今、多くのメゾンやデザイナーが向かっている先に待つ、ファッションの未来とは。モヒカンヘアにそぐわぬ控えめな物腰が印象的なひとりのデザイナーに、栗野宏文は何を見いだしたのか

BY HIROFUMI KURINO, PHOTOGRAPH BY YASUTOMO EBISU

 今、ファッションを巡る状況はどのようになっているのだろう? 寒暖から身を守る道具として誕生した衣服は近代社会の成立と変化に伴い実用品以上の意味を求められるようになり、ファッション衣料という概念が根づくと、より独創的なデザイン、より体を美しく見せるパターン、よりよい着心地が要求された。そして現代。ソーシャル・メディアが発達した消費社会では“目立つこと”がファッションの重大要素となった。多くの服に求められるものは“記号性”であり、視認性の高いロゴの服が話題となる。強い承認欲求がファッション消費の前提となっているのだ。ビッグ メゾンがデザイナーに求めるものはデザイン力ではなく話題創出力=バズを起こすこと。確かにそこに経済効果はあるが、私はそれがファッションであるとは思わないし、絶対に買うべきもの、とも思えない。ファッションとはデザインと完成度(素材・縫製・着心地)へのあくなき追求の結果ではなかったか?

 そんな状況下、ファッションが本来向かうべき道を歩んでいるデザイナーと話す機会を持った。それが二宮 啓だ。二宮がデザインするブランドがノワール ケイ ニノミヤであり、コム デ ギャルソン(以下CdG)傘下のブランドとして設立6年目となる。

画像: 二宮 啓 デザイナー。アントワープ王立芸術アカデミーで学んだのち、コム デ ギャルソンで4年間パタンナーを務める。2012年10月に自身のブランド、ノワール ケイ ニノミヤをスタート

二宮 啓
デザイナー。アントワープ王立芸術アカデミーで学んだのち、コム デ ギャルソンで4年間パタンナーを務める。2012年10月に自身のブランド、ノワール ケイ ニノミヤをスタート

  二宮はCdGの創業者でありデザイナーである川久保 玲直属のチームでパタンナーを務めたのち「新しいことをやりましょう」と言う川久保の推挙のもと新ブランドを立ち上げた。社内で発表された1回目のコレクションはブランドネームさえついていなかったことを思い出す。東京での展示会、パリ本社でのフロアショーを経て、今春正式にパリ・コレクションでランウェイ発表を行うに至った。ブランド名が示すようにほとんど黒い服であるが、ノワール ケイ ニノミヤを特徴づけているのは色ばかりでなく、そのメイキングだ。

「何しろ新しくなくては意味がないのです。ファースト・コレクションから“縫わない”手作業のアプローチで、未知の作り方に挑戦しています。通常縫製するところをリングでつないだり、スタッズで止めて形を作っています。今回のコレクションでは、花びらのような小さなパーツを重ねて新しいボリュームの服も作りました」。二宮の創作は単なるデザインではなく、かつ実験で終わってもいない。服には独特の女性らしさがありCdGグループで唯一“おんなを感じる服”であるとも言われている。それは女性服にセンシュアリティが要求される欧米で先に認められた、という事実につながる。そしてノワール ケイ ニノミヤの服にはリアリティがある。安価ではないが、素材や縫製や完成度を考えると、健全な高級デザイン服の価格だ。

「デザイナーは本来黒子だと考えています。作りあげたものがお客さまに納得してもらえて初めて成果となります。制作の苦労を一緒に支えてくれた工場やチームのためにも成功しなければいけないのです。よいセールスやコレクションへの評価で彼らに恩返ししたいのです」。二宮の真摯な姿勢やものづくりへのあくなき挑戦は世界的にプロからの評価が高く、今年、モンクレール社が企画した世界の有力クリエイター8組とのコラボレーションにも名を連ねている。

「ダウンの基本はダウンパックと呼ばれる小分けに袋詰めされた羽毛ですが、それをチューブにして毛糸に見立てて編みました。それで一種の手編みアウターを制作したのです」。ここでも彼の職人魂が輝いている。二宮の仕事はオートクチュール・レベルという声も多く聞かれるが、それは過大評価ではない。買う価値のある服なのだ。前述した“バズを起こすことばかりが優先されるファッション”にあってノワール ケイ ニノミヤが示すものこそ、ファッションの未来や希望ではないだろうか。

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