今より生きていくのがずっと大変であったであろう一世代、二世代前の先輩女性たち。そんな時代にも関わらず、社会へ一石を投じ、自分らしく生きた女性たちがいた。彼女たちの活躍により、今日、女性が活躍できる社会が築かれつつある。次の世代の女性たちが今よりもっと自由に生きられる世界をめざして、先輩女性から学びを得ることができる3作品を紹介する

BY KANA ENDO

仕事や家事で疲れた心にパワーを与えてくれる──『レッスン in ケミストリー』

 舞台は1950年代アメリカ。優秀な化学者であるエリザベスは、強い男尊女卑の風潮に苦しみながらも、実験助手として研究所に勤めていた。あることを理由に研究所を不当解雇されてしまうが、料理が得意だったことから、テレビ局で料理番組のホストを務めることに。番組を通して、当時軽んじられていた専業主婦に力を与え、レシピとともに大切なことを訴えかけていく。

画像: エリザベスを演じたのは『ルーム』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたブリー・ラーソンで、エグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねる。同僚の天才化学者カルヴィン役は、ルイス・プルマン 画像提供:Apple TV+

エリザベスを演じたのは『ルーム』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたブリー・ラーソンで、エグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねる。同僚の天才化学者カルヴィン役は、ルイス・プルマン

画像提供:Apple TV+

 本作はボニー・ガーマス著の同名ベストセラー小説を原作にしたフィクション。良妻賢母といったような、かつて社会の理想とされた女性像に当てはまらないエリザベスや隣人のハリエットのような女性たちが、1950年代当時、自分らしく生きることがいかに難しく、理解されなかったかが描かれる。物語の舞台である時代と比較すると、現代女性たちの生き方の選択肢が増えたかを実感することができる一方で、職業におけるジェンダーギャップなど未だに解決していない問題があることにも気づく。本作はフィクションだが、現実にもエリザベスのような女性がいたからこそ、私たちは自由に職業を選び、間違っていることに対してはNOと言える権利と勇気を獲得したといえるだろう。

 無駄な会話はせず、自分に与えられた仕事を黙々とこなし、一見愛想のないように見えるエリザベスだが、完璧なラザニアを求め、まるで化学実験のように70回以上も試行錯誤を繰り返したり、愛犬に奇妙な名前を付けたりと、可愛らしい一面も見せる。また、専業主婦こそ家族の栄養管理を行う最も立派な仕事だと訴え、男性たちにも気づきを与えていく姿には圧倒される。エリザベスと同世代の今90代前後の女性たちは本当に苦労したのだろうなと、感謝の気持ちが溢れるとともに、次の世代のために、エリザベスのように勇気をもって、より良い世界を築けるようにしていかなければならないと改めて思わせてくれる作品だ。

画像: 隣人のハリエット(中央)を演じたのは、『THE UPSIDE/最強のふたり』や『バース・オブ・ネイション』で知られるアヤ・ナオミ・キング 画像提供:Apple TV+

隣人のハリエット(中央)を演じたのは、『THE UPSIDE/最強のふたり』や『バース・オブ・ネイション』で知られるアヤ・ナオミ・キング

画像提供:Apple TV+

画像: 『レッスン in ケミストリー』 Apple TV+で独占配信中 画像提供:Apple TV+ 配信サイトはこちら

『レッスン in ケミストリー』
Apple TV+で独占配信中
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出しゃばらずとも巧みに自分の考えを示す──『レディ・バード・ジョンソンの日記』

 ケネディ大統領暗殺事件で副大統領から大統領に昇格し、政権を引き継いだ第36代アメリカ合衆国大統領リンドン・ジョンソン。その妻であったレディ・バード・ジョンソンが残した音声日記を元に、大統領を支えるファーストレディとしての務めや、ホワイトハウスでの生活を描いたドキュメンタリー作品。

画像: 脚本は、JULIA SWEIG著の『LADY BIRD JOHNSON:HIDING IN PLAIN SIGHT』を元に構成された。音声テープは彼女の死後に限り、公開を許可された ‘The Lady Bird Diaries’ | Official Trailer | Hulu youtu.be

脚本は、JULIA SWEIG著の『LADY BIRD JOHNSON:HIDING IN PLAIN SIGHT』を元に構成された。音声テープは彼女の死後に限り、公開を許可された
‘The Lady Bird Diaries’ | Official Trailer | Hulu

