代生活においてこそニーズのありそうなタイムレスなアイテムだ。復刻するにあたり、パディングの中身はサスティナブルな素材にするなど社会状況に合った再解釈は欠かせない。
現在、タッキーニは創業者の娘、ジウシ・タッキーニがCEO兼クリエイティブ・ディレクターとして父親の後を継いでいる。歴史的名作の復刻には、過去のものを現代の文脈で再解釈する考古学者を目指していたというジウシの視点が生かされているのだろう。
イタリアを始め、長い伝統をもつ家具産業は、とかく男性主導で動いてきた。そして今でも保守的で権威的なところがある。若いデザイナーの間では、そうした旧来型のイタリア家具産業を敬遠する向きも見られる。しかし、ここに上げた3社のように歴史があり、かつ代々家族経営でありながらも、女性が率いるブランドからは、社会の変化こそ成長の機会と捉え、しなやかに対応する姿勢が見える。
問い合わせ先
コンプレックス ユニバーサル ファニチャー サプライ
TEL.03-3760-0111
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