BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA
鮮やかなあかね色に染まったぶどう「サンシャインレッド」。パンッと張った果皮に光が当たってキラキラしていた。口に入れれば、フローラルでマスカットのような華やかな香りに包まれ、すっきりした甘さがあとを引く。皮ごと食べられ、種はない。約15年かけて山梨県が開発し、2022年に品種登録された期待の新星だ。
近年、高級ぶどうが大人気になっている。最近のトレンドは「皮ごと食べられる」「種なし」「大粒」「高糖度」。火付け役は「シャインマスカット」だ。マスカットの女王と称賛されるこのぶどうの栽培面積は、国内主要品種の「デラウェア」や「巨峰」を抜いて昨年、トップに躍り出た。
「シャインマスカット」の登場は日本中に、いや海外にもぶどうファンを増やし、高値で取引されることで、ぶどうという商品の市場での存在感を高めた。最近は、「ポスト・シャインマスカット」に熱い視線が集まっている。
夢の“皮ごと食べられる赤いぶどう”が生まれるまで
山梨県で開発された「サンシャインレッド」の誕生ストーリーを伺いに、山梨県果樹試験場へ向かった。JR山梨市駅から車で10分ほど。山の中腹にある試験場は日当たりもよく、さまざまな果物が育てられていた。
「サンシャインレッド」の開発に実際に携わった育種部の研究員・小林正幸さんは言う。「『サンシャインレッド』の開発は、生産者や市場からのリクエストで始まったんです」。”シャインマスカットのような、皮ごと食べられる赤いぶどうを作って欲しい”。赤と緑のぶどうが売り場に並んでいたら、華やかで人目をひく。彩りが美しいので贈答用にも重宝されるに違いない。山梨県のぶどう栽培の更なる発展のためにもなる。そんな期待を背負い、赤系シャインマスカットの開発が始まった。
ぶどうの新品種の開発は、まず目標となるぶどうの特性を決めて、その遺伝的形質を持つぶどうを交配し、育ったぶどうの種を採ることから始まる。さまざまな組み合わせを試すため、多くの苗木ができる。その苗木を畑に植え、ぶどうが実ったら、風味や色などを検査する「果実調査」を行う。毎年、100種類以上の果実を調査し、品質が高いものだけ残し、他は伐採してしまう。気候による影響もあるので、厳しい果実調査を何年も繰り返し、栽培のしやすさなども考慮に入れて、複数年、品質を保ち続けたものだけが最終的に残る。
新品種の開発だからといって特別なことをしているわけではない、と小林さん。「同じことを地道に繰り返すだけなんです。スタートしてから10年以上かかるプロジェクトなので、完成を見られずに他部署に異動になることもあります」。
「サンシャインレッド」は、「シャインマスカット」と山梨県育成品種の赤系ぶどう「サニードルチェ」のかけ合わせで生まれた。この交配が始まったのは2007年までさかのぼる。
「大変だったことですか? 数多くのぶどうの中から『これだ!』と思えるぶどうに巡り合うことですね。毎年100種類以上を調査しても、粒が小さかったり、赤色にならなかったり、皮ごと食べられなかったりがほとんどです。『サンシャインレッド』の栽培では、きれいな赤色に仕上げるのに苦労しました。このぶどうは、日光に当てないと着色しない特性があります。果粒の着色をよくするために、試行錯誤して、今の白い不織布の傘とシートを使って着色させる方法に辿り着きました」
ぶどうの房ひとつひとつに白い傘をかけ、下に白いシートを敷けば、直射日光に当たらず、傘とシートの反射によって光を当てられる。この方法で、鮮やかな赤色に着色できるようになった。
「サンシャインレッド」が宿す、未来への希望
「サンシャインレッド」の栽培にすでに着手している農家もある。ぶどうは苗木を植えてから4年ほどで出荷できるほど実が成るのだそうだ。新品種の栽培法を研究し、農家へ伝える役割を担っているのが、JAフルーツ山梨の出資型農業法人として設立された「株式会社あぐりフルーツ」の取締役・反田(そった)公紀さん。
今回、「サンシャインレッド」の栽培法を研究し、育てた手応えを語ってくれた。
「まず、色が美しい。シャインマスカット系で強い香りを持つぶどうは少ないのですが、『サンシャインレッド』は『マスカット ・オブ・ アレキサンドリア』のような甘い香りがして魅力的です。他県でも、赤系シャインマスカットの開発に力を入れていますが、まだ市場には出回っていません。このおいしい赤系シャインマスカットには、山梨県のぶどうの生産者、ひいてはぶどう市場全体に明るい未来をもたらしてくれるでしょう」。
現在、「シャインマスカット」は主に香港と台湾へ輸出され、高値で取引されている。赤系シャインマスカットとして認められれば、今後の輸出拡大に期待できる。
15年の歳月をかけて生まれた「サンシャインレッド」。まだあまり市場には出回っていないが、今年はいくつかの場所で手に入れられると言う。一足先に、そのロマンを味わってみてはいかが。
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