果樹大国・山梨。ぶどう、桃、すももの収穫量は全国1位に輝く。甲府盆地には水はけのよい扇状地が広がり、日照時間は日本で最も長く、昼夜の寒暖差が激しい。フルーツを育てるには最適な自然条件が揃っている。そんなフルーツの楽園から、いまをときめくぶどうの女王「シャインマスカット」の赤色バージョンが誕生したというニュースが飛び込んできた。現地を訪ね、関係者に話を聞いた

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA

画像: 今年の8月に商標登録された、生まれたての赤いぶどう「サンシャインレッド」。品種名は「甲斐ベリー7」

今年の8月に商標登録された、生まれたての赤いぶどう「サンシャインレッド」。品種名は「甲斐ベリー7」

 鮮やかなあかね色に染まったぶどう「サンシャインレッド」。パンッと張った果皮に光が当たってキラキラしていた。口に入れれば、フローラルでマスカットのような華やかな香りに包まれ、すっきりした甘さがあとを引く。皮ごと食べられ、種はない。約15年かけて山梨県が開発し、2022年に品種登録された期待の新星だ。

 近年、高級ぶどうが大人気になっている。最近のトレンドは「皮ごと食べられる」「種なし」「大粒」「高糖度」。火付け役は「シャインマスカット」だ。マスカットの女王と称賛されるこのぶどうの栽培面積は、国内主要品種の「デラウェア」や「巨峰」を抜いて昨年、トップに躍り出た。
「シャインマスカット」の登場は日本中に、いや海外にもぶどうファンを増やし、高値で取引されることで、ぶどうという商品の市場での存在感を高めた。最近は、「ポスト・シャインマスカット」に熱い視線が集まっている。

夢の“皮ごと食べられる赤いぶどう”が生まれるまで

 山梨県で開発された「サンシャインレッド」の誕生ストーリーを伺いに、山梨県果樹試験場へ向かった。JR山梨市駅から車で10分ほど。山の中腹にある試験場は日当たりもよく、さまざまな果物が育てられていた。

画像: 山梨県果樹試験場。果樹生産技術の最高峰を目指す山梨県の拠点。1997年に甲府盆地を望む山の中腹に移転。ぶどうの種なし化の技術・ジベレリン処理技術を初めて開発。山梨県のぶどう、桃、すもも、おうとうを研究する。育種部、栽培部、環境部に分かれている。育種部は、フルーツの新しい品種の開発を行う部署だ

山梨県果樹試験場。果樹生産技術の最高峰を目指す山梨県の拠点。1997年に甲府盆地を望む山の中腹に移転。ぶどうの種なし化の技術・ジベレリン処理技術を初めて開発。山梨県のぶどう、桃、すもも、おうとうを研究する。育種部、栽培部、環境部に分かれている。育種部は、フルーツの新しい品種の開発を行う部署だ

「サンシャインレッド」の開発に実際に携わった育種部の研究員・小林正幸さんは言う。「『サンシャインレッド』の開発は、生産者や市場からのリクエストで始まったんです」。”シャインマスカットのような、皮ごと食べられる赤いぶどうを作って欲しい”。赤と緑のぶどうが売り場に並んでいたら、華やかで人目をひく。彩りが美しいので贈答用にも重宝されるに違いない。山梨県のぶどう栽培の更なる発展のためにもなる。そんな期待を背負い、赤系シャインマスカットの開発が始まった。

画像: 小林正幸さん。山梨県果樹試験場の育種部の研究員。山梨育ち、山梨大学医学工学総合教育部卒。工学博士。山梨愛とフルーツ愛に溢れる

小林正幸さん。山梨県果樹試験場の育種部の研究員。山梨育ち、山梨大学医学工学総合教育部卒。工学博士。山梨愛とフルーツ愛に溢れる

 ぶどうの新品種の開発は、まず目標となるぶどうの特性を決めて、その遺伝的形質を持つぶどうを交配し、育ったぶどうの種を採ることから始まる。さまざまな組み合わせを試すため、多くの苗木ができる。その苗木を畑に植え、ぶどうが実ったら、風味や色などを検査する「果実調査」を行う。毎年、100種類以上の果実を調査し、品質が高いものだけ残し、他は伐採してしまう。気候による影響もあるので、厳しい果実調査を何年も繰り返し、栽培のしやすさなども考慮に入れて、複数年、品質を保ち続けたものだけが最終的に残る。

画像: 小林さんは、「サンシャインレッド(品種名「甲斐ベリー7」)」の家系図を紐解いて説明してくれた。山梨県育成品種「サニードルチェ」は、レバノン生まれの「バラディ」と「マスカットオブイタリア」の突然変異で生まれた「ルビーオクヤマ」のかけ合わせ。「シャインマスカット」は「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の流れをひく「安芸津21号」とヨーロッパぶどう系「白南」のかけ合わせ。「サニードルチェ」と「シャインマスカット」から「サンシャインレッド(甲斐ベリー7)」が誕生

