摂氏45度近い気温の中での試合。

フェデラーは時折「カモン!」と雄叫びを上げる以外、言葉を発さず、感情を顔に出さない。

「いかに効率よく勝つかを常に考えている」と語る彼の試合運びは

アングルの深いショットの連続で、圧倒的に速い


CLIVE BRUNSKILL / GETTY IMAGES SPORT

 カリフォルニア州、砂漠地帯のインディアンウェルズ。灼熱の太陽の下、ロジャー・フェデラーがコートに姿を現した。「ロジャー、俺と結婚して!」。野太い声の男性ファンが叫ぶと約2万人の観客がどっと笑った。対戦相手と最初の一球を打ち合う前から、フェデラーは会場をすでに自分の「庭」に変えていた。


 四大大会に次ぐ規模のテニストーナメントである、マスターズ1000のインディアンウェルズ大会。毎年3月に開催されるこの大会のオーナーは、世界でも10本の指に入る億万長者で、IT企業オラクルの創設者のラリー・エリソンだ。彼はすべての試合コートにデジタル審判設備をいち早く設置した。試合を観ながら食事ができる「NOBU」や「Spago」などの高級レストランが、大会中の2週間のみ会場内で営業し、超有名シェフが腕をふるう。「20万ドルもするキッチン設備をエリソン氏が導入してくれた」と語るのは、Spagoのシェフ、ウルフギャング・パックだ。NOBUの松久信幸シェフは選手にてんぷらの盛りつけを披露する。


 コートぎわの高価な席は白人富裕層の社交場で、客たちはシャンパングラス片手に試合を見る。そしてオーナーの招待客専用のVIP席では、ビル・ゲイツがエリソンと並んで観戦している。IT長者ふたりが、UFOが降りてきそうな砂漠の真ん中でテニスの試合を眺める光景はシュールだ。観客の白人率は圧倒的に高い。日本人選手の西岡良仁の試合を記者席で見ていた私が、大会スタッフに「君、ニシオカのワイフ?」と聞かれたぐらい有色人種の客は少ない。


だが一歩会場を出れば、炎天下の大会駐車場で働く男性の9割はメキシコ系だ。大会の看板スポンサーはフランスの金融機関BNPパリバ。ロレックス、エミレーツ航空など、富裕層狙いの企業もスポンサーに名を連ねる。フェデラーの試合の120秒間の休憩中、巨大画面にフェデラー本人が出演するロレックスのCMが流れ、対戦相手も客もそれをあたりまえのように眺めるのだ。