フランスのラグジュアリーブランド、セリーヌはこの秋、芸術家ジャン・アルプによる彫刻のミニチュア版を発表する――デコルテを装うペンダントとして

BY MEGAN CONWAY, PHOTOGRAPH BY KYOKO HAMADA, TRANSLATED BY YUMIKO UEHARA

画像: セリーヌのペンダント。トップは、芸術家ジャン・アルプの彫刻《プトレマイオスⅡ》(1958年)をモチーフとしている。 ペンダント スターリングシルバー¥792,000(予定価格、9月上旬発売予定)※ほかにヴェルメイユ¥869,000 (予定価格)も展開/セリーヌ  セリーヌ ジャパン TEL. 03-5414-1401

セリーヌのペンダント。トップは、芸術家ジャン・アルプの彫刻《プトレマイオスⅡ》(1958年)をモチーフとしている。
ペンダント スターリングシルバー¥792,000(予定価格、9月上旬発売予定)※ほかにヴェルメイユ¥869,000 (予定価格)も展開/セリーヌ

セリーヌ ジャパン
TEL. 03-5414-1401

 ドイツ系フランス人の芸術家ジャン・アルプ(ドイツ名はハンス・アルプ)は、1952年に何度かギリシャに足を運び、そこでクラウディオス・プトレマイオスの思想と出合った。プトレマイオスは古代ローマの天文学者、数学者、地理学者で、その功績としては紀元2世紀に制作した天球図が特によく知られている。アルプ自身は1916年にスイスのチューリッヒでダダイズムと呼ばれる芸術運動を始めたひとりであり、その後シュルレアリスムの主導的存在となったが、当時の彼が最も関心を抱いていたのは自然界に見られるさまざまなフォルムだった。アルプはプトレマイオスの研究に、自分と同じ情熱を感じとった。数年後にはパリ郊外の自身のアトリエで、このギリシャでの出合いをもとに、抽象彫刻の連作《プトレマイオス》を生み出している。1958年につくられた《プトレマイオスⅡ》もその連作の中のひとつだ。自然の生き物を思わせる形のデザイン、すなわち「ビオモーフィズム」(有機的形態造形)を採用したブロンズ像で、高さは約1メートルあり、アルプの傑作のひとつとされている。古代ローマを生きたプトレマイオスが地図や著書において宇宙の輪郭を明らかにしようと試みていたのだとすれば、20世紀を生きたアルプ(1966年に79歳でこの世を去った)は、それをゆるぎない立体像として表現を試みたと言えるだろう。

 セリーヌはこの秋、アルプ財団とのコラボレーションにより、この《プトレマイオスⅡ》を首元を飾るペンダントとして新たに生まれ変わらせる。セリーヌの「アーティスト ジュエリー プログラム」の第三弾だ。「アーティスト ジュエリー プログラム」は、セリーヌのクリエイティブ・ディレクターであるエディ・スリマンが前衛芸術家たちの有名な作品を装飾品として再解釈するというプロジェクトで、第一弾として2020年に20世紀フランスの芸術家セザール・バルダッチーニの彫刻をモチーフに、円柱を思わせるペンダントを発表した。第二弾は2022年、20世紀アメリカの芸術家ルイーズ・ネヴェルソンの作品を再解釈したネックレスだ。アルプの作品をモチーフとした今回のペンダントは、全世界でシルバーが50点、ヴェルメイユ(ゴールドメッキ)が50点で、東京の銀座、パリのモンテーニュ、ロンドンのニューボンドストリートを含む限定店舗での取り扱いとなる。それぞれにマッチしたシルバーまたはヴェルメイユのラウンドリンクチェーンがついており、ロングネックレスとしても、二連にしてショートネックレスとしても着用可能。ペンダントヘッドは取りはずし可能なので、小さな彫刻のようにテーブルや棚などに飾って楽しむこともできる。

 大きさは6センチほどだが、形はまさに《プトレマイオスⅡ》そのもの。輪になった卵型の輪郭が内側に空洞を抱いている。アルプによる《プトレマイオス》シリーズのブロンズや石灰岩の彫刻は、湾曲した石膏型を使って最初の成形を行なっていた。そうしたやり方によって「素材を輪の形にくりぬき、やすりをかけ、まったく新しい形にしていきました」と、アルプ財団会長エティエンヌ・ロビアル氏が話す。アルプ財団が拠点を置くのは、かつてのアルプの住居兼アトリエだ。パリ郊外、ムードンまたはクラマールと呼ばれる地域に今も残るその建物で、アルプは妻であり密接な共同制作者でもあった芸術家、ゾフィー・トイバー=アルプと住んでいた。妻は1943年に亡くなっている。

 アルプは創造性を交換しあうことの価値を強く信じていた、とロビアル氏は言う。キャリアの随所において、ハンス・リヒターやマックス・エルンスト、ソニア・ドローネーといった画家たちと共同制作をしていた。フランスの小さな町オービュッソンの名産であるタペストリーの編み手たちと手を組んだこともある。陶芸家とともに、フランスの国窯セーブルの作品を手掛けたこともある。フランスの宝飾デザイナー、フランソワ・ユーゴーによるジュエリー作品にも関わった。実際のところアルプは、中世の無名の職人たちのように芸術家がコミュニティを形成し、みんなで集まって作業をすることで、切磋琢磨しながら互いに情熱を高めあえると考えていた。もしアルプが生きていたらセリーヌとのコラボレーションにも同じ思いを抱いただろう、とロビアル氏は考えている。「過去2年、このプロジェクトを進めるあいだ、私たちは専門家としてつねにその点を意識していました。『アルプなら、この進め方を承認しただろうか?』と」。その問いに対し、今のロビアル氏はこう答える。「ええ、きっとアルプは気に入ったことでしょう」

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