小林さんは、「サンシャインレッド(品種名「甲斐ベリー7」)」の家系図を紐解いて説明してくれた。山梨県育成品種「サニードルチェ」は、レバノン生まれの「バラディ」と「マスカットオブイタリア」の突然変異で生まれた「ルビーオクヤマ」のかけ合わせ。「シャインマスカット」は「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の流れをひく「安芸津21号」とヨーロッパぶどう系「白南」のかけ合わせ。「サニードルチェ」と「シャインマスカット」から「サンシャインレッド(甲斐ベリー7)」が誕生

 新品種の開発だからといって特別なことをしているわけではない、と小林さん。「同じことを地道に繰り返すだけなんです。スタートしてから10年以上かかるプロジェクトなので、完成を見られずに他部署に異動になることもあります」。
「サンシャインレッド」は、「シャインマスカット」と山梨県育成品種の赤系ぶどう「サニードルチェ」のかけ合わせで生まれた。この交配が始まったのは2007年までさかのぼる。

画像: 「サンシャインレッド」の畑。白い不織布の傘がかけられ、下にはシートが敷かれて、光量を調節

「サンシャインレッド」の畑。白い不織布の傘がかけられ、下にはシートが敷かれて、光量を調節

「大変だったことですか? 数多くのぶどうの中から『これだ!』と思えるぶどうに巡り合うことですね。毎年100種類以上を調査しても、粒が小さかったり、赤色にならなかったり、皮ごと食べられなかったりがほとんどです。『サンシャインレッド』の栽培では、きれいな赤色に仕上げるのに苦労しました。このぶどうは、日光に当てないと着色しない特性があります。果粒の着色をよくするために、試行錯誤して、今の白い不織布の傘とシートを使って着色させる方法に辿り着きました」
 ぶどうの房ひとつひとつに白い傘をかけ、下に白いシートを敷けば、直射日光に当たらず、傘とシートの反射によって光を当てられる。この方法で、鮮やかな赤色に着色できるようになった。

「サンシャインレッド」が宿す、未来への希望

「サンシャインレッド」の栽培にすでに着手している農家もある。ぶどうは苗木を植えてから4年ほどで出荷できるほど実が成るのだそうだ。新品種の栽培法を研究し、農家へ伝える役割を担っているのが、JAフルーツ山梨の出資型農業法人として設立された「株式会社あぐりフルーツ」の取締役・反田(そった)公紀さん。

画像: 反田公紀さん。JA で営農指導員として活躍してきたキャリアを活かし、地域おこし協力隊を会社で引き受け、3年間の研修を経て4年目には自立できるように指導している。また、生産者の高齢化などの理由で使われ無くなった農地を預かって、新しい担い手へ託す“橋渡し”にも取り組む

反田公紀さん。JA で営農指導員として活躍してきたキャリアを活かし、地域おこし協力隊を会社で引き受け、3年間の研修を経て4年目には自立できるように指導している。また、生産者の高齢化などの理由で使われ無くなった農地を預かって、新しい担い手へ託す“橋渡し”にも取り組む

 今回、「サンシャインレッド」の栽培法を研究し、育てた手応えを語ってくれた。
「まず、色が美しい。シャインマスカット系で強い香りを持つぶどうは少ないのですが、『サンシャインレッド』は『マスカット ・オブ・ アレキサンドリア』のような甘い香りがして魅力的です。他県でも、赤系シャインマスカットの開発に力を入れていますが、まだ市場には出回っていません。このおいしい赤系シャインマスカットには、山梨県のぶどうの生産者、ひいてはぶどう市場全体に明るい未来をもたらしてくれるでしょう」。

 現在、「シャインマスカット」は主に香港と台湾へ輸出され、高値で取引されている。赤系シャインマスカットとして認められれば、今後の輸出拡大に期待できる。
 15年の歳月をかけて生まれた「サンシャインレッド」。まだあまり市場には出回っていないが、今年はいくつかの場所で手に入れられると言う。一足先に、そのロマンを味わってみてはいかが。

画像: 反田さんの畑に実るサンシャインレッド。手塩にかけて育まれ、日の光を受けて輝く。皮ごと食べられ、華やかな香りとみずみずしい甘やかさが口中を満たす

反田さんの畑に実るサンシャインレッド。手塩にかけて育まれ、日の光を受けて輝く。皮ごと食べられ、華やかな香りとみずみずしい甘やかさが口中を満たす

【「フルーツ王国」やまなしが誇るフルーツは下記の店舗で販売中】

〇築地 定松 京王百貨店新宿店
〒160-0023 東京都新宿区西新宿1丁目1-4 B1
〇サンフレッシュ 髙島屋新宿店
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目24-2 B1

※10月上旬まで取扱い予定(天候等の影響により変更の可能性あり)

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