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 レディ・バードという名は、本名ではなく子供の頃から一貫して使用していた本名同様の通称だ。本名はクローディア・アルタ・テーラー・ジョンソンと言い、一般にはほとんど知られていない。幼少期にてんとう虫(=レディバード)のように愛らしかったことから付けられ、本名のように定着したという。リンドン・ジョンソンは、人種差別制度を禁止し、公民権法を成立させ、黒人初の最高裁判事を任命した大統領で、その功績はルーズベルト大統領に匹敵するほど目覚ましいと言われる一方で、ベトナム戦争への軍事介入を拡大させ、世論との対立を生み出した。

 本作は、レディ・バードが録音した123時間に及ぶ音声テープを元に、その肉声と当時の映像やイラストを組み合わせて構成されており、ケネディ大統領暗殺事件の回想や、エアフォースワンの中で行われた大統領就任式の様子などの裏側を垣間見ることができる。夫である大統領に「今日の演説はBプラス」と酷評したり、スピーチを変更するよう進言するも「口出しするな」と否定されたりするが、彼女の存在が政権運営に少なからず影響を与えている様子がうかがえる。女性の立場が今ほど認められていなかったであろう時代において、男性に真っ向から立ち向かうのではなく、軽やかに理知的に振る舞う様子は、見習うべき姿勢かもしれない。とかくその装いが注目されがちなファーストレディだが、大統領に唯一、忖度せず進言できる人物として、市井の人々と国家とのパイプ役を果たした姿に、どんな女性にも必ずその人にしかできないことがあると勇気をもらえる作品だ。

画像: 『レディ・バード・ジョンソンの日記』 ディズニープラスのスターで独占配信中 © 2022 American Broadcasting Companies, Inc. 配信サイトはこちら

『レディ・バード・ジョンソンの日記』
ディズニープラスのスターで独占配信中
© 2022 American Broadcasting Companies, Inc.

配信サイトはこちら

歳を重ねることをポジティブに捉えられる──『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』

 マラソンスイミングの選手を引退して30年。60歳になったダイアナ・ナイアドは、母の遺品から見つけた本に感化され、20代の頃に叶えられなかった夢に再び挑戦したいという思いが膨らむ。それは、キューバからフロリダまで約160キロの海峡を泳いで渡るという挑戦だった。親友であるボニーにコーチを頼み、人生をかけた夢に向かっていく。本作ではナイアドをアネット・ベニング、ボニーをジョディ・フォスターが演じる。

画像: ナイアドの自伝『対岸へ。オーシャンスイム史上最大の挑戦』を元に、ジュリア・コックスが脚本を務めている ©NETFLIX

ナイアドの自伝『対岸へ。オーシャンスイム史上最大の挑戦』を元に、ジュリア・コックスが脚本を務めている

©NETFLIX

 ダイアナ・ナイアドは実在の人物で、本作は実話をもとにしたノンフィクションだ。最初の挑戦は1979年、28歳の時だった。体力的には28歳の時の方が確実に有利にも関わらず、それでも夢に挑もうとするナイアドには、若い時よりも強い心があった。そして今回は親友のボニーも一緒だった。彼女たちの周りに集まった精鋭チームと、そのチームを信じられるようになっていくナイアド。若い頃や今回の挑戦を始めた時点では自分の能力を過信するあまり、人の意見を素直に聞けず、自分の主張ばかりしていたが、いつの間にか自分の弱さをさらけ出すことができるようになっていく。チームメイトの信頼を得たナイアドは、60歳を過ぎているにも関わらず、最初の挑戦の時よりも強くなっていくのだ。

 また数々の名画に出演してきたアネット・ベニングとジョディ・フォスターという名優が、メイクもほぼせず、髪もボサボサでシワをさらけ出し、ありのままの姿でスクリーンに登場していることにも勇気づけられる。加齢により変わっていく自分を受け入れ、認めてあげることで放たれる清々しい美しさがそこにはあり、歳を重ねることへの恐怖を払拭してくれる。40代や50代になると人生の行き先をなんとなく決めつけてしまいがちだが、何歳になっても変わることはできるし、人生を心から楽しむことができると教えてくれる。

画像: ボニー(ジョディ・フォスター/左)とナイアド(アネット・ベニング/右)。監督は、スポーツドキュメンタリー作品を多く手掛け、『フリーソロ』でアカデミー賞®長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しているエリザベス・チャイ・ヴァサルとジミー・チンが務めた ©NETFLIX

ボニー(ジョディ・フォスター/左)とナイアド(アネット・ベニング/右)。監督は、スポーツドキュメンタリー作品を多く手掛け、『フリーソロ』でアカデミー賞®長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しているエリザベス・チャイ・ヴァサルとジミー・チンが務めた

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画像: 『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』 NETFLIXで配信中 ©NETFLIX 配信サイトはこちら

『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』
NETFLIXで配信中
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*各作品の公開/配信状況は2023年11月25日現在のものです。

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