TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

昨年3月にスタートし、密かに「読者の方に1回は笑っていただく」という目標を立てて自らのワードローブを披露してきた本連載ですが、残念ながら今回で終了となってしまいました(涙)。クローゼットには語れそうなアイテムがまだまだ眠っており、着々と増え続けてもいます。はたして、最終回を飾るに相応しい品は何なのか。悩んだ末、私のファッション観に大きな影響を与えたコム デ ギャルソンのアイテムを取り上げようと思い至りました。
私は出かける前に何度も着替えてどのスタイリングがいいか母に相談する、といったような子供でした。以降もファッションが好き、という思いはずっと変わらず、それとどう付き合うのが最適なのかいろいろ試してきた中で飛び込んだ世界の一つが2001〜10年に在籍したコム デ ギャルソンです。その服を着ると、誰かの理想を押し付けられるのではなく、自立したパワフルな人になれる気がする。ファッション業界がどんなものなのかを身をもって体験したい、という思いがまずありつつも、デザイナーの川久保玲さんが実際にどのようなものづくりをしているのかを近くで見ることにも興味津々でした。
入社後は目の前の仕事に追われる日々でしたが、「新しさ」を感じられるタイミングに「強い」ものを打ち出すコム デ ギャルソンのスタイルは刺激的で、毎シーズン驚かされていました。10年くらい前からショーで発表する体数を絞り、「服」と言えるのかどうかもわからないボリュームのある抽象的な塊のようなものを発表することが多くなりましたが、ゼロ年代は半年ごとに次々と変化し、スタイリングも面白かった。今回はその時期から特に思い出深い、2005年春夏のジャケットをご紹介することにします。
このシーズンは、当時の記事によれば「機械としてのバイクのパワーとバレエダンサーの腕の強さについて考えた」とあります。そしてランウェイではバイカージャケットに本物のバレエのチュチュをスタイリングしていました。さらに練習着のようなパンツやバレエシューズを合わせ、ヨーロッパ貴族のカツラのようなヘアで、手には野球用の手袋をしている。

その時私は広報を担当していて、パリで行われたショーのリハーサルで初めて全貌を知りました。バイカージャケットにチュールのスカートを合わせる、というのはよくある「甘辛ミックス」なのかもしれませんが、そんな次元とは全然違う。思いもよらない要素同士の大胆な組み合わせが生み出す「強さ」に度肝を抜かれ、とにかく主役であるバイカージャケットを手に入れねば!と決意を固めたのでした。
が、見るからに硬そうだったバイカージャケットには、野球のグローブに使う革が用いられ、グローブ同様紐が編み込まれていました。一般的なレザージャケットのように「着ていくうちに身体に馴染んで良い味が出る」といった過程は期待しない方がよさそう。サンプルを試着してみるとなかなか重く、そんなに暖かいわけでもない。さらにまあまあの値段がしましたが、コレクションで表現された「強さ」が詰まっているのは間違いありません。あらゆる疑念を振り払い、意を決して購入したのでした。ちなみに20年が経った今も、依然硬いままです。

こうして振り返ると買い物の仕方はその頃からあんまり変わっていない。判断基準は、機能性なんかはさておいて「強いかどうか」が大半を占めています。「強い」というのはだいぶ感覚的なもので、コム デ ギャルソン在籍時に身についたような気がします。いまや買い物だけではなく、取材する立場で新作を見た時や編集者としてファッション撮影をしている時など、あらゆる場面で「強い」=「良い」と自分の中で処理している。それは私の装いに対する考え方の根幹ともなっているのです。
そんなこんなで少々偏った私ですが、これまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!またどこかでお目にかかれますと幸いです!
栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama
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