TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA
先日、ヴァレンティノ2023-24年秋冬の新作を買いました。「ブラックタイ」がテーマで、全てのルックにネクタイが用いられており、パンキッシュな味付けがされていたシーズン。ネクタイは今季なぜか多くのブランドで見られ、その代表格となっています。私がそんなコレクションの中から何を選んだのかというと、アイコニックなロックスタッズがあしらわれたノーズリングとリップリングでした。
今年の3月にパリでショーを見た時から気になっており、日本の展示会でもサンプルで詳細を入念にチェックしました。実は鼻根を挟むタイプのノーズリングも展開されているのですが、似たようなタイプを持っていて、顔用アクセサリーの接着剤(コスプレ用)やメイクさんおすすめのつけまつ毛用接着剤を駆使しても、鼻が低いゆえに安定せず落ちてしまう。泣く泣くそちらは諦め、鼻柱を挟むノーズリングとリップリングに的を絞ることに。買う気満々で毎日のようにオンラインショップをチェックしていたところ、ついに発売。早速ポチった次第です。どちらかひとつでもよかったのでしょうが、ランウェイでは両方付けているモデルもいる。シンプルなスタイリングでもパンチを与えてくれるはずなので迷いはありませんでした。
ところで何がそんなに私の心をつかんだのかといえば、鼻や唇という穴を開けるにはとっても痛そうな部位にピアスをしているように見えるアイテムだからです。この連載のVol.4「第二の皮膚」トップで書いたタトゥープリントと同様、ボディピアスをして身体を変えたいのに、痛みを恐れてできない無念が私を動かしているのでしょう。
そして、スタッズも私の大好物。ヴァレンティノの2023-24秋冬コレクションのテーマが「パンキッシュだった」と書きましたが、これもVol.6で取り上げた「ロックTシャツ」同様、パンクミュージック好きというわけではないのにそれにまつわるファッションに思わず惹かれてしまうのです。そこに流れる反骨精神に共感するからなのでしょうか。
ついに商品が到着し、意気揚々と身につけてみたら、なかなかの存在感がありました。今私は眉の色をブリーチし、時々ピンク色のマスカラを使ったりしているのですが、よく「何だかすごいですね」といったコメントをもらいます。やはり人がまず見るのは顔。そこに何か特殊な細工を施すというのは、たとえちょっとしたことでも目につくようなのです。ですから、取材やシリアスな打ち合わせの際は着用を避けた方がいいだろうな…と即座に自制心が働いたのでした。そしてリップリングに至っては飲食を伴う席には適当ではなさそう。以前購入した唇を大きなストーンが覆うタイプのノーズリングよりは食事を邪魔しませんが、取れたり汚れたりしてしまいそうです。
というわけで、何かの拍子に落としてしまわないかとか、相手の気が散っていないかとか落ち着かなさそうなアクセサリーではあります。が、見た目のインパクトには代えられない。9月末から始まるパリコレクション取材でも着用するつもりです。
栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama