BY MASANOBU MATSUMOTO
ファッションブランドにとって広告ビジュアルやムービーは、ランウェイのセットと同様に、コレクションの世界観やメッセージを伝えるひとつの表現だ。ときにフォトグラファーや映画監督と協業し、デザイナーが頭の中で描くビジョンを明確なイメージで紡ぎ出していく。
グッチ生誕100周年を祝して、東京・天王洲 B&C HALL・E HALLで9月24日(金)に開幕する『Gucci Garden Archetypes』展は、こうした広告キャンペーンが主題だ。フォーカスされるのは、アレッサンドロ・ミケーレがブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任して以降、6年の間に制作された広告写真やムービー。その世界観を、コレクションアイテムやオブジェを交えながらインスタレーションで再構築し、立体的に鑑賞者に体験させる企てだ。
「この6年間の冒険に人々を誘い、空想の世界や物語、驚きやまばゆいきらめきをめぐる旅をともにするのは、面白いことだと考えました。そこで、広告キャンペーンの世界に入り込んだような臨場感にあふれる遊びの空間を創ることにしました。なぜなら広告キャンペーンは、私のイメージをもっとも明快に体現しているからです」とアレッサンドロ。
本展で振り返ると、グッチの広告キャンペーンのストーリーがじつに多彩であることがわかる。テクノロジーや音楽、旅、ポップカルチャーに着想された独自のビジョンを打ち出し、またときにファッション的な美しさだけでなく、“あるべき生き方、あるべき未来とは何か”といった思想や哲学も鮮烈に提示してきた。
2018年プレフォールのキャンペーンは、“Gucci Dans les rues(路上にて)”。ちょうどフランス五月革命から50年の節目を迎えるシーズンで、当時の“美しき反乱者”をたたえながら、今を生きる若者の背中を押した。2017年に発表されたグッチ初の女性用フレグランス「グッチ ブルーム」の広告では、女優のダコタ・ジョンソン、フェミニスト・アーティストで写真家のペトラ・コリンズ、また女優でモデル、トランスウーマンのハリ・ネフを起用。アレッサンドロが思う、新しい包括的な“モダンフェミニニティ”のビジョンを映し出した。
近年、いわばビジョナリーとして大きな影響力をもつアレッサンドロ。その鋭くも創造性に富んだ頭の中を、本展を通して覗き込むことができるだろう。