人にとって自然とは何か、自然にとって人とは……。モード界は今、自然と人の関係性を問い直す表現が盛んだ。能楽研究者・宮本圭造の知見を水先案内人に、古いにしえより自然への崇敬を捧ぐ能を、今に継承する若狭へ─

BY ASAKO KANNO, PHOTOGRAPHS BY HIROKO MATSUBARA, STYLED BY TOMOKO IIJIMA
HAIR BY KOICHI NISHIMURA AT VOW-VOW, MAKEUP BY TOMOHIRO MURAMATSU, MODEL BY HIROMI ANDO AT TWO PLUS ONE AGENCY

海と山、祈りと能─若狭で受け継がれる物語

 若狭地方は全国でも有数の能楽が盛んな土地で、今も100棟以上の能舞台が残されています。その歴史は、能楽がまだ猿楽と呼ばれていた室町時代にさかのぼります。
 室町時代の若狭には、気山・倉・吉祥・氏尾という4つの座(劇団)があり、それぞれ地域の神社を拠点とし、村々の祭礼で猿楽を演じていました。祭礼で行われる猿楽のことを「神事能」といいます。猿楽は人々の娯楽のために演じられるのではなく、神に捧げるものだったのです。
 江戸時代になると、4つの座のうち、倉座がほかの3座の役者を吸収して大きな勢力を持つようになり、小浜藩主酒井家の庇護も受けて、活発な活動を見せました。
 当時の若狭では実に200近い村々で神事能が行われたことがわかっています。豊穣・豊漁祈願のほか、日照りの際の雨乞い、病気平癒、新しく完成した漁船の進水式など、さまざまな機会に演じられた能楽は、若狭の人々にとってまさに生活の一部となっていたのです。

宮本圭造(みやもと・けいぞう)

能楽研究者、野上記念法政大学能楽研究所 所長。1971年大阪府生まれ。能楽史や能面史を専門に研究。著書に『上方能楽史の研究』(和泉書院)などがある。若狭の神事芸能をまとめた『中世若狭芸能資料集』(若狭路文化研究所)を2027年に刊行予定。

画像: ドレス¥2,200,000(参考価格)/ルイ・ヴィトン ルイ・ヴィトン クライアントサービス TEL:0120-00-1854

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日本海の荒波が作り上げた芸術、明鏡洞。岩肌には、吹き荒れる潮風に耐えながら根を張る、深緑の松。日本の原風景に呼応するダークグリーンのロングドレスは、「自然こそが最高のファッションデザイナーである」というコンセプトのもと発表された一着。波打つようなネックラインやボンディング加工を施したプリーツの緻密な仕立ては、どこか、山々や木々の構築的な美を彷彿とさせる。

明鏡洞(めいきょうどう)

能楽の庇護者である室町幕府三代将軍・足利義満も訪れたとされる古くからの景勝地。松の緑と澄み渡る海が織りなす情景はこの地の豊かな自然を物語る。「八穴(やな)の奇勝」と称される洞穴群を擁する城山公園内にあり、その名称に「鼓ケ洞(つつみがほら)」や「猩々ケ洞(しょうじょうがほら)」など能に通じる名が残るのも興味深い。
●福井県大飯郡高浜町事代

画像: ジャケット¥183,700・ブラウス¥42,900・スカート¥205,700・靴¥187,000/コムデ ギャルソン TEL:03-3486-7611

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40mを超える千年杉や銀杏、夫婦杉など御神木に見守られる若狭姫神社の能舞台。現生と幽界をつなぐ橋懸かりや、深い静けさをまとう鏡板のかすれた老松の絵が、悠遠の昔へと誘う。布地を複雑につまみ寄せ、立体的かつ有機的な造形を生み出した桃色のジャケットが、咲き誇る花の化身のように妖艶に浮かび上がる。

若狭姫神社 能舞台

1300年余りの歴史を有する、若狭國一宮下社、若狭姫神社は豊玉姫命(とよたまひめのみこと)を祀り、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)を祀る上社の若狭彦神社と対をなす。杉木立が包み込む境内の能舞台は、小浜藩の庇護のもとで花開いた若狭能の歴史と、神事芸能を今に伝える。今後、修復工事を経て2027年5 月7・8 日には24時間にわたる能楽奉納「飛天双○能(ひてんふたわのう) 若狭小浜」が開催予定。
●福井県小浜市遠敷65の41

画像: ジャケット¥2,200,000・パンツ¥1,700,000(参考価格)/ディオール クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947

ジャケット¥2,200,000・パンツ¥1,700,000(参考価格)/ディオール

クリスチャン ディオール
TEL:0120-02-1947

緑豊かな砕導山(さいちやま)からの冷涼な風と、若狭湾から届く潮風が心地よく通り抜ける、鎮守の杜の能舞台。古来、神事能が捧げられてきたこの場所で、耳を澄ませば足拍子が空気を震わせ、心に響く。古今東西、天界からの使者として神聖視される羽根の意匠をヴィスコースレースで表現した純白のジャケットは、卓越した職人の技が作り上げる構築美が鮮やかに際立つ。天から降り立った鶴の羽ばたきのような、静けさと優美さを纏って。

佐伎治神社 能舞台

大己貴命(おおなむちのみこと)、素戔嗚命(すさのおのみこと)、稲田姫命(いなだひめのみこと)を祀り、裏山に座す大岩への磐座(いわくら)信仰を今に伝える、1800年以上前に創建された古社。6 年に一度行われる福井県指定無形民俗文化財「高浜七年祭」は、450年以上の歴史を誇る若狭最大級の壮大な式年大祭だ。祭り前夜には、この能舞台に安置された神輿に御祭神が遷される。7 日間の祭礼中は神輿が巡幸し、太刀振り、お田植、神楽など多様な伝統芸能が各所で奉納される。
●福井県大飯郡高浜町宮崎59の3

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